第83話『わたしはお料理名人!』
オフステージ(こちら空堀高校演劇部)83
『わたしはお料理名人!』
自慢じゃないけどお料理はからっきし。
目玉焼きくらいはできるけど、あとはカップ麺にお湯を注ぐくらいのもの。
十八歳にもなって、このザマなのは家庭環境によるところが大きいんだけど、言いだすととんでもないグチりになるので控えておく。
母も祖母も十分承知しているので、この一週間はデリバリーを手配してくれている。
ところが、このデリバリーさんが食中毒を出してしまって、二日目から止まってしまった!
お母さんはヌカリのない人で、デリバリー以外の手配もしてくれている。
わたしの口座に『おもてなし資金』を振り込んでくれていて、それを下ろせばしのげるようになっている。
でも、これは万一の時の保険のようなもので、このお金で食材を買うことはできるけど。その食材でもって、わたしが料理することがどんなに無謀なことなのか……これには目をつぶっている。
こんなところにも、日本人の安全保障への脳天気さが現れていると思うんだけどね。
一週間だけのことだから、店屋物とか食べに行くとかという選択肢も一般的にはあるんだけど。
シスコでミッキーんちに滞在している時に「ミハルの料理の腕はすごい!」ということになってしまっているのだ。
これは日本と日本人への過剰な期待というか幻想が元になっていて、ま、多少の見栄とかもあって、ミッキーとその家族の思い入れを否定しなかったわたしにも問題がないわけじゃない。
だって、一か月後にミッキーがわたしんちにホームステイするなんて、この大阪にミサイルが落ちてくるよりも確率が低いんだもん!
でも、デリバリーを頼んでいたじゃない?
それはね、こういうこと。
「わたしが作ったら美味しくなりすぎるのよ。一般的な家庭料理を堪能してもらうには、このデリバリーが一番なの!」
と苦しく押し切った。
「もう少し一般的な家庭料理ができるようになったらご馳走するわ」
自分へのフォローも忘れなかった。
こういう屁理屈の立て方は、我ながらすごいと思う。ひょっとしたら国会議員に向いているのかもしれない。
いろいろあって、放課後の空堀商店街をミッキーと二人で歩いている。
恥を忍んで演劇部のミリーに相談したんだ。
ミリーは、もう四年も大阪に居る。
ホームステイ先は黒門市場で魚屋さんをやっている渡辺さんだ。
渡辺さんは魚料理の他にも調理の腕はハンパじゃなくて、ミリーもその薫陶を受けて、かなりのものになっているらしい。
演劇をちっともやらない演劇部だけど、お茶とお料理はなかなかのものらしい。
お茶は千歳、お料理はミリーなんだ。
松井須磨と小山内啓介も、なにか持っていそうなんだけど。生徒会の諜報能力をもってしても、この二人については分からない。
「協力してあげるわ、とりあえず食材は揃えておいてちょうだい」
協力を約束してくれたミリーは綿密なリストを書いてくれた。
「魚だったら黒門市場の方がよくない?」
「ばかねえ、最初からそんな美味しいもの揃えたらハードル上がりっぱなしになるじゃないのよ!」
なるほど、ミッキーのホームステイは三か月はあるのだ。
「それに、下校途中に買い物しておくって、とても自然じゃない」
「なるほど……演劇部のくせに思慮深いじゃない」
「うるさい!」
ミリーは大したもので、空堀商店街のどこにいけば何があるかをしっかり把握している。
わたしは家事とお料理のエキスパートとしてミッキーを連れまわした。
「すごいね、商店街がみんなお馴染みさんなんだ!」
「まーね」
学校の制服を着て「あれとそれください」とテキパキしていれば、どこのお店でもお得意さんぶっていられる、地元商店街の有りがたいところよ♪
「あら、生徒会の副会長さん」
声が掛かったのは、食器洗剤を買いに入った薬局だった。
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