第63話『思い出のサンフランシスコ・1』
オフステージ(こちら空堀高校演劇部)63
『思い出のサンフランシスコ・1』
クチュン!
千歳がかわいいクシャミをしたのは、空港からのシャトルバスを下りてジェファソンホテルに向かう途中やった。
「ごめんね千歳」
ミリーがアメリカ人を代表するように謝る。
「ううん、初めて来たんだから仕方ないわよ」
そう言って千歳は首に巻いたカットソーを締め直した。
「えと、この坂を上るんだよ……」
須磨先輩がスマホのナビを見ながら当たりを付ける。
「オーマイゴッド!」
ミリーが英語で驚く、ミリーの英語は新鮮や。
俺らは無言やったけど驚いてないわけやない。驚きすぎて声が出えへん。
ハワイの次にサンフランシスコに来てる。
特に決めていたわけやないけど、四人でそれぞれスマホに入力したら決まってしもた。
認識不足が二つあった。
夏やと言うのにサンフランシスコは暑くない。というか寒い。
四人とも予備のTシャツやらカットソーを取り出して重ね着したり、千歳みたいに首に巻いたり。
ネイティブアメリカンのミリーは責任感じて小さくなってる。
ネイティブいうてもミリーはシカゴ。千キロ以上離れた行ったこともないサンフランシスコのことに詳しなくても仕方ない。
もう一つ困ったのが坂道。
千歳はいつもの電動車いすとは違って、スペアの人力車いす。
重量が嵩むのとバッテリーの心配から人力にしてる。
それが、この坂道では介助で押すにしても大変そうや。
「交代で押して行こう、ワンブロックずつ交代したらいけると思う」
「すびばせ~ん、クチュン!」
「謝るなって、みんなで選んだコースなんだから」
2ブロック行ったところでバテてしもた。
空堀のあたりにも緩い坂道はあるけど、こことは比べ物になれへん。
一筋横の通りには電車が走ってるけど、検索したらケーブルカーとあった。
並の電車ではこの坂道は登られへんねやろなあ。
途方に暮れてると後ろから声が掛かった。
振り返ると……バスケットの選手かいうくらいごっつい黒人のニイチャンが二人いた。
「どこまで行くのかって……よかったら手助けするよって言ってる」
ありがたい申し出やねんけど、通訳してるミリーの表情は硬い……むっちゃ硬い。
ニイチャン二人の笑顔が、ものごっつい不気味に思われてきた……。
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