第45話『ブタまんは時空を超える・2』
オフステージ(こちら空堀高校演劇部)45
『ブタまんは時空を超える・2』
四十年……四十三年前のあの日
今日と同じようにブタまんを食べながら雨が止むのを待ってたんや。
遠い目をして薬局のオヤジは語りだした。
「どや、完璧な出来やぞ!」
ドアを開けると、ドラマの闖入者のように薬局が吠えた。
「ハーーー薬局、先走りし過ぎやぞ」
部長の谷口はため息をつきながら目を上げた。ただでも進まない台本書きを中断させられて機嫌が悪い。
谷口の机の周りは書き損じの原稿用紙が散らばり、一年生部員たちが書き損じと書きあがった原稿を区別しながら整理している。
部員たちの前には乾いたブタまんの敷紙がそっくり返り、待ち時間が長かったことを示している。
薬局は、その敷紙やらスナック菓子の残骸を蹴散らして大きな寝袋のようなのを置いた。
「やっぱ人形使うのん?」
書きあがった原稿は利根芳子がファックス原紙に清書している。
「幕開いたときのインパクトがちがうやろ、エリ-ゼは目に見える形で観客に提示した方が、絶対にええ!」
「主人公の恋はプラトニックなもんやねんから、人形いうのは……なんちゅうか……」
「なんやねん谷口、書き上げん前からショボイため息ついとったらあかんで」
「そやけど、人形使うんやったら、エリ-ゼの魅力が出てるもんやないと、かえってマイナスやで」
「おまえは、俺の腕を見くびってるやろーーーーー!」
袋のファスナーを開けると、それを取り出した。
「「「「「オオーーーー!」」」」」
部室のみんながどよめいた。谷口は、放課後一度も手放さなかった万年筆をポトリと落とした。
「まるで生きてるみたいじゃない……え、お、う……」
利根芳子はビックリした一呼吸あと、口ごもって息が停まってしまった。
「すごい……」
「だ、脱帽だ」
「美容整形で使うシリコンを試してみたんや」
「触ってもええ?」
「ああ、そっとな」
芳子がそっと人形の頬に触れる。フニっと触れたところが沈んで、芳子も部員たちもさらに感動した。
「先輩、いいですか」
一年生がことわって芳子の頬に触れた手で人形の頬に触れる。
「先輩よりもシットリしてるかも……」
普段なら張り倒すところだが、あまりの感動に言葉も出ない。
「これ……だれかに似てるなあ」
腕組みした谷口が呟くと、ほかの部員たちも腕組みして人形の顔を見つめた。
「「「「「…………アッ!」」」」」
一同の声が揃った。
「え、あ、なんやねん!」
「薬局、これ二組の転校生にそっくりや」
「え…………あ!?」
谷口の指摘に初めて思い至り、壊れた信号機のように顔色を変える薬局であった。
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