第32話「ミリー 啓介に抗議する!」


オフステージ(こちら空堀高校演劇部)32

「ミリー 啓介に抗議する!」                   







 ネットの時代、情報が拡散する早さは劇的だ。


 マシュー・オーエンの初期作品が日本にあった! 


 ミリーを真ん中に伯父さんと伯母さん、その後ろに空堀高校の部室棟。

 その写真とコメントがSNSを通じて世界中に拡散。

 今朝は新聞やテレビまでが取り上げて、評判が確定してしまった。


「なんでわたしが演劇部!?」


 ミリーに詰め寄られ、のけ反りながらも――こんなに可愛らしかったか?――と思ってしまう啓介だ。




「ちょっと、なんとか言いなさいよ!」

「いや、そんなこと知らんがなー!」

「そやかて、新聞もSNSでも、わたしが演劇部員で『部室棟の復活を熱望してます!』になってんのんよさ!?」

 ミリーは新聞やらSNSやらからコピーしてきたのを啓介の机に叩きつけ、勢い余ったコピーの半分が宙を舞った。

「あー、そやけど、この写真さまになってるやんけ!」

「いやあ、ほんまや、ミリー、メッチャいけてるやないの!」

「ハリウッド映画のチラシみたいやんか!」

「あたしにも見せて!」

「俺にも!」

「あたしにも!」




 始業前のクラスは、ミリーがまき散らしたチラシで、いや、コピーで持ちきりになってしまった。


 な、なんでやのん……。


 今やプロモーション用チラシになってしまったコピーにサインをするハメになってしまったミリー。




「ちょっと多すぎひん、わたし、こんなぎょうさん持ってきてへんよ!」

 サイン会の列は教室を出て廊下にまで続いている。

「自分でダウンロードしてプリントアウトしてるのよ」

「職員室でやってくれないから、向かいのコンビニ!」

「俺も、行って来よう!」

「ちょ、ちょっと!」

「もう時間ないからあ!」

「じゃ、写真だ!」

「写真いっしょに撮ってえ!」

 サイン会は撮影会になってしまった。


 あら、ずいぶん盛況……


 廊下でほくそ笑む女生徒が居た。

「あ、松井先輩!?」

「がんばってね、ぶ・ちょ・う・さん」

 ニヤリと笑って須磨は行ってしまった。


 この騒動の原因は松井先輩だろうと疑い始める啓介だった。

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