第18話「部室明け渡し!?」


オフステージ(こちら空堀高校演劇部)18

「部室明け渡し!?」                   



 お互いネコのようだと思った。


 普通教室まるまる一個分の部室に3人しかいない。

 その3人が、互いに関わることも、3人揃ってなにをするでもなく、好きなようにしている。

 啓介は、ヘッドホンをして好物の冷やし中華を食べながらスマホを弄っている。

 千歳は、チェーホフの短編で隠すこともしないでワンピースを読みふけっている。

 そして、須磨が一番ネコらしく、椅子を並べた上に丸く寝そべって寝息をたてている。

 

 放課後になって部活が始まってから、ずっとこんな調子だ。


 かりに誰かが3人を撮っていて、部活の始まりから観ていても、この3人が演劇部であることは見抜けないだろう。

 それもそのはずで、啓介は、校内で隠れ家が欲しいだけで演劇部の看板を利用している。車いすの千歳は、学校を辞めるに足る部活参加の実績を作って、一学期末には「空堀高校でがんばったけどダメだった」と周囲を納得させるためだけに入部し。4回目の3年生をやっている須磨はタコ部屋(生徒指導分室)以外の部屋に行きたいために4年ぶりに復活している。


 この昼下がりのネコカフェのようにアンニュイな静けさは、30分おきに小さく破綻する。


 目をつぶったま須磨はムックリと起き上がり、尻を軸として180度旋回し、再び横になる。

 まるで猫のように膝を曲げるので、スカートの中が丸見えになってしまう。

「っつ……千歳、頼むわ」

「啓介先輩が移動すれば?」

「もう2回移動した。それに今は食事中やし」

「もう……あたしは足……」

「うん……?」

「なんでもない」

 千歳は足が不自由なことを言いわけにはしない。口をつぐむと床に落ちた毛布を拾って須磨の体にかけてやる。

「こんど目が覚めたら、スパッツとか穿くように言うてくれへんかなあ」

「きのう言った。暑くなるからやなんだって」

「…………」


 そして、再びアンニュイな淀みが部室を満たし始めた時、ドアがノックされた。


 入ってきたのは1週間ぶりの瀬戸内美晴だ。


「……あら、3人になったの?」

「あ……うん。これくらいで堪忍してくれへんかなあ」

「なに寝ぼけてんのよ。あたしは5人と言ったのよ。ちゃんと生徒会規定に則って」

「あ、でも、そこの松井先輩は6年目で4回目の3年生だし」

「ええ、そう。松井先輩1人で3人分くらいの値打ちあるんじゃないかしら」

「2人とも、寝言は寝てから言ってくれる。規定は規定、揃わなかったんだから、週末までに部室を明け渡してね。じゃ」

「ちょ、ちょっと副会長!」


 回れ右をすると美晴は、そそくさとドアの外に消えて行った。


「ちょ、ちょっと、どうにかならないの!?」

「3人で……いや、2人で、もう一度話しにいこう!」


 あわただしく2人は美晴を追いかけ、三度目の寝返りを打った須磨だけが残された。 

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