第14話「1つだけ影響があった」


オフステージ(こちら空堀高校演劇部)14


「1つだけ影響があった」                      







 予感はしていたが校長室に呼ばれた。


「沢村千歳さんのチャレンジ精神と、それを受け入れた小山内啓介君の前向きな心に拍手を送りたいと思います」

 校長のお祝いの言葉はテイク3でOKが出た。

 千歳と啓介は恭しく、校長の励ましの言葉がしたためられた色紙を受け取った。




 パシャパシャパシャパシャパシャパシャ


 すかさずフラッシュが光り、連写のシャッター音が続く。


「なんとか夕刊に間に合います」

 A新聞の記者が――嬉しいでしょう!――と言わんばかりの笑顔で言った。

「3人並んだところの写真なんかいりませんかね?」

 理髪店の匂いをプンプンさせながら校長が言う。A新聞の取材を聞いて、校長は1時間の時間休をとって散髪に行ってきたばかりである。

「連写した中から選びます、自然な感じなのがいいですから。動画も撮っていますので、それはネットで流れますから」

 天下のA新聞だ、どうだ嬉しいだろう! というマスコミ笑顔で記者はとどめを刺した。


 千歳は身障者対応の自販機の前で撮った『乾杯の写メ』を付けてブログに載せると共に、主要四大紙に送った。


 予想通りA新聞が食いついてきた。完全バリアフリーモデル校である空堀高校の演劇部に車いすの女生徒が入部したのである。こういうことが大好きなA新聞の地方欄にはうってつけだった。

 こうして、千歳の演劇部への入部は空堀高校のエポックになった。

 エポックというのは、それ以上でもそれ以下でもない。

 だから、校長が予定よりも2週間早く散髪に行った以外には、世間も学校も、取り立てて何もしてはくれない。


 そんなこと、千歳は百も承知だ。


 


 千歳は「千歳は頑張っているんだ」という熱意の発信ができればいい。この発信のポテンシャルが高ければ高いほど学校を辞める時は「仕方が無かった」ということになる。

「大丈夫よ、新聞の地方欄なんてほとんど注目なんかされないから」

 隠れ家としての部室が欲しいだけの啓介は新聞社なんかが来て、少し不安になっていた。まっとうな演劇部活動をやろうという気持ちは毛ほどもない。ないから不安になる。しかし、千歳の見透かしたような物言いには、どこかカックンとなってしまう。


 だが、1つだけ影響があった。


「部員の充足、もう一週間待ってあげるわ」

 生徒会副会長の瀬戸内美晴がポーカーフェイスで伝えに来た。

「え、どういう風の吹き回しやねん?」

「校長の申し入れよ。あたしもうかつだった、校長が居るのにも気づかなくて生徒会顧問に確認したのよ『演劇部の部室明け渡し、今日確認します』て、そーしたら『もうちょっと待ってやってくれへんやろか』て言われたのよ。むろん、校長とはいえ素直に聞く気はないけどね、クラブ部長会議やる視聴覚教室の許可願の不備を突かれてね。ま、それで一週間延期。一週間延ばしてもなんにも変わらないだろけど、フェアにやりたいからね。ほんじゃ……」


 千歳は、もう一工夫やってみる気になってきた……。

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