第93話 異邦人

1968年のイタリア、フランス映画です。


戦後のノーベル文学賞最年少受賞作家アルベール・カミュの原作を、ルキノ・ビスコンティが映画化した。


原作は、「きのうママンが死んだ」という印象的な一文で始まる、20世紀文学の代表作とさえ言われた小説で、不条理の文学として一世を風靡した。


主人公の名はムルソーといい、一説によるとmourir(死ぬ)のムルと、soleil(太陽)のソーをくっつけた、と言われている。


このムルソーは一見何に対しても無気力で執着がなく、母の死に際しても涙を流さない、恋人マリーにわたしを愛しているか、と聞かれても、良くわからないが、たぶん愛していない、でも君が望むなら結婚しよう、というような受け答えをする、ちょっと理解に苦しむ男なのだ。


友人たちと、ある日海に行ったムルソーは、1人になった時、いざこざのあったアラブ人を銃で撃ち殺してしまう。

しかし、これだけだったら小説でも映画でもよくあることなのだが、彼はさらにその息絶えたアラブ人に4発(だったと思う)の弾丸を打ち込む。


やがて裁判になった時、彼が、母の葬式で涙を流さなかったこと、アラブ人に何発もの弾丸を打ち込んだことが問題視される。

そしてアラブ人を撃ち殺した動機について、ムルソーは「太陽のせい」と答える。


この、普通の人間的な情緒の一貫性に欠けたムルソーは死刑の宣告を受けるが、牢獄でも司祭の話を聞かされても神に救いを求める事は決してない。


そして死に際して、自分は幸福だったと思い、残る希望は刑場で人々から罵声を浴びせられることだけだった。


実は私は高校生の頃、この作品が大好きな大学院生がいて、勧められて精読したが、どうもよく理解できない気がした。


映画も、ムルソーを、マルチェロ・マストロヤンニが演じたが、この有名な俳優はチョットミスキャストのように思えた。


ちなみにあのアラン・ドロンがムルソー役を強く望んでいたと聞いて、ますますこの小説は哲学的でありながら、何とミーハー的なのだろうと思ってしまった。


付け加えると、アルベール・カミュは若くして自動車事故で亡くなったが、暗殺されたという説まであって、何だか作品もよう分からんが、人もよう分からんのであった。

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