第90話 髪結いの亭主

1990年のフランス映画です。


なんともユニークな映画である。


サクランボの飾りのついた毛糸の、母が編んでくれた海水パンツの思い出話から話は始まる。


この少年アントワーヌは、12歳だが、ある理髪店のシェファー夫人の体臭と、大きな乳房が好きで、その理髪店に通う。


ある日、シェファー夫人は鎮痛剤の飲み過ぎで他界する。


しかしアントワーヌは、運命づけられていたかのように、中年を過ぎた頃、理髪店を経営する美しいマチルドという女性と結婚し、至福の日々を過ごすことになる。


陽光をふんだんに取り入れた色彩豊かな画面が、どうということはないが、しかしちょっと奇妙なエピソードの数々を綴っていく。


ところがある日、雷雨が町を襲った日、マチルドは買い物に行くと言って家を突然飛び出し、そして・・・。


通俗的なことを言えば、毎日の3食を誰が作り、誰が皿を洗うのかとか、マチルドが仕事をしている間、ただ、何もせずに椅子に座っている夫と、どうして夫婦生活がうまくいくのかとか、疑問を持てばキリがない。


しかしこの映画はそうした現実を離れ、時を忘れ、一幅の幻想画を見るように楽しむのがいいようだ。


ラジカセの音楽に合わせてアントワーヌが踊るユーモラスな踊りも一興だし、この映画の中で、それは重要な意味を持っている。


作品のそうした様々な構成要素はよく考えられており、最初から画面が丹念に作られているのを見れば、この映画は実は深い思索から生まれたものであることは間違いないと思う。


じっくり練り込まれたユーモア溢れる逸品。

そんな表現がしっくりくる映画だ。

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