第87話 存在のない子供たち
2018年、レバノン、フランス映画です。
随分以前から、海外の貧しい子供を月五千円で学校に行かせてあげようとか、そうした類いの支援が存在する。
読者さまの中にも、やっておられる方がいらっしゃるかもしれない。
私も今まで、どれだけ自分のお小遣いの一部を寄付しようと考えたかわからないが、どうしても一歩が踏み出せなかった。
そうした国では何の考えもなく、両親が子供を次から次へと産む。
しかし産んだはいいが、ほったらかしで世話をしない。自分の家族の食いぶちを幼い頃から稼がせる。
もちろん子供に罪はない。
しかしこういう親たちのことを考えると、おいそれと簡単に支援する気にならないのだった。
彼らに必要なのは、支援よりも、もっと他に沢山あるような気がしたのだ。
この映画の主人公ゼインは、
「世話ができないなら産むな!」
と訴え、自分を産んだ罪で両親を訴える。
まさにここに、この映画のテーマがあると思う。
最愛の妹は11歳で結婚させられ、無理な妊娠、出産から命を落とす。我慢できなくなったゼインは、包丁でその夫を刺し、5年の禁固刑を言い渡される。
そこに至るまで、ゼインは妹の結婚をきっかけに家を飛び出し、ラヒルというエチオピア難民の女性に拾われ、赤ん坊の世話をすることで、バラックの家に置いてもらう。
このゼインの日々を追うことで、社会の病巣や人々の悪辣な所業が露わになっていく。
私ははじめ、この作品をドキュメンタリーかと勘違いしたほど、出演者はリアルな素人の人々で、演技は真に迫っており、カメラは始終手持ちのドキュメンタリータッチだ。
作り手の気持ちがじかに伝わってくる。
カンヌ国策映画祭で審査員特別賞を受賞した。
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