第72話 烏丸千弦さま パフォーマンス/青春の罠
『パフォーマンス / 青春の罠』
監督:ニコラス・ローグ 1970年 イギリス映画
ボスの命令に背いて殺人を犯したギャングのチャス(ジェームズ・フォックス)。
ターナー(ミック・ジャガー)という男が部屋を貸そうとしているという話を聞いたチャスは、組織から身を守るため、その部屋に転がり込む。
化粧をした、中性的なターナーは引退したロックスターで、ファーバー(アニタ・パレンバーグ)というブロンドの女と、もうひとりフランス人の若い女、ルーシー(ミシェル・ブルトン)と一緒に暮らしていた。男か女かわからない三人の乱れた性生活やドラッグ――その頽廃ぶりに困惑するチャス。しかし、一緒にドラッグに酔ったりしているうち、チャスは次第に自分とは正反対のターナーに影響されていく――
……というのが大まかなあらすじである。
この映画の主演はミック・ジャガー、あのローリングストーンズのフロントマンである。そして、アニタ・パレンバーグは嘗てそのローリングストーンズのメンバー、ブライアン・ジョーンズの恋人であった。そして、この映画の撮影時にはローリングストーンズのギタリストであり、ミックの幼馴染でもあるキース・リチャーズの恋人で、後に子供ももうける事実婚のパートナーであった。
そしてさらに、この映画の共同制作者であるドナルド・キャメルも、ストーンズと出会う前にアニタが付き合っていた男だ。キースは、恋人のアニタがこの映画に出演することが決まり、共演がミックで濃厚なベッドシーンまであることを知ると、キャメルの陰謀だ、出るなと怒り狂ったそうである。しかし、アニタは男の云うことを聞くような女性ではない。実際、ラブシーンどころの話ではなく撮影期間中、ミックとアニタは関係を持ったことが後に取り沙汰されている。それをわかっていたのか、キースは撮影期間中、近くに停めた車でアニタを待ち、楽屋などには決して近づかなかったそうだ。そのかわりかどうかわからないが、当時のミックの恋人マリアンヌ・フェイスフルと、キースも一度だけ浮気をしたらしい。マリアンヌはそのことについて、未だに冗談を云うそうだ。「あなたの靴下、まだ見つからないわ」と。もう、映画以上にごちゃごちゃである。
そのマリアンヌは、ミックがターナー役をやることが決まったとき、台本読みに付き合いながらこうアドバイスしたそうだ。「自分をブライアンだと思ってやってみて。あの自暴自棄で、中性的で、薬漬けになってる彼を意識するの。でもタフで法律も気にしてないようなキースの面も取り入れなきゃダメよ。ふたりを巧くミックスすればいいわ」
しかし、映画を観る限り、ミックはあまりそのアドバイスを活かせていないように思える。もともとアッパーミドルクラス育ちで常識人なミックは、中性的で妖艶ではあったが、あまり危ない奴という感じはしなかった。この作品のなかで圧倒的存在感を放っているのは、アニタのほうだろう。思わずはっとするほど美しく、セクシーだが、危険で近づき難い感じ。だけど毒婦というにはキュートすぎる。天真爛漫な危うさというのだろうか。
ミックの見どころは、ロバート・ジョンソンの〝
劇中でミックが歌う〝
と、まあ一部の層にしか興味を持たれなさそうなカルトな映画ではあるが、クエンティン・タランティーノやガイ・リッチーなどに影響を与えている、時代が変わるにつれて注目度を増してきた貴重な作品だ。謎めいたラストシーンも、ちゃんと伏線を読みとればそれほど難解でもない。
なんとなく六〇年代のサイケデリックな雰囲気に浸りたければ、お薦め。
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