第17話 サヨナラさえ上手に言えなかった

「先生、何か抱えてない?」

 マシューが囁いた。

「……うん」

 キョドってる花の腕の中には、何やら小さな紙の束があった。

「……どうする?」

 ドアを閉めて、部屋にもう一度戻るとマシューが言った。

「私は一応部外者だから見ない。たぶん今日、可燃物の日だから裏のゴミ捨て場持ってくんだと思うけど。……繭は見たい?」

「えっ」

「見るか、見ないか。まー、こーゆー場合、見ない方がいいっていうのがセオリーだけどね」

「そーなの?」

「うん。私も、ねねとケンカしてる時にさ、廊下でねねが私の事話してたんだ、友だちと。あ、なんだかんだ言って大好きなんじゃーんって思って近寄ったらさ、ボロクソ言われてて。『あの一筆書きが!』とかって」

「そーなの」

 思わず繭は吹き出した。


「おおかた、昔の恋人とか好きだった人との手紙とか写真類じゃない? 先生、古い型の人間だから」

「言い方…。でもわかった。考えてみる」

 そう言いながらも。

(見ない)

 繭は、決めていた。

 だって、あの花ちゃんが捨てたいってゴミ箱に捨てるモノだもん。

(私は見ない!)



 繭たちが、

「行ってきます!」

 玄関を出た時だった。

「アラ、いやだ。またカラスとネコよ。もおー」

 裏庭にまだ捨てる前のゴミが散乱していた。

「あ、マシュー先行ってて。今日朝の放送うちらでしょ? すぐ追いかけるから」

「わかった。用意しとくよ」

 マシューは頷いて、繭のカバンを手に取った。


「万副さん、手伝うよ」

 素早く繭もホウキを手にした。

「ありがとねー、繭ちゃん」

 この時繭は、すっかりマシューとのやりとりした事など忘れていた。

 が、その時。

(あっ)

 繭の目の前にあったのは。

 美しい文字で綴られた手紙だった。

(見、見ないようにしなきゃ)

 ぎこちない手でホウキを動かして、払い除いてゆく。

 けれど。見てしまった。


 それは。

 出す事のなかった、花が、誰かへ書いた恋文だった。

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