第15話 ひみつのももちゃん
「ちっ」
違うの!
お願いマシュー、聞いて!
繭がそう言おうとしたとき。
マシューの人差し指が伸びて来て。
「繭、私に言わせて」
細く長い指が繭の唇に触れた。
「へっ?」
「でもとりあえず、下着とルームウェア着てきなよ。マユ100%みたいになってるから」
「う、うん」
カニ歩きでマシューの方を向きながら、とりあえず自分の部屋に入った。
-コン、コン-
「いい?」
繭の部屋のドアが開いた。
「うん」
「相変わらず殺風景だね」
言いながら、床にマシューも直座りした。
しばらくの沈黙の後、口を開いたのはマシューだった。
「私の夢、知ってる?」
「夢? マシューの?」
「そう」
「…何だろ。弁護士……とか?」
「あ、ちょっと正解。弁護士か、探偵か、あとは花っちと一緒」
「高校教師?」
「うん。社会科ね」
マシューは微笑った。
「もうすぐ万副さん来るからさ、端的に言うね」
「……うん」
「天才的頭脳な私が、一コだけ繭に対して不思議に思ってたことがあるのさ」
「……何?」
「繭とももちゃんが一緒にいるトコ、一度も見たことがないの」
(えっ……)
「ももちゃんが先生にプチギレして、梁の上に登って下りて来なかった時も、繭、その場に居なかったし」
「………」
「私の夢の職業さ、全部秘密厳守だよ」
マシューの細い目がさらに細くなったとき。
-ぷつん-
繭の心の中の奥底にある張り詰めていた何かが、音を立てて切れた。
「マシュー、今日私と一緒に……夜、過ごさない?寝る前…とか」
「……わかった」
マシューは大きく頷いた。
-その夜 マシューの部屋-
-トントン-
ノックする。
「ツインテールじゃん。カワイー」
マシューが繭の髪を、モフモフと掴んだ。
「じゃ、とりあえずチューしよっか」
座りながらマシューが言った。
「ごめん、ちょっと今は
「だよね」
マシューが笑う。
「じゃあ……、猫になったら説明出来なくなるから」
繭はそう言うと、きちんと座り直して正座をすると、
「マシューが思っている通りだよ。私がももなの。それで、もうすぐ私、ももになるから」
「何時?」
「えっ?」
「何時になるの?」
「えっと、あと10分ぐらい」
マシューは目覚まし時計に目をやった。
「OK。で、朝はいつ、繭に戻るの?」
「えーと…5時くらい」
「わかった」
「え、それだけ?」
「
「……まあ、そうだけど」
「楽しみ」
マシューは手を後ろへ引いて、リラックスしたように
やがて。
「じ、じゃあ…」
まるで初めての時のように、繭がルームウェアを脱いで、丁寧に畳んで部屋の隅に置くと、当然ながら下着姿になった。
「あ、何それー、ズルーイ」
繭の姿を見て、それまで静かだったマシューが手足をばたつかせた。
「スポーツブラじゃーん。アンダーもー。何それ、超反則なんだけどー」
「そら、そうでしょ。何で私がマシューにガチな下着見せなきゃいけないの? 花ちゃんにだってまだ見せてないのに」
「うーわ、サイアク。協力してあげようと思ってたのに。萎えたわ、何か」
「何それ。私の下着で変わるわけ?」
「そりゃ変わるでしょ。すっごい楽しみにしてたのに。生徒会長の下着姿」
そう言って足を高く上げると、足の指をピコピコ動かして、もう一度マシューが抗議をした。
その時。
マシューの目の前で。
「……え? 繭……」
繭の姿がぼやけたかと思うと、次の瞬間そこに居たのは。
白猫の、ももだった。
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