第ニ章
第11話 ずっとあなたが好きだった。
-すみれ寮 マシューの部屋-
「ごめん、何かちょっとよくわからなかった。もう一回言ってみて」
星香が繭の顔を見つめてそう言った。
「だから、先生と…、花ちゃんと付き合う事になった」
繭は、つとめて冷静な口ぶりで、もう一度ゆっくりと唇を動かした。
「やっぱりね」
「だと思ったよね」
マシューとねねは、手を繋いだままお互いを見つめ合い頷きあっていた。
「私はさ、先生の気持ちに先に気づいてたの。まあ、毎日一緒に居るし。でさ、ねねにそれを言ったら、ねねは繭の方が好きなんじゃないって言うわけ」
「そ。私は繭といつも一緒に居るでしょ。で、二人の話を統合的に重ねたら、あ、じゃあ、付き合うじゃんってなって」
『ねーっ』
って。
二人は、二人の出した
「うそ……。全然気づかなかった。え? 私が鈍感なの?」
学校一のモテ女の星香の言葉に、三人は声をたてて笑った。
「ま、隠したくなかったし」
万副さんが差し入れてくれた、蒸かしたての、まだ湯気の立っている饅頭に繭は手を伸ばした。
「あ、熱っ、でも
それを合図のように、星香以外の手が伸びた。
すみれ寮は基本寮生の他、万副さんと寮長しか立ち入り出来ないが、在校生の友人であれば招く事も出来なくはない。
その折には校長、寮長から必要書類に捺印してもらうのだが、さらにそれを万副さんに差し出す事になっていた。ここで万副さんが捺印して、校長室に再び足を運び提出すると、初めて、その門をくぐる事が出来る。
開け放たれた窓から、五月の甘い風が吹き込んで来た。
(いい風…)
湯のみに
「ねー、星香も食べなよ…」
繭がそう言った時だった。
「ねえ! 何で先生なの?」
星香が言った。
「ねえ、何で? 花ちゃん、繭より40も年上じゃん。いくら若くなって美人になったっていっても、顔だって大正ロマン系の顔じゃん」
(大正ロマン…)
確かに。
繭も思わず笑った。
でも。
星香は笑わなかった。
その様子に、ねねがふわりと饅頭を割って、片方をかじりながら、
「星香、言うだけ言ってみたら」
少し下ぶくれの白い頬を上げて微笑った。
「繭だって、何で怒ってるかわからないよ」
「何の話?」
覗き込むマシューの顔に、
「何でもないよ」
ねねはそう言って、その頰に少しだけ唇を押しあてた。
「……ん?」
繭は、全員それぞれの、まるで
(私がネコだから理解出来ないのかな)
湯のみを手にして持ち上げた時だった。
「私ずっと繭のこと好きだったのに。バスケで、次の都大会優勝したら、繭に告白するつもりだったのに!」
星香が。
ありったけの思いを込めて、繭を見つめて。
繭だけを見つめて。
叫ぶように言った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます