アリシアの計略

 コペルは地面から這い上がりながら、”ロンギヌスの剣”を抜こうとするが、力が入らない。

 残っていた破壊神の力で破壊しようとするが、その力も剣に吸い取られる。




「どう?絶対者と自惚れて隷属されていく末路は?」


「隷属……だと?」


「その剣はロンギヌスの剣。神の力と秩序を永遠に封じその力を行使する為の隷属剣です」




 アリシアは考えたのだ。

 神の力を封印するよりは神の力を利用出来ないかとその為に何が必要だったか……それはアリシアの神力だった。


 リバインの日記には神は利他的な人間などを淘汰する。

 神に狙われた以上、その内にアリシア自身も含まれている。

 では、何故、淘汰するのか?

 何故、そんな人間を害悪と見做すのか?

 その答えは簡単だった。


 日記に書いてある通りに”秩序神”にとって利他的な想いなどは毒と同じなのだ。

 だから、自分達の世界を乱す者として排除するのだ。

 なら、隷属の方法など簡単だ。

 ”神封じの剣ロン”を解析、その剣にアリシアの神力を籠め、”触媒石”と組み込んだ術で際限なくアリシアの神力を複製、神を封じ込めつつ複製したアリシアの神力を伝って神の力だけを取り出せば、良かったのだ。


 秩序神の神力とアリシアの神力の性質は真逆らしいので”浄化”と言う神術で秩序神の神力を変換、封印に使うアリシアの神力を伝って秩序神の力を行使する。

 無論、神力が通じている以上、剣に握ったアリシアの力を神を吸い取る可能性もあるが、神にとってアリシアの神力は電線であり、鎖であり、毒である為、吸い上げようとすれば自らがダメージを追うので結果抵抗は出来ない。

 それがこの”神殺しのロンギヌス”……隷属と言う名の死を与える”隷属剣ロンギヌス”の本質だ。




「つまり、お前は後、数分もすればその剣に封印され一生、わたしの奴隷になると言う事です」


「キ゛、キ゛、キ゛!キ゛サ゛マ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛!!!」




 ただの秩序であり、感情はないとまで言われた神が死を間際に激情、恐怖に震える顔でアリシアを睨みつけ、左腕の黒炎を投げ付ける。

 だが、アリシアはそれを避け、彼の視界から一瞬消え、が困惑するところに頭上から彼の頭に圧し掛かり、頭を地面に叩きつける。

 それでも憎しみを籠めるような目で上にいるアリシアを炯々に睨みつける。

 昔の自分はこんな事はしなかったが、今のアリシアは過去にないほど相当怒っていた。




「下郎が……モノを申したいなら地面に平伏し首を垂れろ!」




 アリシアは脚の力を籠めて頭を地面に圧しつける。

 地面を亀裂が奔り、コペルが残り少ない力で悶え苦しむ。




「驕慢で虫けらみたいなお前に最後に教えてやる。戦いが始まった時点でお前に勝ち目などなかった」




 M2マシンガンでバリアが貫通できず、補完神コペルがエネルギーを補完する事が出来る事以外全てはアリシアの想定内だった。

 M2マシンガンを無駄撃ちのように見せかけ、周囲に弾丸を設置する。

 それはある対策の為だった。


 アリシアはバリアが破れないと判断した時から”アサルト”で転移して、”アマテラス50式”を沈める算段だったのだ。

 だが、それには超えねばならない壁があった。

 ”アマテラス50式”の神術を妨害、無効にするフィールドの除去とコペルが使う破壊神の力だ。


 破壊神の力はこの世の全てを破壊する秩序であり、アリシアが恐れたのはその秩序で”アサルト”で跳躍する空間の繋がりを破壊される事だった。

 コペルにその事が悟られた場合、空間転移した瞬間に空間を破壊されれば、計画が破綻する。


 そこで”不浄吸収”、”浄化”を籠めた弾丸をわざと無駄撃ちして”アマテラス50式”周辺にばら撒いた。

 本来は魔物、秩序神の神力……魔力を吸収して相手を弱体化させて自分が使い易い、神力に変換する為に作った対魔物用の弾丸だ。


 それを周辺に規定値以上ばら撒き、術を遠隔で発動させれば、その瞬間、コペルの神力は低下、破壊の秩序を発動するだけの神力が無くなり、不発に終わるように環境を整え、それと同時に”アマテラス50式”のWNコンバーターが秩序神と同じ魔力を動力にしている事を解析した結果、理解した。

 そこで周辺のSWNをZWNに変換する事で”アマテラス50式”のエネルギーも低下、妨害、無効を行う”AZWNアンチ・シオン・ウィルニュートロンフィールド”の効力も低下させた事でアリシアは敵の”守護魔術”を突破する為に切り札に”神破壊術”を行使、”アマテラス50式”の息の根を止めた言う訳だ。


 その為には”不浄吸収”と”浄化”を籠めた弾丸の周りに”アマテラス50式”を固定座標に置く必要があったので”アース・ハンド”で動きを封じたのだ。

 あそこで強引にでも”アース・ハンド”を破っていたら勝敗は分からなかった。

 更に油断させる為に最後の黒炎の爆発を恰も致命傷に見せる為に跪く演技をして、実は倒した破壊神から奪った力であの黒炎の秩序を逆に破壊して無傷なのに右腕が破損したように見せる為にわざと破壊の秩序で壊して油断を誘う演技をしていたのだ。

 それを聴いたコペルの顔が青ざめ、苦々しく歯を軋ませる。




「分かる?つまり、お前など最初からわたしの策に嵌った神様気取りのただの道化と言う事です。全てはお前の驕慢と言う名の油断が招いた因果応報だ。全ては相手の立場になって作戦などを考え敵を蒙昧と決めつけ、その行動1つ1つを見下し、悠々と武力と力を振り回しただけの烏滸がましく神の名を騙り、その栄光を汚したその罪をその身で受けるが良い!」




 コペルを泣いて歯軋りを浮かべながら最後の力を振り絞り、組み伏せられた状態で右腕をあらぬ方向に曲げながら、アリシアに黒炎を放とうとした。

 だが、その一撃は王都側から放たれた光の矢で腕を貫かれ……そして、頭を貫かれ事切れた。

 そして、彼の胴体が消え、コペルは剣に封印された。




 ◇◇◇




 王都では……




「国王陛下の命通りアリシア・ズィーガーランドなる人物に敵対している女の首を刎ねました」


「よしご苦労!そのまま監視を続けろ!」




 カシムの連絡を受けた王国はワイバーン用光魔術式バリスでアリシアを支援した。




 ◇◇◇





 そして、戦争の様子を遠くの空に浮かびながら、眺める黒いローブを羽織った緑色の仮面をつけた男が見つめていた。




「近くを通って気になり見ていたが……中々興味深いな……」




 男は神妙な面持ちで目の前に見えるAPを眺めていた。

 正直、1人の魔術師としてあのAPと言う蒼い巨人のパイロットには敬意を抱いていた。




「神を封じ、その力を使役する。何とも常識外れなことをする。それ故に愉快ではある」


「アイズ様」




 後ろを振り向くとそこにはナーベスの1人デッドが立っていた。

 鋭い眼光をした赤髪の中に白髪が混ざった執事風の格好をした白毛を伸ばした50代くらいの風貌だ。




「何か分かったか?デッド」


「落ちていた帝国の通信機で調べたところによるとあの者はアリシア・ズィーガーランドと言うそうです」


「ふん……アリシア・ズィーガーランドか。よもや、その名を語るとは物好きなのか?それとも……何かの宿願か?」




 アイズは遠くで掌サイズに戻った”ロンギヌスの剣”を回収する蒼い髪の美しい女性を見た。

 彼にあるのは彼女に対する純粋な興味だった。

 高い戦闘能力や通常の魔術師が感知できない高位で膨大な神力がこの距離でも濁流の様に伝わる。

 どれほどの研鑽を積めば、その域に達し、一体どうやってその剣を作ったのか根掘り葉掘り聴きたい衝動に駆られるが自重する。

 彼女が味方なるかどうかすら分からないので今はやめておく事にした。




(ただ、あの弾丸は興味深い……記念品として貰っていくか……)




 アイズは彼女に気付かれぬように遠くから弾丸の1つに魔術を付与した。

 これで彼女がいなくなった後に弾丸が自然と自分が指定した場所まで引き寄せられる。

 多くの荷物を運ぶのが、面倒だったので編み出した能力の無駄遣いとも言える名前すらない”力場操作術”の応用だ。




「帰るぞ。デッド」


「はぁ!」




 こうして、誰にも気づかれないようにその場を指した。

 アリシアが東の空からの視線と気配を感じて振り向いたが、その時には男の背中が見せただけだった。

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