大戦1

「邪魔立てするなら容赦はしない!」




 アリシアが左手に”来の蒼陽”を構えると敵は震え上がり、一歩後退る。

 この程度の相手なら苦戦する事は無さそうだ。

 だが、どうもそうは簡単にはいかないらしい。

 気配を感じた遥か遠くからこちらを狙う視線を感じた。




(コックピットか!)




 アリシアは即座に斜め右から放たれたレーザーを通常サイズの刀から大太刀に変形した”来の蒼陽”で防ぎ、金属の光沢で霧散させる。

 だが、相手は執拗に狙ってくる。

 コックピットを諦めると今度は脚を狙ってきたが、機体を横にスライドさせ、回避、上手く視界から消えたと思ったが、今度を頭部カメラを狙った狙撃を行い、頭を僅かに傾け、回避、一旦、距離を取る。




「良い腕ですね」




 誰かは知らないが、相手の技量には素直に感心する。

 少しは歯応えがあると言うべきかも知れない。

 すると、こちらに接近してくる機体群を確認した。

 それと共に目の前の機体は退却、新たな反応が南西側から捉えた。

 さっきの軍団と同じ30機近い部隊がこちらに進撃してきた。

 機体エンブレムからして連合だ。


 友軍である帝国からアリシアの存在を聴きつけ、援軍に来たのだろう。

 恐らく、帝国以外にも連合からも部隊が出撃、王都までもう少しのところでアリシアの存在を聴き、脅威と感じた事で機体を反転させ、こちらに来たようだ。

 そのおかげで王都への脅威は取り敢えず、回避出来たが、少し厄介だ。


 あの程度の力量のパイロットしかいないなら30機であろうと烏合の集だ。

 だが、さっきの腕の良い狙撃兵に邪魔されると少し骨が折れる。

 少なくとも、現れた30機の中には該当する狙撃兵はいない。

 パイロットで操縦する機体の微かな挙動で把握できる。

 GWオリハルコン装甲ならあのレーザーを防げるとは思うが、実測値のデータを取っていないのであくまで勘だ。

 ただ、APによる狙撃でネクシルを使っているなら恐らく、あのレーザーは弾数に有限性があるはずだ。

 ネクシルを解析していた時に”量子回路”の内容を見たが、高機動戦闘と飛行能力以外何も無かった。

 記憶では”光学砲”と言う能力があった筈だが、それがオミットされていた。


 ネクシル100式を基準にルーンスラスターの燃費やさっきの移動しながら狙撃、各所狙撃地点や狙った部位から敵の移動距離と速度を考えるとあの機動力を維持しながら、光学兵器で狙撃するとレーザーライフル的な兵器があるとしても外部取り付けのエネルギータンクが無いと撃てないはずなのだ。

 鹵獲したネクシルのデータの中にもそれらしいレーザーライフルが僅かばかり存在していた。

 動力炉搭載型のレーザーライフルなら見当違いかも知れないが、先ほどのレーザー出力を計算するとエネルギータンク方式と推定される。

 尤もなんらかのカスタマイズでアベルに迫る出力があるなら別だが、恐らく、無限に撃ってくる恐れはない。


 ただ、有限とは言え、あと何発撃てるのかは分からない。

 無駄弾を撃つとは思えないが、敢えて誘って撃たせるのも手かも知れない。

 そんな事を考えていると敵との戦闘距離に近づいた。


 頭が悪いのか、訓練が足りていないのか、熟知していないのか知らないが仰々しく人型形態で空中飛行しながら接近してくる。

 王都に強襲を掛けたいなら戦闘機形態になり、敵との接敵を考えながら行軍するなら、人型形態で地上を滑走すれば良いのに何故、わざわざ空を飛ぶのか疑問だった。


 人型で空中を飛ぶに利点は3次元的な機動と回避運動からなる回避技が最大の利点だ。

 間違っても行軍のやり方ではない。

 一体どこの誰があんな粗雑な事を教えたんだろう?

 少なくとも紅翼騎士団の話では今から8ヶ月前にはAPは存在しているはず……8ヶ月でこの程度も教えられないとなると兵士の教育練度はかなり低いと評価せざるを得ない。




(まぁ、こっちは楽に倒せるから別に良いけど……)




「気流操作術起動!ランページ・ハリケーン!」




 ネクシル・アベルのTS等の補助を受け、”極大魔術”に匹敵する神術を放つ。

 突如、敵軍の周囲を囲むように細い竜巻が舞い上がったかと思うと一気に膨張、巨大な竜巻が5つ敵の四方を挟み、彼らは気流に流され、機体制御を失う。

 基本的な行軍をしていれば、竜巻が発生する前に逃げる事も出来たのだが……恵まれた教育をされなかったであろう彼らは不憫だ。

 だが、容赦はしない。




「鉱物操作術!ニードル・バレット!」




 大地から金属で出来た棘型の弾丸が形成され、竜巻に巻き込まれて竜巻の中を舞う。

 そして、竜巻の加速を得た弾丸が容赦なく機体を抉り肢体を貫いていく。

“鉱物操作術”はアリシアが弾丸を作る時などに重宝する術だ。

 地面に手を当てれば、地中に含まれるアダマンタイトやオリハルコンを集め、弾丸に変えられる。

 今回はその応用だ。

 地中に含まれるアルミニウムに”剣化”を付与、竜巻で加速させ、放ったのだ。

 軽い金属だが、その分運動エネルギーは重い金属の比ではない。

 相手の装甲がセルロースナノファイバーならこのくらい加速したアルミニウムでも貫ける。

 竜巻が止んだ頃には鳥の死骸が地に落ちるようにAPの亡骸が地に落ちる。




 それにしても弱い。

 ネクシルとはパイロットの能力を拡張する為に作られたと認識している。

 パイロットを量子的な観測、パイロットと機体の存在を同化する事が出来るのだ。

 それを応用すれば自分の手持ちのアサルトライフルをAPの武装として転用する事もできる。

 それを使って何かの強力な魔術を行使してくるかと思ったが、全くその気配すら無かった。


 ネクシルのシステムと魔術は相性が良いはずだ。

 システムで魔術の出力と効率が上がるのだから当然だ。

 幾ら教育が劣悪でもこれを教えないのは兵士の命に無関心なレベルの話だ。


 或いはこれを提供した本人達すら知らないと言う可能性もあるが自分達で作っておいて知らないのも可笑しな話だ。

 だが、痺れを切らせたのかあの狙撃兵が側面からのレーザーによる不意打ちを仕掛けて来たので機体を後方に逸れ、避け、お返しにMK2555アサルトライフルを右のマウントハンガーに戻し、そこから介して、”空間収納”に格納、空いた右手L115A10スナイパーライフルライフルを装備、反撃した。

 L115A10スナイパーライフルの弾丸は遠くで回避運動をしたはずの敵機のレーザーライフルに命中、爆散した。


 今のは、警告だ。

 襲ってくるから皆殺しにするが、撤退するなら見逃すと言う揶揄だ。

 だが、敵はそれでもなお、こちらに勝負を挑むらしく狙撃武器が無くなったのか高速で接近して、こちらの目の前に現れた。

 今の機動は間違いなく”ネェルアサルト”だった。

 ”ネェルアサルト”をちゃんと使って一気に距離を詰める事から、やはり、この狙撃兵、真面な訓練を受けている。

 目の前にはネクシル100式の機体が現れた。

 だが、相手から発せられた声はイメージとはだいぶ、違った。




「YOU ARE VERY ST……お前、凄い強いな!オイ!オレと殺り合えや!」




 相手の翻訳機が作動してこちらの言語になったがどこかで聞き覚えのある言語だった……と言うよりアリシアがこの世界に来た時に最初に話していた言語だ。

 普通の敵なら殺すつもりだったが、どうやら、そうはいかない。

 彼が唯一の記憶の糸口かも知れないのだ。

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