勝利宣言
「ば、馬鹿な……」
「何故、クゼルにAPが配備されている!帝国と連合の独占技術と筈だ!」
何やら、勝手に驚いているようだが、今の言動で色々、わかった。
何故かは知らないが、帝国と連合は同盟関係にあると言う事だ。
そして、同盟国は何故かクゼル王国を滅ぼそうとしている。
どうやら、アリシアの道は決まった。
いつも間にはクゼルの騎士になってしまっていた。
クゼルは信用出来ないが、敵の敵は味方とも言う。
況して、帝国は神国メキルと繋がりがあり、更には連合にまで手を結んでいる。
アリシアは帝国にも連合にも意図せず、敵対している。
尤も、敵対したのは本意ではあるが……ならば、これら3つの国、全てと同盟が結べない、支援も受けられない。
なら、ここでクゼル王国に恩を売りつけ、支援して貰って元の世界に帰る方法を見つける。
それしかない。
「この国での乱暴狼藉は許しません!」
演説の様な言い回しで敵の残骸を送りつければ、少なくとも雇ってくれる可能性があるのでクゼルの騎士の様に振る舞う事にした。
「この国に害を為すあなた達を粛清する。我が名アリシア・ズィーガーランドの名にかけて王国に勝利を!」
◇◇◇
クリハ村
「この国に害を為すあなた達を粛清する。我が名アリシア・ズィーガーランドの名にかけて王国に勝利を!」
カシム達は敵から帝国と連合が同盟を結び、王国の民を皆殺しすると言う恐ろしい計画を聴いた。
その直後、敵の”通信機”と言う遠くの人間と連絡を取る魔導具が敵を倒した衝撃で勝手に起動、向こうの様子も映っている。
そこで帝国側の戦力が蒼い巨人の足止めを食らっている事を知った。
そして、その通信機越しにカシムと負傷して治療を受けていたライトメイスは聴き覚えのある声を聴いた。
アリシア・ズィーガーランド
ズィーガーランドを姓をここまで大胆に名乗る者は1人しかいない。
それが2人を勇気づける。
「かの御仁はなんと恩情深いのだ。わたしはとんでもない過ちをしたと言うのに……見捨てられても可笑しくはないのにあの御仁はたった1人で帝国を巨人を抑えているのか!」
ライトメイスは涙する。
帝国の兵士から巨人の話を聴いた時のその人知を超えた怪物と戦う事に少し恐怖を覚えたが、アリシアも同じ巨人に跨り、戦っていると聴いてライトメイスも湧き立たずにはいられなかった。
ライトメイスは涙を拭き取り、伝令兵を招集した。
「急ぎ、陛下に伝令を飛ばすのだ!アリシア・ズィーガーランドを最大限支援するように嘆願する!我らが戦女神がこの戦いを勝利に導いてくれるだろう!そう陛下に伝えるんだ!」
伊達に王族出身なだけあり、民衆の掌握と鼓舞のやり方を心得ているライトメイスはアリシアを「戦女神」と讃え、兵士を鼓舞させ、兵士達の士気が上がる。
3人の伝令兵を一番速いを馬を駆り立て、急いで王都に向かった。
3人にしたのは1人が死んでも確実で陛下の耳に情報を伝える為だ。
伝令兵を送り出した後、この戦いで英雄となったカシムが部屋の窓から歯痒そうにアリシアのいる平野を見つめる。
「やはり、歯痒いか?カシム」
ライトメイスの質問にカシムは首肯した。
「あの方に戦わせてばかりで申し訳なくてなりません」
「だが、時にはそれを耐えて待つ事も重要だ。彼女の信じているなら彼女を裏切らない為にも黙って見送り耐える時も必要なのだ」
実体験だろうか?どこか悲しげに重みのある言葉に聴こえた。
この方は王家の血を引きながら立派に騎士団を率いている。
名ばかりの騎士団長ではなく本当に技量と修練積んで立っている。
それ故に辛い経験を多く味わったのだろうと悟る事ができるその言葉が全てを物語っている。
心が追いつかないが、どうしてもそれを抑え止めるだけの言葉があり、カシムは俯きながら「はい」と頷いた。
「とは、言え……ここから王都まで馬で半日はかかる。陛下は懸命な方だから、アリシア殿の事が不明だとしても状況を見て攻撃を加える事はしないだろうが、戦闘がいつまで続くかも分からない。今、アリシア殿に負担をかけると危険かも知れない。王都の支援が半日かかるのは正直、痛い。彼女の活躍は必要だが、今後の事もあるからなるべき負担はかけたくはない」
ライトメイスは本音が漏れる。
確かにそれには同意できる。
アリシアが鬼神の如き強さがあろうとたった1人で敵を抑え込むには限界があるかもしれない。
この戦いがいつまで続くのか分からない今、10日以上続いた場合などで支援が半日遅れるのも大きい痛手だ。
もし、可能なら馬よりも速い馬が欲しい。
アリシアが連れていたライトニング・ユニコーンとまでは言わなくても……例えば、魔物の中で脚が速い魔馬を従えられれば……そんなカシムの想い……と言う名の因果力が届いた結果が現れた。
村が騒がしくなり何か逃げ惑う声が聴こえ、何事かと外に出て広場の方に向かうとそこには馬がいた。
しかも、魔馬だ。
恐らく、”災いの森”から出てきた馬が周囲の戦闘音で錯乱して、暴れているのだろう。
座学で聴いた事がある。
あの馬は悍馬として知られるカイザーホース……人間が扱える限界とされる最高の馬だ。
かつての英雄などが好んで使ったとされる馬だ。
その手名付けには至難の業が伴うとされているが、調教する暇はない。
幸いな事に連合の魔術師から”従魔の証”と言う魔物を操る事が出来る魔道具がある。
カシムはポケットから押収した掌サイズの木の丸い板を手に取り、駆け出した。
そして、馬に飛び乗り、人が乗るのを嫌がる馬の首にしがみ付き、組み合いを繰り返す。
「この野郎!暴れるな!これで大人しくしろ!」
カシムが”従魔の証”をつけ、神力を流し込むと証から紐が出て、カイザーホースの首に巻きつき、カイザーホースを制御下に置いた。
カイザーホースは威を借りたように大人しくなった。
それを見た他の兵士が「英雄の再来だ」などと呟いているが、そんな大層な者ではないのはカシム自身がよく知っている。
アリシアの力を借りねば、どうする事も出来ないような無力な男なのだから……
「オレは急ぎ。王都で伝令を飛ばすと団長に伝えてくれ!行くぞ!ハア!」
そう言ってカシムはカイザーホースを操り、王都を目指した。
自分にできる使命を果たす為に……
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