ライトニング・ユニコーン

 それから数日間




 アリシアは機体の識別信号を頼りにロアシア連合の騎士達を討伐した。

 最初は記憶の手がかりが得られると思いAPに乗り込んで討伐しようと考えたが、どうも機体側がアリシアが乗り込み本格的に起動させると急に機能不全を起こし、動きを止め、アリシア自身も気分が悪くなり吐いてしまうほどだった。


 理由が分からないので、APの解析等は後日行う事にして、AP側の識別信号を頼りに残りの騎士の居所を掴み、この前と同じ要領でAPを転倒させ、コックピットを開き”威圧”をかけてみる、尋問してダイレクトスーツを剥がして釈放する。

 彼らの心がけが善良なら良かったのだが、あのリージやリオンと同じように命を弄んでいるのが外部スピーカー越しによく聴こえたので同情の余地を感じない。


 尋問して更にわかった事がいくつかある。

 まず、何故、わざわざ、外部スピーカーを使っているのか?

 これは至極簡単で通信機能と言うモノに馴染みがなく一々、友軍毎の回線開くのが面倒らしくボタン1つでオン、オフの切り替えができるスピーカーの方が扱い易いと言う理由だった。


 そこは訓練して慣れて欲しいと個人的には思うが、どうやら、彼らがAPを手に入れたのは2ヶ月前で今まで全く使った事の無い”機械”と言う物に馴染みが無い為というが分かった。


 確かにリバインと過ごしていても”機械”と言う物に触れた試しが無かった。

 この世界は魔術が進歩した代わりに機械的な進化が淘汰されているのかも知れない。

 ズィーガーランド家に唯一機械と言えるのは井戸から水を汲み上げると言う原始的な機械だけだ。

“災いの森”と呼ばれるこの森の外も、もしかするとその程度のレベルかも知れない。


 後、この前から疑問の答えの一端が少しだけ分かった。

 捕獲した紅翼騎士団副団長を名乗る男から元老院から派遣された”アイの国”と名乗る使者が機体の整備をしているらしい。


 どんな人間なのか聴いたが男も女も様々な色の帽子を被り、リーダー格の男は蒼い帽子を被っていた。

 元老院から派遣された使者としか話さず、指示を元老院の使者を介して行われるそうだ。

 あの時、騎士団の団員が”アイの国”の人と激突、団員が謝罪したが、”アイの国”の人から返って来た言葉は「アムソリ」と言う聴き慣れない言葉だったと話してくれた。

「それはもしかして、”I am Sorry”と言いたかったんじゃ……」とアリシアは直感的に思った。


 もしかすると、その”アイの国”と自分は何か関係があるのかも知れない。

 その辺りの調査はいつか、本格的に行わなければならないかも知れない。

 だとしても、彼らがどんな相手なのかは分からない以上、不用意に接触しない方が良いだろう。


 仮にアリシアが居た世界と関係があるとしても全員が味方とは限らない。

 それにアリシアの中では「人間は信じてはいけない。暫定敵として扱え」と心の中で疼く。

 リージ達のような野卑な連中を見ていると無性にそう思いたくなる。

 そして、規定通りに副団長も野に放とうと思ったがその時、リバインとの話を思い出した。




「人間とは非常に残虐な生き物だ。簡単に裏切るのは当たり前、簡単に敵意を向け、殺し合うのは日常茶飯事、高慢に沿った誘惑を語れば、どんな天才も軽く操れるほど低俗だ。それは教えなくてもなんとなくわかるな?」


「うん、わかる」


「特に最たる例は人間は人の首を喜ぶ」


「……なんで?」


「それは自分の武功を誇示する為だ。有名な英雄なら場合によって報酬が貰える」


「ふ~ん。人間ってそんなに武功が欲しいの?」


「主にそれが理由の大半だが、もう1つ理由がある」


「どんな理由?」


「この世界の有名な武将に”シャーイージンパイン”と言う戦術を取った者がいた。その者はとにかく、有名な敵の英雄や隊長の首を棒で括り付けて晒し1000人の敵に警告、士気を削いで戦いを優位に運んだと言う」


「それをすれば、敵を楽に倒せるの?」


「ワシはやった事がないから分からん」




(うん、警告をして意味があるならやってみる価値はあるかも……わたしは別に武功は誇示したくないけど、これ以上弄ばれるとまた、地竜に被害が出るかも知れない。良し、首を刎ねよう)






 それからアリシアが首を刎ねるまで1秒もかからなかった。

 その後、首と頭が腐らないように防腐処理を神術で施し、頑丈そうな長い木の棒を加工して首を突き刺した。




「さて、確かあっちだったかな?」




 アリシアは首の刺さった棒を”空間収納”に仕舞い込み、識別信号で判明している敵のハンティングエリアに木々を駆け抜けながら走り抜ける。




(そう言えば、あのエリアには行った事が無かったけど、どんな魔物がいるんだろう?)




 それには純粋な興味があった。

 強ければ挑んではみたいと言う興味があるが、ランスロットのように交渉出来るなら新たな訓練相手を調達するのも悪くはないかも知れないと心を弾ませる。


 アリシアは森を駆け抜けて進んだ。

 すると、激しい戦闘音が鳴り響き、爆炎と硝煙の香りが立ち込める。




(あそこか……)




 アリシアが森を駆け抜け森の中に空いた拓けた草原に出た。

 そこには2機のネクシルタイプのAPがDTI7アサルトライフルを構え、1匹の馬を追い回している姿だった。

 毛は白く黄金の稲妻を模したような縞模様を持った白い一角を生やした馬だ。




 ライトニング・ユニコーン


 聖獣 聖馬 B


 筋力 2500


 神力 1150


 忍耐力 500


 因果力 1000


 セットオブジェクト 無し


 高速移動術 10 神雷鳴術 5 小回り 8 軽量化8 慣性操作3 加速度操作 4 擬似光子化 2


 詳細

 聖なる力を強く受けた馬。

 希少な個体であり、動きが素早く個体によっては光速迫る速度で移動も可能であり、場合によってはSの魔物として扱われる。

 この魔物を過去に狩れたのは1人しかおらず、討伐すれば国宝待遇を受けるとされている。

 更にとても凶暴であり、人間を容赦なく襲う。




(毎回思うけど、この詳細は一体誰が書いているんだろう?)




 その作者の名前は”アーカリア”と頭を過るが、よく考えると割とどうでも良かった。

 お金になる、倒したら英雄になれるとか何か人間基準で考えたような情報ばかりたが、情報精度に疑う余地はない事はこの時点で理解している。

 それを考えると役に立つのだから作った相手に悪意がないなら瑣末な事……詳細からしてあのライトニング・ユニコーンを狩るとハンティングトロフィーとしての十分に有効と言う事は理解した。


 ただ、何故、彼らは死体を持ち帰られないのだろうか?倒した証拠が無いとハンティングトロフィーにならないのでは?と言う疑問はあるが、それを詮索する余裕はなさそうだ。


 APは白く馬を後を追う形で後ろから銃口を突き突け、馬に放つ。

 馬はまるで後ろにも目があるように一瞬姿を消すと着弾した弾丸の爆風を避け、左に避けていた。


 生き物として元来備わる気配察知能力で気配を読み、”擬似光子化”で一瞬だけ姿を光子、そのままの速度を維持して左に避けたのだと分かった。


 だが、それでも完全には避けきれておらず、弾丸から放たれた爆炎や吹き飛んだ破片が馬の腹などに喰い込み流血していた。

 馬は徐々に速度を落とし最後には弾丸が馬の左側で爆発、馬はその巨体が大きく右側に飛び、地面に叩きつけられる。

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