捕獲

 森の木々を飛び越え、アリシアはネクシルに接近する。

 正直、行軍が遅い。

 木々を飛び越えて進んでいるアリシア程度に追いつかれるようでは遅過ぎる。

 これなら案外、楽かも知れない。

 幸い、敵はこちらには気づいていない。


 アリシアは彼らの進路上に先回りしてアダマンタイトで出来たワイヤーを取り出し、前方の木々ネクシルの頭部にワイヤーが当たるように結びつけた。

 その数秒が彼らは目の前に注意も払いもせず、盛大に仰向けに転倒する。

 慌てふためく彼等が起き上がる前にアリシアはすぐさま接近、胴体部に飛びかかる。




「えーと、開閉ハッチは……これか!」




 形状が少し違うが基本的な構造はアリシアが知るモノと同じようだ。

 ハッチが開き、コックピットブロックが前面に押し出されるとそこには1人の男がいた。その男はアリシアがこの世界に来た時に来ていたアンダースーツと同じモノを着ていた。

 色は赤紫であり、アリシアの趣味ではないが……。




「何だ!テメー……」




 彼が言い終わるよりも前にアリシアは彼の頭部に”来の蒼陽”を差し込み男は絶命した。

 あまりコックピットを返り血で汚したくはないから返り血を出さないように殺した。

 それに問答している間に僚機が立ち上がるかも知れない。

 アリシアは男の死体諸共、ネクシルを”空間収納”に仕舞い込む。


 そして、もう1機の女の方に近づき、同じようにコックピットを開いた。

 だが、彼女は殺さず有無を言わさず、胸倉を掴んみ、コックピットから放り投げた。

 放り投げたリージという女性は憎たらしくアリシアを見つめ、悪態を吐く。




「お前!一体どこのガキだ!わたしが紅翼騎士団と知っての狼藉か!」


「……オイ!」


「ヒィ!」




 アリシアは脅す様な低い声で自身の持つ”威圧”と言う神術を使用、リージにプレッシャーを与える。

 リージはさっきまでの威勢が消え、顔が引き攣り、恐怖に震え始め、半泣き、局部から液が流れ出る。




「お前は聴かれた事だけを答えろ。それ以外の発言は許さない」




 リージは死にたくないと言う思いだけで首を縦に振る。

 圧倒的な力と存在感に自分の心臓が握り潰されるばかりの恐怖に彼女は震え上がり、アリシアが望むままの情報を吐き出してくれた。




 ◇◇◇




 リージはロアシア連合の紅翼騎士団の騎士だそうだ。

 ロアシア連合は小国同士が協力、ダガマ帝国と言う帝国に対抗する為に同盟関係を結んだ連合であるらしい。

 彼女はAPの実地運用を兼ねたテストパイロットのようなモノを務めており、この災いの森でドラゴンに対しての性能評価試験を行っていたそうだ。


 性能評価と言ってもこの広大な森の中で一方的に魔物を狩り、自らの強さを誇示しようと競争していたようだ。

 だが、一番聴きたいのはそんな事ではない。




「このネクシルはどこで手に入れた?」


「わ、分からない!元老院から突然、齎させれたんだ!魔術戦闘を優位に運ぶ巨大な人形と言う事以外わたしは知らない!」




 それ以上の事を聴いてもどうやら、末端の彼女には何も分からないようだ。

 誰が作ったのか?パーツの製造元は?基礎OSは誰が作った?機体整備は?等と根掘り葉掘り聴いてみたが、アリシアが何を言っているのかさっぱり分からないようでとにかく首を横に振って「分からない」と泣きながら答えるだけだった。


 幾ら元老院と言う者達から預かったとしても可笑しい。

 機体の整備は必ず必要だ。

 機体側でメンテナンスフリーを実現しているならまだしもその類の機能は見た感じない。

 更にパーツに関しても彼女は無知だ。

 パーツは消耗品だ。

 例外もあるが、特に装甲等は代表的な消耗品だ。

 装甲の製造元くらいは知っていても可笑しくないがそれすら知らない。


 OSも場合によっては何かしらの不具合が起きた場合にバグを修正する技師も必要だ。

 OSの更新等も行わねばならないのだからバグの修繕等ができるSEは必ず存在するはず……だが、彼女は全く知らないと言う。

 判明したのは、この機体は”ネクシル100式”と言う機体をベースに紅翼騎士団用に改造した”ネクシル・オイゲート・テレストス”と言う魔術強化改修仕様機と言う事だけだった。




(一体、どう言う事なの?それに……わたしはなんでこんなに彼女以上に詳しいんだろう?)




 その様な一抹の疑問が浮かんだが、それをリージの命乞いが遮った。




「なあ、頼む!もう、これ以上、話せる事はない頼む!解放してくれ!」




 確かに彼女の言う通り彼女から引き出せる情報はこれ以上ないとアリシアは判断、彼女を釈放する事にした。

 尤も、と言うだけの話だ。




「なら、そのアンダー……ダイレクトスーツを脱いで貰う。そうしたら解放してあげる」




 アンダースーツ……つまり、ダイレクトスーツ。

 アリシアがこの世界に来た時にも既に着ていた。

 今は”空間収納”に閉まっているが予備のスーツも必要だろう。

 それにリージのサイズとアリシアのサイズは丁度、合う。

 ここで貰っておくのも手だろうとアリシアは考えた。

 ただ、赤紫のダイレクトスーツと言うのは気に入らないから後で蒼に変えようとも思った。

 本来は自分の防具とも呼べる物を脱ぐのは抵抗を抱くモノだが、恐怖が上回ったリージは躊躇わず、ダイレクトスーツを脱ぎ、裸体になり、アリシアに放り投げた。




「こ、これで良いだろう!わたしを解放してくれ!」


「わたしはそれでも良いけど、他のみんながどう思うかは分からないよ」




 すると、それが合図だったように複数の叫び声が大地と空気を震わせ、地響きがこちらに近づいてくる。

 そして、リージを取り囲むように多くの地竜達が包囲する。




「ヒィ!」




 彼女は脚が竦みその場で尻餅をして、泣き始める。




「た、助けて……助けてくれ!」


「わたしは良いとは言いましたが、彼らは別です。彼らもあなたのように命乞いをしてもあなたは自分の愉悦と貪欲で彼らを傷つけ、弄んだ。因果応報と言う奴ですよ」




 アリシアは冷たい声で宣告する。

 APを動かすダイレクトスーツを失った時点で彼女に逃げ道は無かったかも知れない。

 この世界の騎士の強さがどの程度か知らないが、地竜を倒すのにAPを使わないとならないレベルなのだろう。

 仮に地竜から逃げてもフレイムリザードやフルメタルセネピィードなどの縄張りがある以上、アリシアが許しても地竜が許してもどの道、生きては帰れない可能性が高い。

 そして、アリシアも彼女を生かして返す気はない。


 解放するのは別に良いとは言ったが、許すとは言っていない。

 逃げ切れるか逃げ切れないかそれを彼女自身に託しただけだ。

 逃げ切れないならそれが彼女の因果だったと言うだけだ。

 因果は日頃の行いで変わる。

 良くも悪くも全ての事は彼女が導いた結果に過ぎない。

 それだけの話だ。


 そして、彼女の願いを反映したように尻餅をつきながら後退る彼女は後ろで待ち構えていた地竜に激突、顔を上に向けた瞬間、その上半身を地竜に噛み砕かれ、地竜の口の内部で悲鳴が微かに漏れ、すぐにその音は消える。

 残りの下半身もその地竜が食べてしまうのだった。

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