途中から気づいちゃったの……
空間の歪は消え、重力波も観測されず、宇宙は静謐な静寂を取り戻す。
銅鑼のような騒がしい戦闘音はもう聞こえない。
世界の全てがこの瞬間は黙してしまう。
この戦いで全ての世界でアリシアとサンディスタールの戦いが広まった。
神と悪魔の戦いは神の力と権威を世界に現す形となった。
だが、何度も言うが奇跡を見るから
例え、どれだけの”奇跡”を見せようと人は信じない。
ただの現象で全てを片付ける。
口先では
それが人間だ。
正義、希望、自由、平和、可能性などの言葉を口先で言えば、簡単に乗せられ、為政者や天才、指導者、英雄と言った世俗的な欲に基づいて分かり易く目を惹き易い者に容易に乗せられる存在なのだ。
俗にいえば、人間は単純だ。
だから、悪魔に唆され、その言葉に乗せられる。
今回の戦いもアリシアの言葉よりは悪魔の言葉に乗せられた者の方が確実に多くなり、各世界で人理を守り神に反抗する為に何らかのアクションを起こす可能性が極めて高い。
この件で人類とネクシレイターの確執は広がっただろう。
仮に彼らの今回の経緯を話しても聴きはするが、理解はしない。
そもそも、人間に固執が無ければ、この戦いは起きてはいない。
彼らには終わりの日が来る事も既に報せていた。
それでも無視したのは人間だ。
例え、神自身であれ、預言者であれ、復活した人間であれ、彼らは聞き従わない。
ネクシレイターの存在は世界に広まり、人間とネクシレイターの確執は大きくなり、それが争いの火種にもなるだろう。
戦いはこれからも続く。
◇◇◇
正樹は意識を消失したアリシアを抱えながら、シオン戦艦内部の医務室に向かう。
あの後、すぐにアリシアを回収、折れた骨を正樹の力で治し、シオン戦艦に向け、空間跳躍した。
シオン戦艦内部は静寂に包まれている。
”善悪の実”の影響を受けた天使達はあの戦いでの干渉波の影響で気絶している。
悪魔に加担した民達も今は亜空間の中に入れているが、今後の方針は決まっていない。
何せ、一度は悪魔に加担する事を選んだのだ。
今まで通り民として扱って良いのか分からないからだ。
医務室に入ると準備を整えたマリナがスタンバイしていた。
正樹が入ると「準備は良いわ」と言い用意していた医療用カプセルの扉が開く。
これはただのカプセルではない。
ネクシレイター専用とも言える調整が施されている。
万が一にもSWNに汚染された場合に備え、汚染の浄化を促進する装置であると同時に各種修復機能が盛り込まれている。
正樹達もこの装置の厄介になっていた。
今の正樹の力を以ってしてもアリシアを完全な状態には出来ない。
寧ろ、この装置を使った方が断然、速い。
何せ、医療に関して自分より医療分野に秀でた
この分野に関しては今の正樹でも勝てないので性能は保障されたも同然だ。
正樹はアリシアを医療用カプセルに入れた。
アリシアはようやく、目を覚まし、辺りを確認する。
「誰?誰かいるの?」
アリシアはどうやら、目が殆ど見えていないのか耳に伝わる気配で誰かがいる事しか分からないようだ。
「俺だ。正樹だ」
正樹は自分の存在が確かである事を伝える為にアリシアの右手を取る。
アリシアは安心したように口を開き「正樹」と口遊む。
だが、目の色は輝きを失っている辺り、本当に目は見えていないようだ。
「ごめんね。今のわたし、何も見えないの。あなたの声しか聞こえない。あなたの存在も薄っすらとしか感じられない」
「そうか、なら、ゆっくり休め」
「そうはいかないよ。わたしはまだ、あの子達を救わないと……やる事が……まだ……」
アリシアは上体を起こそうとするが、身体に疾る激痛が奔り、それを憚られ、カプセルに背中を凭れる。
「心配するな。地獄に落ちた魂はオレが保管している。勿論、お前の大事にしていたエド、エル、エイミーも無事だ」
アリシアは正樹が何を言っているのか分からなかった。
魂の保管など神である創造神くらいしか出来ない事だ。
なんで正樹にそれが出来るのか分からなかった。
「そうだよな。何も見えないお前は分からないよな。少しだけなら今の俺でも見せられるかな」
正樹はアリシアが感じていた意図を汲み取り、アリシアの手を重ねて祈る仕草をして見せた。
「アリシアの目が一瞬でも戻りますように」
彼はそう祈った。
祈りとは無から有を作り出す。
その口先と行いが普段から伴う者が祈れば、WNの強弱があっても必ず叶う。
神になった正樹が祈れば、負傷しているアリシアに一瞬だけなら元の力を取り戻させる事ができる。
その時、アリシアは全てを見た。
正樹がアスタルホンに何を託されたのかも今の正樹がどんな状態なのかも……そして、正樹の内部にある世界であの子達が喜び踊りながら遊んでいるとその時、ようやく彼の言っている事を理解した。
彼女は安堵の笑みを浮かべ「良かった。本当に、良かった。ありがとう」と涙を流す。
アリシアは左腕で涙を拭い、霞んだ視界の中で正樹を見つめる。
「正樹は凄い人になったんだね」
「お前の方が凄いだろう」
「でも、凄いよ。あなたの想いが強くなければ、今のあなたはいない」
アリシアはぼやけた視界の先の正樹を見つめ、嬉しそうに微笑んでいた。
改めて彼女を見ると戦っている時の勇ましい彼女も良いが、やはり彼女には笑顔が似合うと正樹は感じた。
自分は今後、この笑顔を守っていかないとならないと思うと自然と心の底から沸き立つ熱いモノを感じる。
「たはは、これじゃあ。もう誤魔化せないな」
「誤魔化す?何をだ?」
「あなたの想いに……だよ」
正樹の心臓が一瞬、跳ね上がる。
頭が熱く燃え上がるように熱くなり、思わず、生唾を飲み込む。
心の何処かでこの瞬間をずっと待っていた気がした。
もしかしたら、一生叶わぬとすら思えるほど長く待ち焦がれた答えが目の前に迫る。
「わたしね。途中から気づいちゃったの。あなたがわたしの事をどう思っているのかも……わたしがあなたに何を抱いているのかも気づいていたの……」
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