ウリエル・フテラ

 アセアンの司令官は部隊の戦局を見ていた。

 敵ネクシルタイプに序盤で大きな打撃を受けたが、ペイント社の介入で一気に戦局は好転した。

 ペイント社保有のネクシル(?)と謎の巨大兵器により主力たる敵のネクシルタイプを封殺していた。


 敵の戦艦は謎の防壁を展開、一切こちらの攻撃を通さず、寧ろ、反射している。

 逆に”イゾルデ”の攻勢が強いのもあり、殆ど場所を動いていない。

 防衛に専念しているようだ。

 ペイント社のユウキの情報では一定以上の過負荷をかけると防壁を貫通出来ると知らされている。

 そこで残りのAD艦隊の重力光学収縮砲とアセアン艦隊のミサイルを敵戦艦の正面に集中させている。




「あの敵の奇妙な防壁は確かに厄介だ。だが!」




 それぞれの攻撃が命中するとリフレクターは向かって来た方角に攻撃を跳ね返す。

 しかし、光学砲はADの重力バリアに相殺され、ミサイルは近接信管式のミサイルの為、敵戦艦に近づいた瞬間に爆発。

 一部爆発が遅れる物もあったが、反射直後に爆発する。

 リフレクターは特性上運動ベクトルを逆にするが、爆発を戦艦の目の前で反射するだけでアセアン艦隊に効果はない。

 寧ろ、無駄にリフレクターに負荷がかかっただけだ。




「どんな仕掛けか知らんが、これなら無駄だろう!」




 司令官は勝ち誇ったように不敵な笑みを浮かべる。




「AP部隊!敵のバリアの死角に回り込め!」




 アセアンのAP部隊がシオンのリフレクターを掻い潜り死角から攻め込む。




「各員!バリアをこのまま維持しろ!イゾルデの監視も怠るな!」




 吉火は焦りを見せる。

 前面にバリアを展開している事もあり、それ以外のバリア耐久値が著しく落ちている。

 戦艦に直衛にはネクスト部隊を回し、防衛に当たらせている。

 ネクスト部隊はシオンの前面以外を囲む形で2段構えの陣を敷いている。

 今のところネクスト部隊に被害は無いが、シオン戦艦のリフレクターには着実に負荷がかかっていく。


 敵の数の多さから撃墜してもあまりの弾幕でシオン戦艦に命中するモノも少なくない。

 しかも、敵はシオン戦艦に対して並行に動くように徹底されている。

 リフレクターは敵の攻撃をそのまま反射する以上、シオンの垂直線上にしか反射出来ない。


 ある程度、ベクトルをコントロール可能だが、ベクトルを反転する特性上ほとんど垂直線上にしか返せない。

 アセアンはこの短時間でその特性を理解している。

 エレバンのネクシルがいる以上、この戦域にはいない誰かの入り知恵であるに違いない。

 特にあの博士階級の”英雄”が裏で関与していると見ていいだろう。

 悪魔の知恵と知識を借り受けているだろうから、下手な大天使より頭が良いかも知れない。




「各機!確実に敵を落としていけ!幸い敵の密度は濃い!前線にいる者達はこのまま戦線を維持後方にいる者は戦艦に帰投。範囲型攻撃兵器に換装後戦線復帰!前線にいる者達と交代するんだ」




 シドの指示により、前線にいる者達が弾幕で敵を牽制、その隙に後方にいる者達が次々とシオン戦艦に後退する。




「こちらにはまだ余力があるな。第3小隊。スカイフォースの抜けた穴を塞げ。戦線復帰するまで維持するんだ」


「了解」




 リリーは自分側の守護するリフレクターの耐久値とこちらの攻勢を考え、余力分をシド側に渡す。

 ガイアフォースの機体は高い火力と機動力の武器を主兵装にしている為、スカイフォースよりも火力面で優れている。

 中隊派遣のアルファ中隊と違い、向こうは大隊戦力の為、部隊火力はそう変わらないが、火力の質ならこちらが勝っている。

 しかも、シオンから無限に等しい弾薬を確保できるのもあり、相性も相まっていつもよりも派手に撃っている。

 だが、やはり僅かな隙を突かれ易い。

 スカイフォース後退の僅かな隙にアセアンの部隊がスカイフォース側に傾き始めた。




「く!ここで攻めてきたか!第2小隊あちら側に回れ!」




 リリーの指示で第2小隊がスカイフォース側に傾く。




「待て!今すぐ戻るんだ!」




 シドはすぐに勘づいた。

 この展開は不味いと経験と勘が言っている。

 そうこの展開は……戦力が薄くなったスカイフォース側を殲滅すべく敵が傾き、それに対してリリーが戦力を割く。

 では、リリー側の欠落を誰が補うのか?このタイミングでは誰もいないのだ。

 そう。このままタイミングは奇襲を仕掛けるなら持って来いのタイミングだ。

 まるでその悪い予感が現出するように突如、メラグが異常を報せる。




「戦域外から高出力レーザーを感知!9時方向です!」


「発射までは!」


「3秒!」


「くそ!間に合わないか!」




 あまりに唐突な奇襲に吉火達に策が無かった。

 丁度、その時、カメラに縦長に長く、4本の武器と一体したような腕を持った灰色を基調とした赤いラインが奔った巨大戦艦と思わしき物体を捉えた。

 それを知る者は”アマテラス”と言う機体の名を口遊むだろう。

 そして、これは”アマテラス弐式”だ。

 その4つの砲門をこちらに向け、高出力レーザーの発射予兆があった。




「いや、間に合わせる!」




 突如、通信に割込みが入った。

 その声に吉火は聞き覚えがあった。

 すると、レーダーに味方の識別信号を出す高速移動体が映る。

 その大きさはシオンの半分程度だが、あまりの速度に一気に目の前を通り過ぎる。




「リフレクター52の55で前面に展開!ネェルアサルト最大出力!」




 ウィーダルの指示でリフレクターが展開される。




「まもなく亜光速です」




 ルーがウィーダルに知らせる。




「そのまま突撃!」




 光に迫る速度で突如、高速質量体が迫る。

 この弾丸のような形状をしたダークブルーの巨大兵器の主はその事実に戦慄すらする。

 だが、時すでに遅い。

 巨大兵器から放たれたレーザーが真っ直ぐと飛翔、前方にいる光速移動体に激突する。

 命中したレーザーはこの船の艦長であるウィーダルの読み通り52の55に命中した。


 局所に絞ったリフレクターはあまりの耐久性に高く、前進しながらレーザーを反射……敵のレーザー発射口にそのまま直撃、レーザーに使用される可燃性ガスに引火、巨大兵器は内部から爆発、4つの腕が四散する。


 その口をこじ開ける様に光速移動体が巨大兵器に突貫、激突する。

 亜光速に等しい速度で激突した質量体の持つ運動エネルギーは計り知れない。

 激突と同時に莫大な運動エネルギーが熱エネルギーに変換され、激しい爆音と衝撃波を立てる。

 海面は大きく揺れ、衝撃波が戦域の機体を激しく揺らす。

 あまりの衝撃波にアセアン艦隊の戦艦の窓ガラスが一斉に割れる。


 余談だが、あまりの衝撃波にカンボジア戦線近くの町の窓ガラスも一斉に割れたほどだ。


 海面の海水は天を仰ぐほど巨大な水柱を立てその熱量は海水を一気に蒸発させる。

 辺りが蒸気に包まれる。

 状況はすぐに確認しようとするが、その必要はなかった。

 蒸気の中から颯爽とかける蒼い高速移動体が出てきた。




「うん。なんとか間に合ったようだ」


「良いタイミングだ。ガスタ中将」




 高速質量体……“ウリエル・フテラ”と共にウィーダルが颯爽と戦場に現れた。



「いや、何とか動くものだな。ウリエル・フテラは完成してから僅か1分しか経っていないからな。動かなかったらと思うと肝が冷えたよ」



 ウィーダルは顎に手を当て撫でながら、余裕の微笑みを浮かべていた。

 ”ウリエル・フテラ”はアリシアの指示で作っていた人間の技術レベルで再現可能な高機動戦闘特化型のシオン級戦艦だ。

 この戦艦最大の特徴は「速い」事だ。

 シオン戦艦は空間転移して移動できるが、サタンの影響下SWNが強いと連続して空間転移が出来ず、移動に難があった。

 そこでSWN下でも比較的安定して動かせるネェルアサルト主体で組み上げたのが”ウリエル・フテラ”だ。

 最高速度は亜光速に到達するので地球を移動する分には世界のどこにいても1秒かからず、移動できる。




「全く、すごい物だ。あんな至近で爆風を喰らえばタダでは済まないと言うのに……それを踏まえ、リフレクターを展開させるとは恐れ入るよ」




 吉火は感嘆した。

 戦艦の艦長として、ウィーダルには頭が上がらない。

 激突の直前でウィーダルは衝突による爆発規模を登場していた天使達に演算させ、それを込みしてリフレクターを展開させていた。

 もし、なんの防備もしなければ”ウリエル・フテラ”はただで済まなかっただろう。




「お褒めに預かり光栄だが、どうもやり損ねたようだ」




 蒸気を吹き飛ばすようにその大きな巨大が再び姿を現わす。

 海面を低く飛行した巨大は中心部のレーザー発射口が焼き切れ、各部で激しい爆発した痕跡もある。


 恐らく、ミサイルなどの武装があの衝撃で誘爆したと考えられる。

 ADと同じ多重バリアのお陰なのか特に大破している様子はない。




「ふん……アレで破壊されんとは機体の性能なのかそれともあそこに乗る英雄の加護なのか……いずれにせよ厄介だな」




 ウィーダルは冷静に分析する。

 敵の武装の大半はあの衝撃で潰れた。

 加えて、敵の多重バリアにもかなりの負荷をかけた事で動力部の負荷も相当だろう。

 動力に何を使っているかにもよるが、バリア回復まで相応の時間がかかるだろう。

 倒せるのは今しかない。




「よーし。もう一度仕掛ける。その前に彼の出撃を!」


「はい!」




 ルーはウィーダルの言葉に答え、他の天使や宇宙組に指示を出す。

“ウリエル・フテラ”は再度旋回、トドメの一撃を刺そうと徐々に加速、巨大兵器に迫る。

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