失楽世界
既に慈悲を与えるに値しないならとアリシアは無心に”来の蒼陽”を振るい、この世界について戦いながら調べ、様々な事が分かった事があった判明した。
「やはり、この世界は”失楽世界”と呼ばれる世界の1つ……”ナチュラルパラレルワールド”ですか……分岐が起きたのは1850年前後+一100年。やはり、アステリス様の記憶にあった要注意世界ですか……ここまでに成ると”原本世界”の世界史とは、随分違うね」
並行世界とは本来、サタンの企みにより”神の大罪”が起きた2020年を基点に分岐している。
だが、それとは無関係な所で極めて低確率だが、自然発生的にパラレルワールドが発生する場合がある。
この世界はその1つであり、分岐条件は世界により様々だ。
中世あたりで分岐した世界もあれば、WW1後に分岐した世界も存在する。
だが、神はそれらの世界にも福音を必ず伝える。
この世界にも神の福音が伝えられたが、先ほどの述べた様にこの世界は結果的に神の福音を聴かなかったどころか悪魔に味方した。
その結果、この世界は滅びに向かい、世界の各地では核分裂弾頭の爪痕等が残り、人が住めない地帯になり人は飢え、暴力は増え、人々の不平不満は募り神への怒りを蓄えている状態だった。
「神の一方的な判断で人類を滅ぼすのが悪だ」とこの世界の人間なら喚くだろう。
だが、それは絶対に違う。
考えて欲しい。
仮に2020年の日本で会社員をやっていた”T”がいたとしよう。
その”T”は2011年3月11日のある地方で起きた震災で家を失い、苦労した。
そんな時に”T”の前にある男が現れた。
男は言った「2021年12月に世界が滅亡します。皆さん、断食して救いを受けましょう」と言ったとする。
しかし、”T”は嘲笑い、一蹴する。
”T”は言った「頭の可笑しいカルトが!預言者気取りとは間抜けが!」と言った。
それを聴いた男はそんな”T”の態度にもどかしさと憤りを覚えた。
男は”T”に近づき、自分の正体を明かした。
男は神だった。
「何故、お前はそのような事を言うのか?預言の意味と福音の意味が分からない愚か者よ。本当の間抜けがどちらか、証明しよう」
”T”の視界が真っ白になった。
すると、気づけば見慣れた光景が広がっていた。
”T”は気づいた。
自分がいるのが、失われたはずの故郷であると悟るまで数秒もかからなかった。
そして、近くの掲示板を見て、今日が2011年3月10日である事を把握した。
その時、”T”は本能的にある衝動に駆られた。
「今から警告すれば、母さんを助けられる!」
”T”は大切に思っていた母親を救う為に失われたはずの家に向かって走った。
疲労など気にする暇もなく走った。
そして、息を切らせながら、この時代にいる母親に詰め寄り「明日、大地震が来るから逃げて欲しい」と懇願した。
しかし、”T”の母親は言う。
「そんな事があるわけないでしょう?ここではそんな事は一度も起きた事がない。馬鹿な事を言っていないで学校に戻りなさい!」
母親はこの時代で学生だった息子の言葉を聴き入れず、寧ろ、冷笑とも取れる態度で聴き入れようとしなかった。
そして、”T”の視界が真っ白になり、そこに神が現れた。
「改めて聴く。わたしの警告はお前と同じ心情で語った事だ。それだと言うのに、お前は今もわたしの事を”間抜け”だと罵るのか?」
これが預言、福音と呼ばれるモノの本質だ。
寧ろ、このような想いを”カルト””異端”と無条件に決めつけている人間の方が非常に歪んでおり、非常に卑怯であり、非常に残酷なのだ。
何故なら、こんな事を口でわざわざ、説明しないとならないほど愚鈍だからだ。
アリシアの様に”未来視”が使えるなら、別の伝え方もあったが、未来の事すら分からない人間に親が子に子が親に兄が弟に説得する以上の伝え方などない。
それを無下にするのはどうあっても本人の責任以外にないのだ。
何故なら、決死の覚悟で伝えた想いを無下にする”恩知らず”ほどこの地上で最も重い罪がないからだ。
言い換えれば、”死ぬ以外の贖い等存在しない”と言える。
況して、その福音と言う行為を覆い隠し、それを伝える事を悪とするのは聖書には”反キリストの霊”とも例え、”悪魔”と同義であると再三、説明しても聴かないのだから、これ以上の悪意などない。
そう言った”恩知らず”は、世の中を愛しており、人間など愛してはいないので「いつか、いつか」と明日の事を誇り、中二病気取りに「その災いの時が来て、死ぬとしてもその時になってみないと分からない。だから、わたしは今を一生懸命に生きて、未来に繋げて、いつか、きっと皆が笑顔になれる世界が来ると信じて、生きるよ」とでも恰好をつけて、言い訳でもするだろう。
そう言った”恩知らず”は、世の中を愛しており、人間など愛してはいないので「いつか、いつか」と明日の事を誇り、中二病気取りに「その災いの時が来て、死ぬとしてもその時になってみないと分からない。だから、わたしは今を一生懸命に生きて、未来に繋げて、いつか、きっと皆が笑顔になれる世界が来ると信じて、生きるよ」とでも恰好をつけて、言い訳でもするだろう。
”T”や神の立場なら、十分に可笑しい主張であると分かるはずだが、それを見なかった事にして現実から目を背けるのが人間だ。
「未来の事は誰にも分からない」と主人公を気取って、「未来がこうなっている」と言えば、それが自分に不都合なら「いや、未来は人の可能性で変えられる」ともで自惚れるのが人間だ。
”見えない”=”分からない”=”確定していない”ではない。
見えなくても”細菌、ウイルス”は存在する。
それを”見えない”からと自分勝手に否定しても事実は消えない。
況して、”分からない”からと”分かる”者の意見を一方的に否定もできない。
それも事実が消える訳ではない。
こんな事すら、わざわざ、説明しないとならず、それを”分からない”と言う言葉を都合の良いように利用する主人公気取りの”悪意”……これだけでも十分に人間は無慈悲だ。
”T”や神からすれば「そんな事を言っている場合か!」ともで言いたいだろう。
そして、それをもどかしく感じるのだ。
「何度、見てもこの世界は楽園への道を失った”失楽世界”ですね」
アリシアは冷静に状況を整理しながら、迫り来る敵を”来の蒼陽”で斬り裂いていく。
今回の敵に限っては戦術も何もなく、ただの物量押しだ。
ただの人間相手なら、いずれ限界が来ると言う算段だろう。
アリシアは何度も敵陣に突撃して斬り、薙ぎ払っていく。
純粋な己の剣技と体で敵を剥ぎ払っていく。
神術を使えば、楽ではあるが、信者が離れた場所にいるこの環境ではWNの消費通常よりも多めになる。
使えなくはないが、自分が生き残るだけなら剣技で十分と判断できる。
太陽系全破壊規模までなら、100%剣技で対応可能だと自負している。
その気になれば、”世果”と言う超高速剣による剣の原子を縮退させ、そこから発生するブラックホールで世界や空間、因果律を切断する剣術もあるが、それを使うまでもない。
それを使う時は神々を数万体同時に相手にする時やアリシアですら危機感を抱くほどの銀河級ヘルビーストが相手の時、もしくは絶対に勝たないとならない勝負で使う切り札だろう。
少なくとも、今はその時ではない。
加えて、神術を使って、過度にWNを使い過ぎるとサタンのWNを取り込んでしまう可能性もある。
今のサタンが昔と違い侮れない存在である以上、神の神術を使う必要がないなら、なるべく使わない。
アリシアは只管に斬る。
あまりの猛攻に敵の数は減っていく。
それはそうだ。
人間にとっては地獄の様な戦いかも知れないが、アリシアにとっては肩慣らしにすら思っていない。
日常的に1億匹以上のヘルビーストを殺して来た彼女にとってこんな事はいつもの事なのだ。
アリシアの鬼神の様な戦いぶりを逃げ惑う人々は目撃、近くの軍の基地に逃げ込む。
その事は近くの基地の兵士達に知れ渡る事になる。
◇◇◇
沼津基地
静岡県にある基地には逃げ遅れた避難民達が押し寄せる。
ヘルビースト……この世界では”ブラックビースト”と呼ばれる存在は何の予兆もなく突然現れる事で知られている。
ちなみにカーバイドドールは宇宙から来た事に因んで”インセクト・エイリアン”と呼ばれている。
それ故に避難民の避難はブラックビーストの前では必ず後手に回ってしまい避難民達はその場合、安全な最寄りの基地に逃げる様になっている。
だが、今回駆け込んだ生存者は敵の規模と比較しても多かった。
ブラックビーストに加え、インセクト・エイリアンの複合軍団を相手にこれだけ生き残った事が不思議でならない。
避難民を誘導していた兵士達がそんな事を呟いていると1人の老人が兵士に歩み寄り、前線で戦う蒼い髪のポニーテールの少女の話をした。
その少女は突如、現れ生身で敵に突撃したと思うと身の丈に迫る巨大な刀で敵を斬り裂き、気づいた時には敵を制圧したと老人は語った。
兵士達は老人が錯乱していると思い、鼻で笑い飛ばす。
そんな英雄伝の主人公のような奴がいるわけが無いと……だが、近くにいた者達が次々と兵士達に詰め寄り、自分達も見たと訴えた。
兵士達は俄かには信じられなかったが、これだけの人数が同じ者を見たと言ったのだから無視出来ないと思い、上官に報告した。
報告を受けた上官も初めは信じなかったが、証人のあまりの多さに流石に無視出来ず、更に上の上官に報せる事になる。
その時、気球観測機でブラックビーストとインセクト・エイリアンの進軍を監視していた管制室が敵インセクト・エイリアンの多くの死骸が見た。
その中で素早く動く人影があった。
それは確かに蒼い髪をしたポニーテールの少女であり、恐ろしい事にたった1人で大群で押し寄せる敵を抑え込んでいた。
本来、機動兵器で無ければ倒せない敵を生身でかつ単機で抑え込んでいる。
彼等はその事実に驚嘆する。
蒼髪の少女は目にも留まらぬ剣速で敵を斬り裂いていく。
モース硬度20以上ある硬い攻殻に追われたインセクト・エイリアンをまるで紙の様に斬り裂いていく。
「一体なんなんだ……あの娘は」
「あり得ない。生身であの化け物達とやり合ってる……」
「それどころか、圧倒しているぞ」
管制室の人間達は彼女のあまりの無双に目を奪われる。
あまりに非現実的だった。
まるで神話の英雄がそのまま現れたような衝撃と震撼が彼らの目を釘付けにする。
ただ、硬直した基地司令官が思わず、我に帰ったように首を振り部下に指示を出す。
「すぐに部隊を編成して、あのポイントに迎え!あの謎の女を生け捕りにしろ!人類勝利の切り札になるかもしれん。いいか!必ず生け捕りにしろ!」
◇◇◇
20分後
「ラスト!」
アリシアは力を込め、最後のヘルビーストを斬り裂いた。
辺りにはアリシアが放った剣戟の跡が大地に刻まれ、無数のカーバイドドールの死骸が転がる。
「まぁ、このくらいの敵ならこんなものですか?さて、かなり派手にやりましたから見つからないように退散を……」
退散しようとした彼女の真横から弾丸が通り抜け、着弾した。
しかも、向けられたのは対人用の弾丸では無い……大きな弾丸だった。
大きな弾頭が彼女の横を通し過ぎ、地面を抉り、着弾した。
「逃げ遅れたか……」
アリシアは避けようとはしなかった。
当たらないと分かっていたからだ。
それよりも放った相手の対応の仕方に疑念を抱く。
何せ、あれは威嚇しては度が過ぎる。
明らかに高圧的にこちらに迫っている
「随分な挨拶ですね。普通、対人アサルトライフルを上に向けて威嚇するでしょう」
あまりに常軌を逸した対応に敵意すら感じる。
非情に無礼にも程がある。
そして、無礼な者は高慢であり、神の敵と言う事だ。
この”失楽世界”では今の行動は冗談では済まされない。
なにせ、相手が神である事を分かっていながら、行った行いなのだから、敵対していると思われるしかない。
「神を破却した世界は神を本能的に嫌うと聞きますが、こうも露骨ですか……」
アリシアは正眼据え、少し不機嫌な顔を浮かべながら、睨みつけるように相手を見つめる。
その口調は静かだったが、淡々としており多少、憤りも覗かせる。
そこにはAPを踏襲した人型機動兵器6機が両腕にFA-MAS型のブルパップアサルトライフルをこちら向け、立っていた。
「隊長、なにをしているんですか!相手は人ですよ!威嚇とはいえ、発砲するなんて!」
ある女性兵士が部隊長の過激な行動に思わず、反論する。
「あれは人間ではない。人間の姿をした化け物だ。このくらいの威嚇をせねば止まるとは思えん。見ろ、現にこちらを見て静止しているぞ。恐らく、恐怖を感じているのだ」
「いや、敵意を剥き出しにしているようにしか見えませんが……」
「上田少尉。それは貴官が判断する事では無い。敵は今、恐怖で身動きが取れなくなっている。今なら捕獲出来る!各機!捕獲用粘着弾を装填。わたしが合図をしたら撃て!」
「「「了解!」」」
1歩遅れ、上田少尉も「了解」と答える。
各機は装弾を知らせると隊長は構えるように指示した。
敵は動こうとしない。
(やっぱり、人を狙うなんて出来ない。わざと狙いを逸らすしかない!そこの人上手く避けて!)
そして、隊長は撃つように指示を出す。
だが、それと同時に彼等の視界から敵は消えた。
弾丸だけが虚しく地面に着弾する。
「馬鹿な!敵は!」
隊長がそう呟いたと同時に上田少尉は自分以外の僚機のコックピットが両断される様を見た。
そして、自分のコックピットブロックに誰が取り付いた音がしたと思うとコックピットが開かれた。
上田は即座にコックピット内に常備されたコルトガバメントM1911ハンドガンの派生であるSIG SAUER P238ハンドガンを取り出し構えたが、同時に自分の喉元に”来の蒼陽”の切っ先が突き立てられた。
「武器を捨てなさい」
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