ファイナルカード(最後の福音)
3均衡 電話会談
アリシアは3均衡を呼び出し兼ねてよりの
そこにはビリオとヒゥームが映っていた。
「それで我々に要件とはなんだね?」
「門を閉じる方法が見つかりました」
「本当か?どんな方法だ?」
「世界中の人間にこう告げて下さい。神が福音を宣布する。我が過越を持って人類を救済する。宣布後から24時間後、人は水も食べ物も仕事も15時までしてはならない。そう伝えて下さい」
ビリオとヒュームは苦々しい表情になる。
何か奇異なモノでも見つめるような侮蔑と苛立ちを持った眼差しで見つめる。
そして、ビリオが口を開く。
「そんな物に一体何の意味がある?」
「意味はあります。そうすれば、ヘルビーストは地獄の門を超えにくくなりますから門を閉じ易くなります」
「君はまだ、自分を神と思っているのか?」
「思っているではありませんよ。証は見せた筈ですが?」
彼らもGG団体の活動や理念、アリシア・アイがどう言う存在として語られているかなどを見聞きしている。
それで証としては十分だ。
それでも「不足している奇跡を見せろ」と言おうとヘルビーストにおける作戦会議で既に見せているから必要もない。
要するに証なら十分見せている。
加えて、悪い人間と言うのはどれだけ証明を尽くそうと頑なに認めない言い訳ばかりを並べるのだから、対話などは本質的には何も産まない。
少なくとも、この場合はそうだ。
「君は自分の力を誇示したいだけではないのか?」
「大体、テロリストである宇宙軍を徒党を組む者が神であるはずがない!」
「……」
アリシアは黙り込んだ。
宇宙軍を言い訳にするのはただの屁理屈だ。
神にとって人間は全員テロリストだ。
地球軍であろうと宇宙軍だろうと関係はない。
寧ろ、自分が潔癖で正義があると思い込み、悔い改めない者が悪なのだ。
既にこの時点で未来は決定した。
彼らには証を見せた。
彼らには”福音侵攻界”を含め、2度は福音を伝えている。
彼ら個人のGG団体の活動内容も知っているので証をしていないと言う言い訳はナンセンスだ。
「そんなモノに何の意味がある。人類が断食をした程度で状況が変わる訳がないだろう!」
「それにだ。仮に実行したとしてもその間に宇宙統合軍が攻めて来たらどうするのだ?」
「その辺はわたしが何とかします」
「何とかしますではない。たかが一個小隊にも満たない部隊に何が出来る!」
「門を遅延させADを葬って来たわたしでは不足だと?」
「それはただの慢心だ。運が良かったに過ぎん。お前はただの小娘のくせに1人前の様な口で我々を顎で使いよって!あまつさえ、そんな訳の分からないで何とかなる訳がないだろう!」
「あなた達をその様に扱ったつもりはありませんがそう思わせたのならすいません。ですが、これは必要な事なのです」
「なら、根拠を示せ。そうすれば信じても良い」
この言葉を聞いて完全に詰んだと思った。
仮に証拠を見せても彼らは納得しないからだ。
「こちらです」
だが、一応アリシアはデータを彼らに送った。
裁かれる日に彼らが反論できないように”理不尽”を削除する為だ。
そのデータを見たビリオ達は驚いた。
「な、何だこれは!」
「データが多過ぎる。それになんだこの訳の分からん数式は!」
「それはそうでしょう。この説明は盲人に地図の説明をする様なモノです。それを無理矢理言葉で説明すれば7万年分のレポートになるのは自明でしょう。それに前回の集合生命因果論よりも難解です」
「これでは事実確認出来んではないか!」
「えぇ、ですから、早急に決めて下さい。福音を伝えるか伝えないか」
「そんなモノ信じる訳がないだろう!」
ビリオは憤った。
自分が納得いく自分の都合の良い物が無いと言う些細な理由で彼は忍耐に欠け、無知になった。
それはヒゥームも同様だった。
「こんな事実確認すらままならない虚言に付き合うほど我々は暇ではない!帰る!」
「同感だ。失望したよ。アイ中将」
2人はテレビ電話を切った。
椅子の上でテレビ電話をしていたアリシアは席の背もたれに腰をかけて呟いた。
「救いのカードは配った。あと少しか……」
アリシアはただ哀しかった。
心を無数の弾丸に撃ち抜かれるほど痛かった。
哀しみが溢れて過ぎて怒りが滲み出る様に痛かった。
WN運命論的に今の事を解釈すれば、人類の代表とも言える3均衡の意見は人類の総意志として扱える。
上に立つ人間とは人間が無意識に望んだ者がなる様に決まっている。
その考え方でいけば、神であるアリシアの救いを全人類が否定した事になる。
既に世界中にほぼ全ての人間に福音を伝えた。
全ての宇宙コロニーにすら”福音侵攻界”で全て伝わっているのだ。
後は僅かな席しか残されていない。
総意志への確認だけでも十分に効果はあるが、1人でも救える人間を取りこぼさないように2度3度と福音を伝えているのだ。
ただ、ビリオは孫が殺された事を悔やみ、リオ・ボーダーを糾弾して、アリシアを一度は肯定していた。
ヒュームも一度はアリシアに従順に従い、アリシアの苦悩を受け入れ、自分の罪を悔い改めた。
だが、2人はアリシアの要求した内容が現実的では無い、不可能、理解出来ないと言う理由で全人類を救いのチャンスを捨てた。
それは間接的に全人類がアリシアの救いを拒み、アリシアに敵対する事を選んだ事と変わらない。
1人の従順が多くを救うが、1人の不従順が多くを殺す。
組織とは、全体を個として扱う。
それが社会常識でもある。
企業の一部が腐敗してもそれは会社全体の評価となるのと同じ理屈だ。
厳しいようだが、それが現実であり、人間の世界でもこの理で動くなら神の世界は尚の事、厳格だ。
それが世界の理の1つであr、それ故に全体が裁かれるのは”理不尽”ではない。
何故なら、人間も同じ事をしているからだ。
撃って良いのは撃たれる覚悟がある者だけだ。その因果応報を世界の最後に味わうだけに過ぎない。
何度も言うが、厳しい考えではあるがそのような事態にならない様に有史以来、様々な預言者が現れ、警告した。
それは”神の大罪”後も続いた。
ある時は平和指導者となれる者を立て。
ある時は科学者の役割を持つ者を立て。
ある時は世で平凡と呼ばれる者を立て。
ある時は影響を与える指導者を立てた。
人類には救いの機会を十分過ぎるほど与え、預言者達もよく働いた。
その度に預言者を妨害するサタンの英雄達とも戦った。
預言者を人類の希望の敵として差別して敵対した。
それでも悔い改め無かったのは人類の責任だ。
いつかきっとみんなが笑顔になれると信じてね。
そんな思春期の子供のような思考を抱いた正義の味方がアニメの主人公の様な台詞を吐くのだ。
だが、そんないつかが来るほど人類に時間は残されていない。
これは「いつか、いつか」と永遠と問題を先送りにして、他人任せに怠惰となった人類への罰でもある。
あの2人の決断は”オメガノア”における人類の運命を決定させた。
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