WNフィールド

「これはまた……随分な出迎えね」


「かなり歓迎されていますね」


「嫌な歓迎よ。全く……」




 そう言っている割に千鶴の顔は不敵に歯を浮かせて笑っていた。




「怖いですか?」


「怖いわね、でも、あなたとなら負ける気はしないわ」


「奇遇ですね。わたしも同じです」




 それが合図だったように敵のAP群が一斉に銃口をこちらに向けて放つ。

 アリシア達は一斉に散開、それに対して敵の軍団は2手に分かれる。

 敵の軍団は射撃武器を使いながら接近してくる。

 こちらの反撃に対して最低限度の回避をするだけで爆散していく。

 だが、破壊された機体の中から粘着液のようなモノが四散する敵が混じっていた。

 恐らく、物量ごり押しで粘着液で動きを鈍らせ、こちらに取り付き動きを完全に止め、確実に殺そうとする算段だろう。




「姉様!絶対取り付かせないで!」


「分かってるわよ!」




 千鶴の両手M134型ガトリング砲が唸りを上げながら、敵の大群をハチの巣にしていく。

 大広間とは言え、密閉された空間に敷き詰めるほどのAPを入れれば、仮に上手く統率を取れても動きに制約がかかる分、面制圧できる武器は有効だ。


 加えて、千鶴の異名はザ・デストロイヤーだ。

 拠点や大軍を相手に破壊の限りを尽くす事で知られる千鶴の通り名だ。

 本人は非常に気に入らないらしいが、その名に恥じず、高火力兵装を使わせれば大抵、使い熟してしまう。

 大軍や拠点を効率よく撃墜する事に関する読みは深く戦局に応じて武器を使い分ける。




「食らいなさい!」




 千鶴は高速でM134を左のマウントハンガーの副腕を介して格納、右マウントハンガーから副腕を介して、M20MkⅧ式上部取り付け式マガジン型バズーカを取り出し、右手に装備すると発射する。

 戦術ソル弾頭が搭載された弾頭が室内で爆破、セルロースナノファイバーで出来た装甲が燃え上がり、敵機を燃やし尽くす。

 本来、こんな高価な弾頭を一学生が持っているはずはないのだが、どこから手に入れたのだろうか?と言う疑問はあるが、その狙いは適切で多くの機体を巻き込みながら戦闘をしているアリシアに影響しないラインを見極めていた。


 今の一撃で一時的に後続の集団の勢いが削がれ、前方の敵だけになると左マウントハンガーを展開、M134型ガトリング砲が唸り、前方の敵をハチの巣にする。

 敵の攻撃もしっかりと見切り、床を滑走しながらM134型ガトリング砲を乱射、左マウントハンガーに固定したM134型ガトリング砲も使いながら敵を穿つ。




「中々、手際ですね。こちらへの被害を考慮しつつ最大効率で敵を殲滅するなんて……」




 思わずその戦いぶりに瞠目してしまう。

 中々、綺麗に戦っていると思う。

 もし、”英雄因子”がないなら真音土など手も足もでないほど綺麗で合理的な戦いをしている。

 アレだけの洗練された技術だ。一杯練習したのは目に取れて分かる。




「わたしも負けてられないな!」




 あの戦いを見せられてアリシアのモチベーションも上がる。

 アリシアは既に刀を腰のハードポイントに格納、CZ BREN2アサルトライフルを右のマウントハンガーに副腕を介しながら格納、左右のマウントハンガーから両腕を使って、左右のP90サブマシンガンを両手に持ち、右マウントハンガーのCZ BREN2アサルトライフルも展開、セミオートで連射する。

 雪崩のように流れ込んでくる敵のコックピットを的確に無駄なく撃ち貫く。


 ただ、千鶴ほどの火力のない機体の為、敵の物力に圧されて接近されてしまう。

 だが、そこは持ち前の見切りと機動力と運動性を巧みに活かして敵の軍団の中をかき分けながら、最も脅威度の高い敵を選定、撃墜していく。

 上下左右から襲ってくる敵の微かな気配とAIが放つ独特な殺気を頼りに機体を前後左右に激しく動かしながら縦横無尽に敵陣を駆け抜ける。


 ただ敵も同じ戦法ばかりは取らない。

 アリシアに取り付こうとする機体を優先的に撃墜し弾丸がコックピットを貫いた瞬間、コックピットや各部関節が膨れ上がるような形を取る。





(自爆か!)





 ただ、機動性重視のアリシアの機体では敵の大軍の前では満足に爆風から逃げるほどの距離は稼げない。

 敵はすでにアリシアの進路を妨げるような布陣を敷いている。

 仮に逃げても他にも自爆機要員がいるなら誘爆して効果範囲が拡大、巻き込まれる可能性もある。

 普通の機体ならそうだっただろう。




「WNフィールド展開」




 それと同時に爆発が発生し他の機体を巻き込みながら辺りを白い光が包んだ。

 千鶴も戦闘しながら思わずそちらに視線を向けてアリシアのコールサイン「蒼スズメ!」と何度もコールする。

 だが、それもすぐに杞憂だったと分かった。

 爆炎が晴れるとそこには何事もなかったかのように悠然と宙に浮くアリシア機がいた。




「こちら、蒼スズメ。生きています」




 自分のコールサインを答えて安否を報せると千鶴は胸を撫で下ろす。

 ネクストのオプション兵装として開発していたWNフィールド発生装置。

 WNは万物を構成する最小の単位の粒子である特性を活かし、WNの密度の高い流れを機体周囲に形成する事で爆風であろうと衝撃波だろうとレーザー兵器だろうと実弾だろうと全てに干渉して攻撃を防ぐ防御機構として開発した。

 まだ、オプションの数も少なく実戦データもないので今回の作戦ではデータ取り一環として装備していた。


 コンバーター内部で吸収したWNをフィールドに転用して発動する。

 ただし、その間機体の運動性や機動力が著しく低下すると言う問題があるが、この程度の爆発なら問題ないと分かっていたので実戦運用も兼ねて使ってみた。

 もし、不味かったら自分のWNを注いで対処するつもりだったが、工藤達の高い技術力でその心配はなかったようだ。


 今の爆発が大きかった事もあり、取り巻いていた敵のAI部隊はほとんどいなくなっていた。

 僅かに残っているが動けるスペースも確保できたので機体を縦横無尽に滑走して、敵の攻撃を左右に避けながら、敵のコックピットを狙っていく。

 機動するスペースさえあれば、ネクストの方が機動力は高い。

 敵のAIも人が乗ってはいないので通常よりも速いが、それも搭載されているPCの物理的な負荷限界までと言う制約での話した。


 アリシアのネクストはそれすらも凌駕している。

 瞬間、加速は人間どころかPCの基盤が圧し折れてしまうほど速く、人間を超えた機体制御を持って暴れ馬のような機体を乗り熟し、弾丸よりも速く動き回る。

 例え、AIであってもその速度についてはいけず、カメラのロックオンサイトが追い付かないままにコックピットを撃ち貫かれる。


 アリシアのように眼球から内蔵、血管、脳、筋肉まで地獄で鍛え上げた体だからこそ、為し得る業だ。

 その強靭さは光を超えた速度でも平然と機体制御できるほど屈強に出来ている。

 殺人的な加速を得たアリシアの前に残存したAI部隊は2分経たない内に壊滅、丁度、その頃に千鶴の戦闘も終えた。




「千鶴姉様、無事?」


「えぇ無事よ。そっちは?」


「まだまだ、大丈夫です」


「本当に?なんか凄い加速で動いていた気がするけど?」




(凄い加速に見えたんだ……アレでも本気ではないんだけどな動かしている時もエネルギーの管理気にしながら戦ったんだけどな。結構カツカツで動かしたけど、まだ、わたしの本気に耐えるには遠いかな……)




「まぁ、元気そうだから別に良いんだけど、それよりもこの先も目的地よ。準備は良い?」


「少し待って下さい」




 アリシアは残弾がほとんど空になった武器を捨て、敵のAPの武器を拾い、予備弾薬を回収する。

 実弾系銃火器は弾の規格が合えば良いが、必ず合うとは限らない。

 予備弾薬や残弾がないなら潔く捨てて、敵の武器と残弾を奪う事の兵士の必須の習慣だ。


 拾ったのはMP5型のサブマシンガンだ。

 どうもこの要塞独自の改良が為されているようだが、APの規格にはあるようでOSが自動的に接続した。

 ウイルスの類も検知されていないようだ。

 なら、安心して使える。



「行きましょうか」


「えぇ」



 アリシアと千鶴は警戒しながら前方の大きな扉のロックを解除して真っすぐな通路を使い最短距離で要塞最奥部にあるメインコンピュータールームに向かった。

 だが、さっきとは打って変わって反撃らしい反撃はなくなり、逆に不気味な雰囲気が漂い敵の動きを訝しく思い始めた。



「なんで急に……」


「まるで招待されていると言った感じですね」



 そのアリシアの感性がこの後、当たっていた事が明らかになるのだった。

 通路を真っすぐ進むと大きな隔壁のある部屋に突き当たる。

 情報ではここがメインコンピュータールームであり、さっき戦闘した部屋よりも広大な部屋の最奥にメインコンピューターが配置されていると説明されている。

 無抵抗とも思える電子ロックを解除して中に入ると純白の機体が仁王立ちしてこちらを待ち構えていた。

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