偽神王の閉幕、新たな開幕

 ミトラはアリシアが剣もしくは、銃を使うのを待つ。

 いくら因果を書き換える事が出来ても「する」と言う行為がないと書き換えようがない。

 剣を振っていないのに振っている事には出来ない。

 何故なら「無い」モノはそもそも、書き換える事が出来ない。

「無い」モノを「有る」事にするのは精神支配と変わらない。

 ミトラにはアリシアに対する精神支配系のスキルはない。

 なればこそ、こちらが攻撃してくるのを待つのだ。


 だとしたら、本当に甘い。

 アリシアへの対策を取ったつもりで浮かれているだろうが、こちらは対策される事は既に想定済み。

 ただ、対策しただけで浮かれているようでは戦士としては半人前だ。

 それに試しに偽装系のスキルの事を漏らしたが、言われるまで気づかなかった辺り強大な力を持っているだけの自惚れ屋らしい。

 なら、このスキルのタネ明かしをしなければ気づかない可能性はある。


 アリシアはそう思い高速で逃げ惑うミトラに追いつき一気に間合いに入る。

 ミトラの顔が思わず、不敵な笑みを零す。スキルの発動タイミングを伺う。

 だが、一向にアリシアが剣を放たない事に不信に思ったが、その時には既に遅い。

 その瞬間、彼の胴体に袈裟懸けでバルムンクの刃が入っていたからだ。




「ば、馬鹿な……何故だ……」




 振り抜いてすらいない剣が今、自分を切り裂いた事実に困惑した。

 痛みに悶えながら炯々な眼差しでミトラはアリシアを見つめながら距離を取る。

 何かの危険を感じたのか、今度は全力でアリシアの剣の間合いに入らないように必死に逃げ惑う。


 今度はいつの間にか、換装した右手のG3SG-1アリシアカスタムバトルライフルを構えた。

 そう、ただ構えただけで発砲はしなかった。

 だが、次の瞬間ミトラの体に弾丸が被弾、弾丸がミトラの左腕を穿った。

 ミトラは悲鳴と共に空中での軌道が揺れ、不安定になり失速していく。




「何故だ……何故だぁぁぁぁぁぁ」




 聴けば答えると思ったら大間違いだ。

 今まで余裕な態度を見せていたミトラも恐怖に震える眼差しでアリシアを見つめながら逃げ惑っていた。

 恐らく、今まで自分以上に強い敵と戦った事がないのだろう。

 生まれた時から最強の能力を与えられ、”因果魔術”と偽神達で全てどうにか出来てきた為、戦いに対して単調で誠実さもなく無機質で必死さもなかったから工夫も模索もない味気ない戦いになっているのだろう。


 アリシアが行った攻撃は”遍在攻撃術”と言う”神時空術”の応用型の技だ。

 自分が「する」であろう未来の可能性と確率を遍在させる攻撃だ。

 G3SG-1アリシアカスタムバトルライフルを構えた時、アリシアは1秒後に引き金を引いたかも知れん可能性と1秒後に引いていないかも知れない可能性を両立させ、未来のその”可能性攻撃”を事象として出力、G3SG-1アリシアカスタムバトルライフルで攻撃していないが、可能性により攻撃を仕掛けた事になっているのだ。

 故にである為に改変する因果が「無い」ので”因果魔術”でも介入は出来ない。


 地獄で攻撃が成立するだけでその攻撃が1000倍返しで自分に返ってくると言う鬼畜仕様の”ヘル・メイジ”と言う地獄でも数少ない知性を持ったEXランクの人型のヘルビーストに対抗する為に作った術だ。

 ただの可能性だけなら攻撃が成立する事はないと思い、編み出した技だ。


 アリシアは淡々とミトラに狙いをつけ、ミトラの肢体を弾丸で抉っていく。

 ミトラは必死に痛みに喘ぎながら、断末魔を上げながら不安定な姿勢で飛んでいる。

 その目は恐怖に震え、アリシアを見るなりに必死に逃げようとするが、悪魔に慈悲を与えようとは微塵も思わない。


 アリシアは”ネェルアサルト”で一気に接近、ミトラの背中をバルムンクで斬り裂いた。

 ミトラは断末魔を上げながら森に落下していく。

 今の一撃は悪魔に対してはかなり有効であり、ミトラ内部の神力が大量に削られ、もう”因果魔術”を発動する力すら残っていない。


 アリシアはゆっくりとミトラが落ちた地点に着地する。

 ミトラは血だらけになりながら、既に失われた両足を引きずり、両手で必死になり、アリシアから逃げようとしていた。

 その下半身は体液を流し中々、見るに堪えない。

 これが血みどろになりながら、誰かの為に自分を犠牲にして戦う勇士なら美しく見えたが、相手が悪魔ではただの汚物だ。

 そして、ミトラは命乞いをするようにネクシレウスの足元に縋りつく。




「お願いしますぅぅぅぅぅぅ!命は命だけは勘弁して下さい。あなたの民にもなりますだから、命だけは……がはぁぁ!」




 アリシアはその声を遮るように背中からバルムンクを突き刺した。

 慈悲は無い。

 今までの”過越”を奪い多くの者を殺して来た彼に慈悲を与えては理不尽だ。

 神は理不尽を巻かない。

 だからこそ、例え民になると嘯く偽神がいたとしても聞き入れる訳にはいかない。

 ミトラの消滅により次元を繋がていた力が消え、”ヘルドラゴン”もその姿を消した。




「あなたの考えは少しだけ正しかったですよ。あなたにこの剣を使うまでもありませんでしたね」




 敵を雑魚と思わないようにしているが、だからと言ってオーバーキルと言う浪漫をする行う趣味もない。

 今回の敵にはバルムンクはオーバーキルだった。





「やはり、わたしのまだまだ、修行が足りないようですね」




 すると、さきほどから雲行きが怪しかったが戦闘が終わると同時に大ぶりの雨が降り始めた。

 その雨音が今のアリシアにとっては何とも心地いい。

 まるで汚いモノを見て荒んだ心を癒し洗い流すその音色に心を浸らせるようにアリシアはその雨音の余韻を少しだけ楽しんだ。

 丁度、その時、ブリュンヒルデ達が接近するのが見えた。




 ◇◇◇




 それから数日しない内にロキの宣布により偽神ミトラ並びにサタンの脅威がラグナロク全体に知られ、上位神に従順に仕えると言う特性からアリシアを最上位神としてラグナロク全体に”過越”を施す事になった。




「アリシア。今回は色々、ありがとう」




 一度、地球に戻る事になったアリシアをユースティティアやアフロディーテ、ロキ達が見送りに来た。




「いえ、わたしも最良の結果になれて良かったです」


「多分、お前のオメガノアは誰にも受け入れられないだろうが、それでもオレ達は応援している」


「ありがとう、ロキ」


「アリシア、これを」




 そう言ってアフロディーテが金色の装飾が施された小さな箱を出した。




「これは?」


「真実神アリシアの神眼よ。きっと、あなたに使って欲しくて残したんだと思う。あなたに使われる事をあの子も喜ぶわ」




 アリシアはその箱を受け取り魂の”空間収納”に仕舞い込む。

 これがいつ役に立つのかは分からない。

 使う必要のないモノをわざわざ、使うような無駄な事はしないので……もしかしたら、一生使わないかも知れない。

 ただ、もしかするとアカシックレコードの隠されたデータすら閲覧できるかも知れないので機会があれば、付与してみようと思う。




「みんな、色々ありがとう。全てが終わるまでの辛抱だから……わたしが傍にいるから……最後まで耐え抜きましょうね」




 それに対して皆が「えぇ!」とか「あぁ!」とか「はい!」と力強く答えた。

 こうして、ラグナロクでの戦いは終わった。

 思えば、中々充実した日々だった。

 思わず、羽の伸ばす事も出来た。

 そこにはアリシアが求めた平穏があった。

 だからこそ、必ずあの平穏が掴めるように努力しないとならない。

 アリシアはそう決心してワルキューレを伴い地球に戻った。




 ◇◇◇




 戻ってきてから1日後


 ワルキューレ達をシオンに配備したが今後、人間と関わる上で接触の機会が必要と考えたので天音を通じてワルキューレ全員万高に編入された。

 ブリュンヒルデは2年生にヒルドやゲイルスケグルは1年生に編入させた。

 一斉に50人くらいの編入は学校でも噂の的だった。

 それに何より彼女達は美しい。

 流石にオーディンが創っただけあり、全員が美少女か美女なのだ。

 ブリュンヒルデなどかなり大人びてミステリアスな上、2年生の授業に参加したらもはや無双状態で強くてカッコいい美女として定着したようだ。

 他のワルキューレも外見に見合わず、かなりガチで他の1年生を圧倒、実技ならアリシアやフィオナ達を除いて上位人にワルキューレの名前が載るくらいだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る