ブリュンヒルデの蹂躙

 一方


 ブリュンヒルデ達は迫り来る偽神の大群を槍で突き刺していた。

 それぞれ1体、1体がオーディン並みの力があるが、今のブリュンヒルデ達はそれすら凌駕する。

 今のブリュンヒルデのステータスはこんな感じだ。




 ブリュンヒルデ


 聖神 全知全能の戦神の契約者


 役職 戦乙女


 筋力 EX700


 神力 EX850


 忍耐力 EX900


 因果力 EX680


 妨害耐性力 EX



 セットオブジェクト ラグナロク式対神戦術1




 神刻術100 発動率S 神刻術100 頂 発動率S 神刻術23 極 発動率S 槍術100 発動率EX 槍術100 頂 発動率EX 槍術15 極 発動率EX 障壁100 発動率S 障壁100 頂 発動率S 障壁15 極 発動率S 高速移動術100 発動率S 高速移動術100 頂 発動率S 高速移動術80 極 発動率S 対神耐性100 発動率EX 対神耐性100 頂 発動率EX 対神耐性34 極 発動率EX 神火炎術100 発動率S 神火炎術100 頂 発動率S 神火炎術67 極 発動率S 指揮90 発動率EX 相互伝達90 発動率EX 短縮伝達90 発動率EX 明確伝達90 発動率EX過越100 発動率EX……




 エクストラ・スキル




 全知全能なる戦神の加護 勇士眼・天授 偽神変換 偽神強奪 偽神滅殺 疑似神化





 グンやヒルドも彼女ほどではないが、この性能に片足を突っ込んでいる。

 いくら戦争が物量とは言え、レベル1のスライムを3000匹集めるのとレベル100のスライムを30匹集めるのではデータ上の数値は同じだが、意味合いが全然違う。

 偽神達とブリュンヒルデ達との間にはそれだけの差があった。

 データだけを見るならブリュンヒルデに2~30匹の偽神をぶつければ互角かもしれないが、実際はそうではない。

 EXランクになると1つランクを上げるのに指数関数的な労力がかかる。

 EXクラスとEX780クラスでは本当にレベル1とレベル100以上の差が存在するのだ。

 EXを780匹合わせても、一個体のEX780にはそう簡単には勝てないのだ。

 ”ヘルドラゴン”により強化されているようだが、それでも一個体EX100が限界といったところだろう。


 それはもはや次元が違うのでブリュンヒルデを偽神が100匹近く囲み、一斉に襲い掛かってくるがブリュンヒルデは舞うように体を回転させ、槍を一閃。

 空を飛ぶ偽神達の上半身と下半身が分離され、地面に落下しながら霞のように消えてブリュンヒルデの糧となる。

 その中にはオーディン並みの力を持った敵もいたが今のブリュンヒルデにとってはそれが味気なく感じた。




(本当に雀の涙くらいしかないんだな……)




 ネクシレイターとなって初めて偽神を殺したが、オーディン並みの敵を倒しても自分の糧になるのが、本当に少なく塵に思えた。

 これならバビにいた時にアリシアに扱かれた方が糧になっている印象を受ける。

 アリシア曰く、オーディン並みの偽神とはネクシレイターにとって新兵の経験値稼ぎであり、どんな形であれ、偽神を倒せたら1人前の戦士となるらしい。




(お父様、クラスの敵がもう塵のように吹き飛んでいくな……ある意味、今の自分が恐ろしいな)




 そう思いながら背後から襲ってくる敵を振り返りもせず、槍を後方に突き刺しまた、糧にしていく。

 EX100に近い敵ならまだしもそれ以外を啜っても自分のEXランクを上げるには本当に微々たる量だ。

 もはや、圧倒的過ぎる。


 偽神達は炯々な眼差しで自分を見つめ、様々な”極大魔術”でブリュンヒルデに攻撃を仕掛ける。

 攻撃速度や命中性の高い必殺クラスの黒い光線型の”光魔術”である”ニュクス・レイ”がブリュンヒルデ目掛けて飛翔、命中する。


 偽神達がにやけた顔でブリュンヒルデの撃墜を喜んだがその直後、爆炎の中から炎の槍が放たれ、偽神の胴体を貫通、絶命、更にその槍を薙ぎ払い、他の偽神を巻き込んで爆風を巻き上げる。

 周囲の爆風により爆炎が晴れるとそこには悠然と立ち尽くすブリュンヒルデの姿があった。


 まるで何事もなかったかのように立ち尽くしている。

 自動で展開されているアリシア相手なら申し訳程度にしかならない”障壁”の自動防衛だけで敵の偽神の攻撃を全て弾いていた。


 偽神達の目が険しくなり、恐怖に震えながらブリュンヒルデに魔術を連射する。

 だが、ブリュンヒルデに直撃するはずのそれは”障壁”に阻まれ、ブリュンヒルデに一切傷を付けられない。

 先ほどよりも強い極大魔術も何も手を加えるまでもなく”障壁”で防げてしまうほどブリュンヒルデの力は圧倒的だった。

 そんな中でブリュンヒルデは淡々とどこか憐憫な眼差しを向けながら左指先から”神火炎術”の小型”ファイア・ボール”をマシンガンのように連射する。

 それが偽神達の障壁を易々と穿ち、偽神達は悶えながら地面に落ちていく。




「弱い。下級術程度で簡単に死ぬとは……」




 過去に自分からすれば圧倒的とすら思えた父の力も今では紙屑のように吹き飛んでいく。

 神とは名乗っていたが真の神アリシアの前ではここまで些事にも等しいほど小さい存在とは思わなかった。


 確かにラグナロクやオリュンポスの神は強いだろう。

 だが、それはこの世界と言うゲームの中で最強の部類に入るだけでゲームのプレイヤーであるアリシアがそのゲームを壊せば、幾ら最強の神とて勝てない。

 そのくらいの次元の差を自分に流れる彼女の力で悟る事が出来た。


 確かに地球人の事は今でも泥人形と思わなくもないが、だからと言ってアリシアを同列に扱おうとは思わない。

 寧ろ、畏れているのでそんな事は口が裂けても言えない。

 本当に自分は彼女を主に出来て良かったと心底思える。

 それに比べ、相手の技量も分からず、獣ように無知に吠えてアリシアに逆らう偽神達が哀れでならない。

 次元が高すぎる相手は逆にその技量が推し測れず、弱者に見えてしまうが彼らの場合、重症だ。

 もはや、人間と同じレベルにまで落ちている。

 憐れではあるが、見るに堪えないとも言える。

 だから、思わず憐憫な眼差しを向けてしまうのかもしれない。




「そこの女、中々、強いではないか」


「我らと勝負せぬか?」




 そう言って現れたのは2体の偽神だ。

 禍々しいオーラを放っている。

 一方は漆黒で鎧に身を包んだやけに腕の太い男ともう1人は黒鉄の鎧から神々しいオーラを纏った鎧を着た男だ。

 その姿は初見だが、その魂には見覚えがあった。




「お前達、ハーデスとゼウスか?」


「ふん……どうやら、別次元の我らを知っているようだな」


「ならば、長口上は不要であろう。その悪しき力と共に滅びるが良い」




 どうやら、この次元ではないハーデスとゼウスのようだ。

 かつて、地球で戦争をした時、オリュンポスとの内乱を狙ってこの2人と戦った事がある。






(確か、内乱の理由は何だったかな?ハーデスが地球人を皆殺しにしようとしたのに反対してゼウスが地球人を擁護したのが内乱の理由だったか?)






 今にして思えば、そう言った対立もミトラの思惑だったのかもしれない。

 ハーデスが正しい訳ではないが、ゼウスとて正しかった訳ではない。

 ゼウスは「人間には我らには無い。心の温かさがある。そこには無限の可能性がある」と言っていたが後世になってもそんな可能性は微塵も無かった。

 寧ろ、そんな心があるなら”宇宙で最も悪意のある惑星”などと言う侮蔑名で呼ばれないだろう。


 正直、内乱期の人間の普段、抱かない平和への名残惜しさからそんな感情を一時生んだだけであり、それはただの流行りであり、そんな感情など元来を持ち合わせていなかったのだ。

 それをよく考えもせず、流行りに流されたミーハー・ゼウスと自分達以外の存在を見下す排他的はクレージー・ハーデスがそれぞれの意見に欲深く、貪欲に戦ったのがあの内乱の正体だ。

 尤も、目の前の2人に限っては内乱を起こすほど仲が悪いようには見えない。




「確かにお前達相手に口上を垂れるつもりはないが、わたしに勝てると思うのか?」




 慢心などではなく列記とした事実だ。

 ハッキリ、言えば弱い。

 この2人に出来る事と言えば、激昂した時に地震なり竜巻を起こす程度の力しかない。

 良くて物質を産み出す程度であり、少しだけ高次元空間に入るくらいの力しかない。




「悪しき力を持った悪党に遅れなど取らん」


「我らに挑む身の程を思い知らせてくれる!」




「全能神解放!」「冥府神解放!」とそれぞれが唱えると力が爆発的に強化される。

 偽神にとっての最大の切り札。

 ステータスを2乗化する諸刃の剣。

 忍耐力の乏しい偽神では使用後に存在を失いかねない切り札でオリュンポスとの戦争の際に使う者はほとんどいない。

 本来は10秒力を発揮するだけでかなり危険だが……その瞬間、彼らは視界から消えた。


 姿は見えないが気配ならたしかにある。

 前後上方から剣で斬りかかっている。

 ブリュンヒルデは”高速移動術”の応用でアリシアから習った”縮地”で左横に逸れ、前方のゼウスの後ろに回り込み、槍を突き立てる。

 だが、それに合わせて高速で移動するハーデスがブリュンヒルデの槍を受け止め、払い退ける。

 そこにゼウスが反転、ハーデスが上手く避け、ブリュンヒルデのネクシルの胸に傷をつける。

 ブリュンヒルデは一度、距離を取る。




「なるほど、確かに強いな。しかも、解放に耐えているのか」


「我らは特別なのだよ。冥府神解放を長時間使用できるように調整され強化されている!」


「故に貴様にとて遅れは取らん。その悪しき力と共に滅びるが良い」


「……なるほど、厄介だな」




 ブリュンヒルデは頭を抱えて悲壮に浸る。




「ふははは、そうであろう!これが我らの全力だ。さぁ、今我らの我が軍門に下り特別に赦しを……」




 ハーデスが言い欠けた時「失望したぞ」とブリュンヒルデは答えた。

 2人の神は「へぇ?」と間抜けな声をあげて一瞬、理解できなかった。

 彼女は絶望するどころか、まるで下らないモノでも見える様な目で余裕な態度を見せていた。




「確かに少し強くなったがこの程度が全力とは……まだ、力を隠しているとも思ったが本当に実に下らない。この程度のお遊びに警戒していたとは……」




 2人は顔が強張りながら呆然とブリュンヒルデを眺める。



「お、お遊びだと……」


「嘘に決まっている!ハッタリだ!ならば、その悪しき虚勢と共に葬ってくれる!」




 2人は互いの剣を天高く重ね、SWNを籠めた。

 恐らく、”ニュクス・レイ”だ。

 だが、さっきよりも何千倍も強力な黒い光の力が収束していくのを感じる。

 それを見てもなお、ブリュンヒルデは呆れたように肩から溜息を漏らす。




「さっきから人の事を悪しき力と言っているが……」




 それと同時に”ミュクス・レイ”がブリュンヒルデ目掛けて放たれる。

 だが、ブリュンヒルデは避けようとしない。

 寧ろ、槍先を向けて迎え撃とうとする。




「悪しき力を持ったお前達に言われても何の説得力もない。寧ろ、不愉快だ」




 ブリュンヒルデは”灼熱の裁きムスペルヘイム”を放った。

 かつては1人で撃つ事も出来なかったが、今では父が放った時よりもより高度に素早く高火力で放てるようになっている。

 SWNとZWNでは制御の難易度はSWNの方が容易だが、ZWNを使い熟せればSWN以上の速度と威力で術を構成できる。

 彼らが”ミュクス・レイ”の発動にかけた時間の10分の1で10倍の力の技を放つ事が出来る。


 もう答えは簡単だろう。

 後は圧倒的な力の前に脆弱な神を圧殺するだけだ。

 ブリュンヒルデと言う行動が無言の言葉として体現したようにブリュンヒルデの”灼熱の裁きムスペルヘイム”が敵の”ミュクス・レイ”をガラス細工のように砕け、彼らに逃げる暇など与えないままにゼウスとハーデスを呑み込んだ。

 その力は彼らを呑み込むだけに留まらず、槍先から放たれた豪炎は周りの偽神達を焼き払いながら薙ぎ払い掃討していく。

 辺りには偽神達も悶え苦しむ断末魔しか聞こえない。

 今の一撃で戦域にいた100万の偽神が死んだ。

 そして、ブリュンヒルデも含めてグンやヒルドもまだ、余力がある。

 偽神達の顔に恐怖と畏怖が浮かびそんな彼らにブリュンヒルデは宣言する。




「お前達、蹂躙される覚悟は出来ているか?」




 それからこの戦いが終わるまでワルキューレによる蹂躙が続くのであった。

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