偽神スサノオ
「無駄だ!そんな攻撃では超合金Sには傷一つ付けられない!」
真音土はガトリング砲と背部のバズーカをこちらに向けて繭香を狙う。
バズーカの爆風が加わった事で回避難易度は上がるが、繭香はそれでも何とか訓練を頭で復唱しながら無理に冷静さを保ち、高機動を活かして爆風を左右に避け、ガトリング砲の弾丸の穴を擦り抜けながら爆風を巧みに避けていく。
繭香は敵意を敏感に感じながら敵意がない隙間を目指して動いていた。
それが繭香が得た能力だった。
アリシアのように理知と本能で動いているのではなく純粋な本能で動いているのだ。
その分、迷いはない。
単調になり易いがそれは今後の課題でもある。
だが、相手が真音土ならその単調さも問題にはならない。
彼は正義に貪欲である為、彼の考えも単調である為、理知的に考えないからだ。
「くそ!何故、当たらない!」
真音土は必死に狙いを付け、滑走しながらガトリング砲で狙いをつける。
さっきからガトリング砲を持続的に連射、止まる気配がない。
本来なら、砲身が過熱され暴発しない為に冷却システムが作動するはずだが、どうやら大量のニオブを使い伝導率を上げた事で冷却を軽減していると考えられた。
冷却による攻勢停止は望めない。
だが、それ故に彼の弱点を露見させる。
欲深く攻撃を続けられると言うのは動物的に人を殺す事だ。
ただでさえ、貪欲の彼は無意識に冷静さを欠く事になる。
そんな滑走する彼の元に接近する赤い機影が見えた。
弾丸を放つことに夢中になるあまり僅かに反応が遅れた。
赤い機影から放たれた赤い大剣が咄嗟にガードしたブレイバーの左腕部に食い込む。
「どうした?悪を憎んで人を憎まずと言う割に繭香を執拗に殺そうとしてるじゃねーか?本当は殺したくて疼いているんだろう?」
「オレはそんな事は……」
「口先ならなんとでも言える。テメーは自分の正義が可愛くて繭香を消費してようとしている。テメーの
ギザスが「フン!」と力を籠めると超合金で出来ているはずの腕が宙に舞い、地面に落ちた。
「ば、馬鹿な……」
「テメーはなんやかんや理由付けて戦争ごっこしたいんだろう!そんな良い子ぶって偽善を撒くくらいなら潔く戦争ごっこしたいと言った方がマシだ!」
「違う……オレは正義の為に……」
精神的に動揺し始める真音土を見てギザスは確信した。
メンタル的に揺さぶれば勝てる。
高慢である故に忍耐はない。
故に簡単に憤り、冷静さを失い理性を失い、人を簡単に殺そうとする。
高慢な相手は簡単に冷静さを失うので幾らでも付け入る隙がある。
そして、人は簡単に自分の罪を認めない。
今の彼みたいにだ。
「オレは騙されないぞ!悪魔め!オレは人類の希望を背負っているこんなところでは負けられない!」
(やっぱり、そう来たか。憐れな……自分の罪を認めてしまえば戦いが優位だったモノを……罪があるからこちらの言動にまんまと乗ってしまうんだよ)
だが、その彼の意志に感銘でも受けたのだろうか……突如、彼の機体から放たれる紫のオーラが湧き出て彼の隣の巨大な人型の姿を形作る。
「どうやら、出て来たようだな……」
「まさか……アレは……」
「多分、偽神スサノオだろうぜ」
そうして、50mを超える鬼面を被った紫の鎧武者が降臨した。
「人の世を乱す妖魔め。この我、スサノオが成敗してくれる!ふん!」
現れた偽神のギザスは繭香の元に向かい、一カ所に固まった。
「繭香……万一の時の為に逃げる準備をしておけ。アリシアが戦った時とは違ってこの場は逃げて態勢が立て直せる。絶対無理はするな」
「うん」
2人はスサノオを見つめて瞠目する。
「我が肉とも言える。超合金Sを易々と斬り裂いたその太刀筋見事である。さぞ、名のある侍と見た」
「そいつはどうも、だが、あいにくオレは侍ではなく忠騎士なんだよ」
「異国の侍であろう?ならば、侍とは変わらんではないか」
確かにそう言われればそうかも知れないと納得するギザスがいたが、そんな事はどうだって良い。
(丁度良かった。神なら色々、喋ってくれるだろうな)
「で、お前はなんなんだ?オリュンポスの神か何かか?」
「あのような下賤な輩と一緒にするな。我はこの星で生まれ、この星で育った神である」
アリシアから事前にそんな話を聴いた。
ラグナロクでは他惑星の中で神が現れると神格化させるとか説明を受けた。
地球ではラグナロクのような神はいないと思っていたが……どうやら、目の前にいる以上一概にそうとも言えないようだ。
「我は長年、人を見て来た。そして、知ったのだ。人には優しい暖かい心があるとそこには神でも知らぬ素晴らしい無限の可能性を秘めている。故に素晴らしい侍ではあるが我はお前達を認めない」
スサノオは殺気を交えながらこちらを見つめる。
どうやら、本気で殺そうとしているのが目に取れる。
「だが、機会をやろう。我に平伏しともに人類の希望を守るならそれに免じて許してやろう!」
「そもそも、それが間違いである可能性はないのか?」
「なんだと?」
「人間の大多数がそんな心があるなら何故、この様に世界は混沌としている。あんたの言っている事と真逆ではないか?これをどう説明する」
「人とは歩みが遅い。今は出来ぬともいつか、人は解決するであろう」
「人間は明日の事すら分からない生き物だ。もしかすると、明日、全滅する事だってある。そんないつかを悠長に構える暇があるとは思えんな」
「神の言う事は絶対である。長く生き強大な力を持つ我が言うのだから間違いない」
(最終的にはそれか……神を騙るに烏滸がましい野郎だ。同じ神でもアリシアとは凄い違いだ。少なくともアイツは自分が正しい事を人に分かるように「証」する丁寧さと誠実さがあった。だが、この自称神は長い年月を生きているくせにこれと言った証を何一つ立てていない。人類の希望を守りたいと思い人類を救おうとするなら当然「証」があって当然だ。その時間もあった。だが、「証」がない。つまりは「愛」など、この神には無い。結局、口先で綺麗ごと並べる偽善者か……)
「よく分かった。なら、オレの答えはオレの娘に言わせる。繭香、言ってやれ」
「……覚悟しろ!この下郎!」
それはギザスの……ギザス達の答えだった。
要するにこの神に仕える価値などない。
その宣言と共にスサノオが力を籠める。
突如、空気か揺れ、大地が揺れ、森が騒めき始める。
大地が神の威光に畏怖し揺れ動き世界全てがそれに首を垂れて謝罪しているようであった。
「うははは……吠えたな。人間!ならば、我の圧倒的な本気の力の前に一撃で沈めてくれる!真音土!構えるが良い!」
そう言われ、真音土は言われるがままに銃口をギザス達に向けるとガトリング砲に膨大なエネルギーが貯めこまれる。
回避は容易だが、避けた場合直線状にある村に被害が出る可能性があった。
真音土は村の存在に気づいていないだろうが仮にも神なら気づいているはずだ。
それを無視する辺りやはり、こいつはただの悪党だと確信できる。
「こ、これが神の力か……」
「そうだ!貴様のような最高の侍とその娘には我の最大の力を向けるに相応しいと判断した」
「あぁ……何という……」
「今更、命乞いをしても無駄だ!我は貴様らを断罪する!塵一つ残さず地獄に送ってくれるわ……」
「この程度なの?」
繭香は間が抜けるような飄々とした態度にスサノオも間抜けな声で「何?」と呟いた。
「あぁ……何という事だ……このようなお遊びに本気で警戒していたとは……情けない」
ギザスは機体越しに頭を抱えて首を振った。
「ば、馬鹿な……ハッタリだ!火山を司り、銀河すら支柱にした神を前に何ができると言うのだ?」
「それがどうしたの?」
繭香は何でもない事のように首を傾げた。
「なんだと……」
「別に銀河100個のエネルギーでもないんしょう?だったら、いくらでもどうにもできます」
「銀河……100個だと……」
それは神の想像を超える単位だった。
火山と言うエネルギーは莫大であり、更に銀河はそれ以上であり、その前にして逆らえる人間などいない。
圧倒的な自然災害の前に勝てる人間などいない。
スサノオは少なくともそう思っていた。
だが、目の前の2人はその事が何でもない事のように平然と立っている。
スサノオの中にこの2人に対する言い知れぬ畏怖を感じ始めた。
「馬鹿な!虚勢だ!ならば、人類では到達しえない圧倒的な力の前に沈むが良い!」
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