繭香の初陣

 5分後


 出撃準備を済ませ、”神時空術”で河南省の山中に転移した繭香達はそこで火の海を見た。

 森は焼け焦げ辺りにも無数のAPの残骸が四散していた。




「コイツは……」


「酷い……」




 流石にそう言わざるを得ない。

 全ての機体がコックピットを抉られ、人の死体が露になっていた。

 繭香は思わず吐き気を催しギザスが用意したエチケット袋を取り出した。




「大丈夫か?」


「だ、大丈夫です」




 少し動揺しているだけで本当に大丈夫なようだ。

「強い娘だ」とギザスは内心感心した。




「さて、自称正義の味方を倒さないとな。奴については分かっているな?」


「とにかく、時間を稼げば良いんだね」


「そうだ、奴は英雄因子やその他のスキルを影響に依存し易い、時間をかけて干渉すれば奴は弱体化する」




 真音土のデータを見る限り彼は他の英雄よりも因子やスキルに過度に依存している。

 そもそも、らしい。

 その分、因子を無効にされると大きく弱体化する。

 だから、時間稼ぎが有効なのだ。




「それにはまず、敵をだな……向こうから来たか」




 すると、地上を滑走してやってくる緑色のラインと白が特徴的な機体に紫光のオーラを纏った機体が目の前に現れた。




「お前達GG隊だな!」




 その時の真音土からの声には憎悪を覗かせていた。




「人の正義の為にお前達を……」




 そう言い欠ける前にギザスはエイリアンピストルを抜き放ち、ブレイバーのコックピットに弾丸を命中させる。




「チッ硬いな。なんだあの装甲は」


「貴様!」


「悪いな。無駄に口上垂れてる間に殺せって総司令アリシアに言われててな」




 アリシアの話を要約すると正義の味方気取りの奴は「己に罪無しと偽り、神を偽り者呼ばわりしている。それ故に彼らにかのうせいなどなく。恰も可能性があるように虚勢を張る為に自慢話をするからその時、殺せ」と言うアドバイスを受けていた。

 ついでに勝手に色々喋るので情報収集も可能と説明された。




「だが、どうせ、あの決闘の時みたいにインチキしてるんだろう?どうせ、その装甲も成金が金に糸目をつけただけの装甲だろ?すぐにひっぺ返してやる」


「舐めるな!これは人の心の光を信じる希望の勇者だけが持つことが許された超合金Sだ!貴様ごときに貫けるはずはない!」




(どこのマジン〇ーZだよ。超合〇Zか?そう言えば、人には因果を読み取る個体がいてアニメなんかも無意識で因果を読んだ人間が史実を基にアニメを作っている可能性があるとか言ってたな。じゃこれマジもんの超合金か?だとしたら、そのマジン〇―シリーズのような光子力〇ームなんか撃たれたら厄介だな。その情報に当てはめるとあの装甲そのモノが高エネルギーの塊って事か?)




「選ばれた勇者ね?テメーみてーなポンコツ勇者を選ぶ奴なんてよほどの雑魚だろう?」


「ふざけるな!スサノオは雑魚ではない。あの人は言った。「わたしは人の心の温かさを知った。だから、君達には我々、神が知らない可能性に満ち溢れている」と」




(スサノオか……日本神話に出て来る武神か……しかし、そいつ馬鹿だろう。そんな温かい心があるならそもそも、この世界は混沌としてねーよ。その神、綺麗な言葉を並べて惑わしてるんじゃないのか?多分、無意識でやっている分、変な説得力を持たせてるんだろうな。だが、これで分かった。あの超合金Sも偽神の産物だ。なら、ネクシレイターの力で無力化できるはずだ。あと、何発か撃ち込めば穿てる)




「繭香、やれるか?」


「覚悟は出来てる」


「だが、親類なんだろう?」


「親類だからこそ、これ以上不始末を広げる訳にはいかない。それにわたしが真の意味で繭香・ボンドフになるには越えないといけない壁」




 覚悟は出来ているようだ。

 良い覚悟とギザスは心から思った。

 このまま育てば良い戦士になるだろう。




「なら、任せる。オレは後方から援護する。それと弾の弾数には注意しろ、あと相手の戦闘距離に合わせるな。自分の距離で戦え」


「うん」




 そう言って繭香は前に出て両手にベネリ M4 スーペル90ショットガンを装備した。

 繭香は射撃も格闘も下手だが、射撃が下手でも当てられる武器を使えば良い。

 この武器なら近~中距離戦になっても回避能力の高い繭香ならうまく扱えるのだ。




「繭香……」


「真音土……」


「今からでも遅くない!そんな組織から足を洗え!君が戦う必要なんてないんだ!」


「わたしは逃げない。あなたこそ罪を告白して」


「やめるんだ!これ以上やるなら、オレは君を殺さないとならない!戦場で何も出来ない君がここで出て来るべきではない!」




 何も出来ない……「何も出来ないお前は何もするな」その言葉が頭に過った時、繭香は確信した。

 真音土は偽善者だ。

 結局、彼も元父と同じだ。

 そうやって、人を見下して善人ぶって恰も正しい事を言っているように振る舞う。

 正義の味方を語る悪魔。

 それが天空寺 真音土の正体だ。




「オレも元に来い!そうすれば、君が戦う必要なんて……」


「その言葉は……もう、不要です」





 繭香は普段のおっとりした気弱な態度から一変、冷たく背筋の凍る一言と共に問答無用でベネリ M4 スーペル90を2丁で構え、躊躇い抜きで真音土に放った。

 真音土は咄嗟に右に避けるがブレイバーの左腕部に濃密なショットガンの弾丸が激突し左腕のガトリング砲が爆散、森に弾丸が跳弾し森の木々を穿つ。




「繭香!」




 真音土の問いかけなどガン無視して繭香は左手の銃口をブレイバーに向けて放った。

 今度は完全に避けられたが真音土は繭香が本気である事を認識した。




「君に恨みはない。だが、オレは悪を憎む。故に悪に染まった君に容赦はしない」




 そう言って真音土も右腕のガトリング砲を繭香に向けて発砲する。

 敵のガトリング砲は実弾ではなくどうやら高出力を活かしたレーザーガトリングの様だ。

 繭香は機体を滑走させながら1発1発を避けるように後方に下がる。

 放たれたレーザーが地面を穿つレーザーの出力で地面がガラス化する。


 真音土は逃げ惑う繭香に必要に狙いをつけて連射する。

 繭香は持ち前の回避能力で弾丸の気配を機敏に感じ冷静に避けていく。

 繭香が森を滑走するごとに森の木々は穿たれていく。

 ショットガンを何発も撃ち、四散、真音土に迫るが真音土との戦闘距離が合わなかったり掠めたりする程度で上手く合わせられない。

 この距離ではショットガンは有効ではない。

 撃ち続ければ当たるかも知れないが、ギザスの言葉が頭に過る。




「自分の戦闘距離で戦わないと」




 そのように自分に言い聞かせつつどうすれば勝てるか熟考する。

 その時、ギザスがさっき心で思い浮かべた言葉が過る。




「アレが偽神の産物なら……攻撃を当てれば」




 それなら丁度いい武器が自分にはあった。




「ゴデック・ハート!」




 繭香はすぐにベネリ M4 スーペル90を副腕を介してマウントハンガーに格納、心に格納されていたそれが繭香の右腕に装備された。

 これはアリシアが創った神造兵器だ。


 かつてはアリシアの物だったがネクシレイターになった者はアリシアから1つずつ神造兵器を与えられる事になっている。

 繭香はその中からゴデック・ハートを与えられたのだ。


 絶対必中の銃。


 リテラにこそ相応しそうな銃だが、アリシアは何故か自分に渡してくれた。

 どういう意図で渡したのか分からない。

 繭香が未来永劫射撃が下手だから渡したのかとも考えたが、アリシアに限ってそれはない。

「やれば、出来る」と教えてくれた彼女が射撃や出来ないと言う事は絶対にない。

 何か必ず意味があるのだと思う。

 繭香はそう信じて真音土に銃口を向ける。

 放たれた弾丸は真音土が銃口を向けていると感じ回避した真音土の軌道に沿って追尾する。




「何!」




 真音土は一瞬、驚いてコックピットへの直撃コースを辿るそれに冷や汗を掻く。

 だが、弾丸はコックピットに命中しても弾かれてしまった。

 それはそうだ。

 ゴデック・ハートは基礎攻撃力が低いのだ。

 ワイバーンの脚部を穿つのがやっとと言われるくらいの威力しかない。

 ただ、それでも被弾はした。

 それだけで今の攻撃には意味があった。

 何故なら、今の一撃で繭香の本気度が確かなモノだと証明されたのだから……。

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