謎解き
「あぁ……その通りだ。刑務所に入ってから大好きな鹿肉が食えなかったから……その衝動に負けて……つい……」
「なら、これで彼の自供が取れました。彼はまだシャワーを浴びていない。なら、硝煙反応が残っているはずです。もし、彼が犯人で硝煙反応が残っているなら犯行現場にも同じ硝煙が残りますが、現場には硝煙反応はなかった。硝煙反応を持つ者が犯人には成りえない。なら、彼は犯人ではありません」
山村は科捜研に微物検査などを行う機械を棒立ちになっている鹿島の体にスキャンして確認した。
すると、確かに彼の体からは硝煙反応があった。
「なるほどな、オレは刑務所にいたから分からんが、お嬢ちゃんは見かけに反して中々、やり手みたいじゃないか。硝煙の香りが極力出ないようにしたつもりだが、それに気づく辺りよほど戦い慣れていると見たぜ」
「まぁ……その事はどうでも良いですが、無断での狩猟は罰金モノですよ?分かっていますか?」
鹿島は「ぬう!」とした顔になり、顔は俯かせ「お、仰る通りです」と呟いた。
鹿島は犯人ではないと分かり、後日罰金を支払う羽目になったが、この事件が終わるまで念の為に共に行動する事になった。
◇◇◇
高度心理部は何か物的証拠を探そうと軍事技術で鑑定しようと犯行現場に向かう。
だが、アリシアは違う。
アリシアは分かっているのだ。
だから、逆説くで犯人を証明する。
”何故、やったのか?”は既に知っている。
だが、サタンの影響が強く”どうやった?”までは分からない。
だから、この人が犯人であると証明する為に動くのだ。
それにアリシアほどになれば、分かってしまうのだ。
鹿島以外の容疑者は全員殺人を犯している。
その中で第2連隊系殺人犯が2人と神父系犯罪者が2人、その他が1人だ。
特に神父系犯罪者の腐敗したような魂の悪臭はアリシアにとっては唾棄すべき存在だ。
ある意味、この事件は犯人は2人、真犯人も2人、黒幕1人の見た目以上に混沌とした殺人事件なのだ。
◇◇◇
犯行現場
正方形の四方がコンクリートに囲まれた小窓が1つあるだけの部屋だ。
この建物は元々、かなり古く色んな用途で何度も改修工事が為され、壁に至るところには過去の工事の名残なのか鉄筋が無数に突き刺さったままだ。
流石に鉄筋は危険性が無いように削ってある。
なお、リテラとフィオナ達にはある人を監視させている。
彼女達には”気配遮断”があるので監視してもまず、気づかれない。
何かのきっかけで気づくかもしれないが、基本スキルを意識的に使い、突っ立っていれば人間にはバレない。
それに彼女達自身気配を消すのはアリシア以上に上手いので心配はない。
「さて、一体どうやったのやら?」
サタンの妨害もあり、全て完璧に分かる訳ではない。
分かるのは誰が犯人かだけだ。
だが、証拠も無いのに突き出すのは証を重んじる神の矜持に反する。
証拠を捏造すれば良いのではと思う人もいるかも知れないが、潜在意識で人はそう言う事も見ているので捏造したら“理不尽”になる。
それはダメだ。
基本的にはだが……だから、これに関しては普通に推理するしかない。
アリシアは頭の中の情報を整理していく。
既に高度心理部が調査した後だが、今のところ何も見つかっていない。
犯人は部屋に入っていない可能性は高い。
最も何らかの手で部屋に入って証拠を残さない手もある。
例えば、ダイレクトスーツなんてそうだ。
アレは元々、宇宙服としての機密性を保持している。
犯行現場に皮脂などを一切残せないならダイレクトスーツを着て宇宙用のヘルメットを被れば毛髪すら残さない。
だからこそ、ダイレクトスーツの取引は厳重であり、ヤクザやマフィアの間ではダイレクトスーツだけでも高値で取引されるのだ。
容疑者達には念の為、鹿島の件もあり念入りに再検査されたが、特に異常はなかった。
犯行をした直後に何もないと言うのは犯人がいるとすれば逆に不自然だ。
そうなると本当にダイレクトスーツを着て犯行に及んだ可能性はある。
相手がジェームズならそのくらい用意しているかも知れない。
完全犯罪と言う芸術に拘るなら完全犯罪ツールは当然持っているだろう。
だと、するとそこが糸口にはなる。
だが、そうなるとその糸口をどう見つけるか?
そして、どうやって犯行に及んだのか?
こういう場合、色々要素を分解していくのが手法だろう。
モノを作る時の知識や情報を分解、再構築して設計するモノだ。
それを応用するなら条件を羅列できる。
まず、電子ロックの関係上、中には誰も侵入はしていない。
なら、内部に入らず犯行を行うしかなく外部から何らかの干渉を内部に加えるしかない。
そうなると内部に予めトラップなどを仕掛けておくのが最良かも知れないが、被害者は首による刺し傷で死んでいる。
それを刺突性のある太い針のようなモノで首を刺されたらしい。
なお、爆破物や何らかの装置は発見されていない。
最初に部屋に入った者が回収したなら回収した可能性もあるが、カメラには彼は入る時も出る時も何も持っていなかった。
つまり、内部には仕掛けはない。
そうなると外部から干渉した事になるが、被害者の死んだ状況を見ると机に座った状態で前方からの反動で後方に飛ばされた事が分かる。
ただ、警察も高度心理部もそれがネックらしい。
机の目の前は壁でありどうやってそこから後方に飛ばされるのか皆目見当がつかないようで別の方向から調査している。
ただ、そこは素直に曲解せずに前方から攻撃があったとするなら……そして、何らかの外部干渉があったとするなら、もしかすると壁に何か細工されているかも知れない。
そう思い壁にかけられた血のついた黒い背景色に所々穴のある黄色三重丸が描かれたポスターを外し、コンクリートの壁面に手をかける。
200年近く建っている建物だけあり、コンクリートの一部はボロボロと剥がれている。
だが、その中でわずかに違和感を覚えるポイントがあった。
被害者の首の位置にある壁に鉄筋があった。
過去の工事の鉄筋が残っているのは不思議ではないがその鉄筋の周りだけやけにコンクリートが新しい。
”戦神眼 天授”
アリシアは”戦神眼 天授”を起動させ、コンクリートの情報を閲覧した。
本来は戦いに関するあらゆる情報を見つめる眼だが、少し応用すれば物質の経年劣化は分かる。
その結果、分かったのは他のところは200年の劣化があるにも関わらず、その部分のコンクリートと鉄筋だけは真新しいモノだと判明した。
それも1日くらいしか経っていない。
ここから何かしたのは間違いないようだ。
だが、元々ここに穴があったら科捜研辺りがこの穴から武器を突き入れたとバレてしまう。
完全犯罪を是とする相手なら穴が簡単に露見するリスクは絶対に避けるだろう。
だが、答えは見えて来た。
「もし、わたしの予測が正しいなら」そう思いアリシアは部屋を出てトイレのある曲がり角を曲がりトイレとトイレの傍にある非常出口から外に出た。
外の裏手には鬱蒼と茂る森が広がっている。
アリシアはそこで”戦神眼 天授”をもう一度使いある痕跡を探した。
そして、鬱蒼と茂る森の中のある場所の土を掘り起こした痕跡を見つけた。
今回は応用ではなくその掘り返しが敵の罠と言う風に感知した事でさっきよりは詳細の情報が入ってくる。
そして、土の中に目的のモノは確かにあった。
「これでチェックメイトですね。あとは謎解きと彼ら次第というところですか?」
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