正義、敗れたり!
「クソ!」
真音土はマウントハンガーに搭載された副腕でバズーカをマウントハンガーに格納し、左右のマウントハンガーに格納された日本原産の203式アサルトライフルを2丁持ちでフルオートで放つ。
弾幕が上がりアリシアへの雨脚が強くなる。
それでも彼女は何事もない様に避けながら、G3SG-1でブレイバーの左膝を狙う。
やはり、何発当てても左膝は崩れない。
だが、流石に観客達は異変に気付く。
「おい、なんかおかしくないか?」
「さっきからあの子、左から膝に何発もいや、10発以上撃ち込んでるよな。幾ら何でもおかしくね?」
「ありえねーだろ。徹甲弾10発以上受けて耐えられる関節なんてないだろう。大体、ここに開示されている真音土の機体スペックからも明らかに逸脱しているぞ」
「ねえ?もしかして天空寺……不正を働いているんじゃないの?」
「いやいや、だって天空寺は正義の味方だぜ。正義の味方が不正働くわけないだろう。」
「じゃお前。徹甲弾10発受けても壊れない関節作れると思うか?」
「そ、それは……」
「大体、開示されているデータの数値からもあの関節は少し強度を上げているだけで特別な技術が使われている訳じゃない。これが現実ならあり得ない事だぞ」
「えぇ?じゃあ天空寺。わたしとのシュミレーターでもイカサマしてたの?」
そんな空気が流れていた。
天空寺はそんな事になっているとは、つい知らず地を滑りながら彼女に攻撃を仕掛ける。
彼のフルオートが僅かに彼女の右脚ジェットブーツを掠めた。
だが、その瞬間ジェットブーツは爆発音をあげ、使用不能となる。
「成る程……そう来ますか」
アリシアは即座に判断し左右のジェットブーツをパージして、地面に落ちた。
一方、今のデータもオリジンは黙々と解析してデータを作る。
今の攻撃はただ掠っただけでジェットブーツが破損する程ではない。
500回全てのシュミレーターで同じ結果を出している。
その証拠を着々と集めながら、オリジンはどこかに送信していく。
アリシアは地面に着地する前に後方に下がりながら、落下し地面を滑る様にしながら距離を取る。
こうすれば着地で硬直する事はない。
「逃すか!」
ブレイバーはアリシアの後を追う。
しかし、機動力ならオラシオに分がある。
オラシオとの距離はどんどん離されていく。
「ならば、これでどうだ!」
ブレイバーは急に停止すると脚部から固定用のアンカーが射出された。
そして、胸部にあるパーツが展開されエネルギーを充電し始めた。
「我が社が開発した。ADに搭載された重力制御技術を小型化した対拠点兵器。その力を受けよ。ハイパー!ブラスタァァァァァ!」
エネルギー収縮された重力光学収縮砲が前方に放たれた。
激しいエネルギーの砲撃がオラシオ目掛け飛翔する。
アリシアは不審に気付き直ぐに回避行動を取る。
オラシオは右腕を破損するが回避した。
だが、オラシオの目の前のビルに光学砲が直撃、激しい爆音と熱風がオラシオを巻き込む。
真音土は遠目でそれを確認した。
爆煙が晴れ抉られた地形の中心を見る。
するとそこには各部を破損しながら膝をつくオラシオがいた。
もう先ほどの様な動きは出来ないだろう。
既に膝をつき満身創痍だ。
ブレイバーは静かに近づきアリシアに告げる。
「俺の勝ちだ。君は負けたんだよ。潔く負けを認めるんだ。怒ったりはしない。ただ、認めてくれ正義は必ず勝つんだと正義の味方は存在していいのだと認めてくれ」
アリシアは何も答えない。
「どうやら、勝負をつけるまで納得しない様だね。ならば……」
真音土は右手のライフルだけ副腕を介してマウントハンガーに戻し、腰に搭載された展開式の大剣を取り出し、大きく天に掲げた。
「終わりだ。アリシア アイ。正義はいつでも最後には勝つんだよ。正義に屈服しろ」
そして、大きく振りかざした。
「あと少し……」
真音土はあと少しで勝てたのにと言い訳したと思った。
だが、違った。
突如、彼の足元からブレイバーの全身を覆うほどのワイヤーが絡まりついた。
「な、なんだこれは!」
纏わり付いたワイヤーがブレイバーの動きを鈍らせ、剣の振り翳しを止めた。
ギシギシと音を立てながらワイヤーがブレイバーに食い込む。
だが、ワイヤーは細くぶつりぶつりと切れていく。
「こんな悪足掻きを!」
その間に彼女の機体の力を振り絞る様に立ち上がった。
「OSを最適化。破損右腕をパージ。ライフルをパージ。脚部、左腕可動可能域に処理を最適化。不可動域を接続カット」
すると、オラシオは息を吹き返す様に残った刀を左手で振り翳した。
これなら戦闘可能な最低限とは保たれる。
この時、全ての事全ての時が揃った。
アリシアはこの瞬間を待っていた。
全てはこの為の時間稼ぎだ。
彼は人知れず様々な力によって”英雄因子”の弱体化作用を無効にされていた。
どうやら、この戦いで真音土に負けて欲しくない勢力が試合当初から介入し”英雄因子”を弱体化しようとするアリシアを妨害していた。
”存在”や”潜在集合無意識”と言った存在が介入して、アリシア自身弱体化して時間がかかってしまったが彼の”英雄因子”は既に無効化されている。
敵は確実な方法で”英雄因子”を強化すると踏んでいた。
だから、アリシアは最初は積極的には攻めず、拮抗しているように見せかけて時間を稼ぎ自分が得意な持久戦に持ち込んだのだ。
ネクシレイターの干渉時間が長ければ、それだけアリシアが有利になる。
そして、戦争にも”呼吸”はありアリシアとの拮抗した戦いに”慣れ”を覚えた真音土はここから本気のアリシアの戦闘に対応力とそれを踏ん張る持久力の面でアリシアに劣った戦況に変わっている事に気付いていない。
もう、”勇者”と呼ばれた男の絶対性は失われ丸裸にされた。
すると、ブレイバーの全てのワイヤーが切れた。
「く、悪足掻きを!だが、お前はこの時間稼ぎでした事はOS最適化だけだ。それで最低限と戦えるだろうがそれでは無傷の俺には勝てない。いい加減負けを認めるんだな!」
アリシアはニヤリと笑いながら呟いた。
「それはどうかな?」
「何?」
「あなたの優位性は既に崩れている。あなたにかかっていた補正は既に無い。これまでの戦いで分かった。あなたは弱い。正義の力と覚悟が所詮この程度と思える程に」
「何を訳の分からない事を!大体、この後に及んで何ができる!」
「出来る!例え、生身で戦う事になろうと私は……必ず勝つ!」
アリシアはオラシオのスラスターを噴かせた。
「負け惜しみを!ならば、すぐに終わらせてやる!」
真音土は左手のライフルを腰部のハードポイントに格納した後、両手持ちで大剣を握りオラシオに迫り2人の剣が交わる。
次の瞬間、ブレイバーの剣は落とされ、一刀両断され地面に落ちた。
「バカな……あんな機体で……だが、偶然に過ぎない!」
ブレイバーは直ぐに距離を取り小回りを利かせて反転、大剣を捨てて、すぐさまマントハンガーに格納していたバズーカのマガジン1つを全弾発射。
激しい爆音が動きの鈍ったオラシオを捉える。
「どうだ!これなら逃げられ……」
その矢先、爆煙から地上擦れ擦れに戦闘機形態で迫る機影があった。
「バカな……あの爆風で無傷だと」
「弾幕張れば当たる訳じゃない!」
実際、爆発の中で爆風の発生を予測しながらタイミングを合わせ受け流せば、APなら大した事にならない。
尤も、ネクシレイターくらいにしか出来ない技ではある。
アリシアは戦闘機形態から人型形態に速やかに移行、そのままブレイバーを通り越し際に右腕を切断したと同時に右半身のエネルギー伝達まで切断した。
完全ではないが今の一撃でブレイバーの右半身の動きが鈍る。
「くそ!舐めるな!」
ブレイバーはなんとか機体を動かし、バズーカを捨てて、腰部の左ハードポイントからライフルを握りながらスラスターで移動する。
敵の動きは鈍っている。
更に敵は遠距離武器を捨てている。
接近させないならライフルの方が刀より強い。
だが、動きが鈍りフルオートで撃っている筈なのに真音土の弾丸は掠るだけで当たりはしない。
「馬鹿な!何故、当たらない!」
狙いを定めて今まで通りに撃っている筈なのに当たらない。
さっきは同じやり方で当たった筈なのに……その事実が天空寺 真音土に困惑を生む。
現在、アリシアが本気なのに加え、"英雄因子"で補正されていた能力を完全に失っている真音土の能力はさっきの戦闘能力が見る影もなく落ちている。
直撃でもないのに直撃並みのダメージを与えていた力などは消え、それで今まで「当たっていた」と思い上がっていた銃の射撃精度は本来、大して高くないので狙いが自然と甘くなり全く当たらないのだ。
アリシアはブレイバーの弾丸を回避する。
さっきよりも楽に回避でき、反応速度も良好だ。
だが、機体にも異変が起きる。
一瞬機体の動きが止まり頭部の右メインカメラが破壊された。
「アレですね。機体がわたしの反応に追いつかなくなってきてますね。機体も軋んでる。そろそろ、決めに行きます!」
アリシアは逃げるのをやめて反転、最後の一撃を叩き込むべくブレイバーに迫る。
「突っ込んできただと!」
あの状態で突っ込むなど自殺行為だ。
だが、それ以上に真音土にはアリシアに言い知れぬ恐怖があった。
まるで底無しの何かを見ている様に……。
「くそぉぉぉぉ!」
真音土の最後は乱心気味にライフルを乱射してアリシアに向けて発砲した。
普通なら当たるが、アリシアはまるで全て見切った様に身体を唸らせながら移動、スラスターを駆使して、まるで瞬間移動の如き加速で一気にブレイバーの懐に入る。
そして、最後の一言を告げる。
「正義、敗れたり!」
最後に放たれた刀の一閃がコックピットを斬り裂き、キル判定を下した。
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