陰の決闘2

 オリジンは千鶴にタブレットPCを見せた。

 そこにはいつの間にか作ったさっきの攻撃の戦闘分析データが入っていた。

 オリジンは0次元生命体であり、おおよそ”時間”と言う概念が必要とされるその行動原理は”0”と”1”に集約されており、極端な話、彼が思考コントロールで今の戦闘データを分析すれば”0秒で1つもしくは2つ、3つ”のデータが作れてしまうのでこのようにシュミレーターの各データはリアルタイムで開示出来てしまう。

 発射された弾丸の種類、火薬、火薬の爆発の仕方と威力から敵のメインカメラの防弾ガラスの素材、構造まで精確に登録されている。

 千鶴は目の前の少年の分析能力に「大したものね」と内心で感心しながら、そのデータを見た。

 動画はループしながら再生されている。


 まず、アリシアの徹甲弾4発が発射。

 画面に記された軌道を取る。

 真音土機のメインカメラに左右2発の弾丸が全く同じ箇所に直撃。

 そのシュミレート結果は1発目の直撃で99.9%メインカメラ破壊と言う結果だった。

 しかも、再生と並行して行われる仮想シュミレートでは既に1000回以上の検証が行われ全て同じ結果を出している。

 これには千鶴も驚きを隠せなかった。

 いくら、0.01%の確率で耐えるとしてもそれが2回連続なら0.0001%、それを1000回も希釈すればそれは「あり得ない」のと同じなのだ。

 恐らく、言われるまで不正とも気付かない様な事だ。




「な!こんな事が……これじゃアリシアに勝ち目ないじゃない!早く止めないと!」




 タブレットを持って走りだそうと千鶴をオリジンは握って止めた。

 さっきまで無邪気に笑っていた彼の顔が引き締まり神妙な面持ちになっていた。




「待って。お姉さん」


「何で止めるの?こんなの許されるわけないでしょう!」




 オリジン達は知っている。

 この原因が何なのかを……。

 だが、”英雄因子”の話をしても恐らく信用されない。

 だから、アリシアは証明の為に試合を受けたのだ。

 ”英雄因子”を証明する必要がある。


 ”英雄因子”による英雄悪を実証すれば英雄は悪と人々に認識され、サタンの力を下げられるからだ。

 WNやスキルは”認識”と深い繋がりがある以上短期間とは言え「ヒーローが不正をした」と言う事実を巻けば、サタンの力を弱められる。

 彼らは初めからその為に試合観戦して、シンはその為にシオンに戻ったのだ。




「よく考えて。相手はハッキング不可能なシュミレーターにハッキングしたんだよ。それに大企業が絡んでるならそれ1つだけじゃ揉み消される」




 子供とは言えない至って冷静な物言いに千鶴は諭される。

 あくまでただのこじ付けだが、ここで試合をやめる訳にはいかない。

 これらの事はアリシアも承知している事だからだ。




「姉さんはその為に戦ってるんだ。だから、邪魔をしないで」




 幼さの裏に大人びた強い意志を感じた。

 アリシアを姉と言うこの弟は彼女に似て強い意志がある様に思えた。

 彼の顔はさっきの様な無邪気な顔ではなく力強い眼差しを感じる。

 何処か常人では測れない様な強い繋がりがある様に思える程強い繋がりだ。

 それを前に千鶴は感情的に奔った自分が恥ずかしくなった。




「今は証拠を溜めるんだ。その時は必ず来る」




 千鶴はまるで親に諭された子供の様に大人しく席に着く。

 だが、オリジンは真面目な顔から突如、子供染みた顔に戻る。




「まぁ、大丈夫だよ。お姉ちゃんは勝つよ。戦争に卑怯も不平等も定石だっていつも言ってるもん。お姉ちゃんは勝つよ。だって、どんな時でも勝てる様に誰よりも……それこそ神様に匹敵するほど努力してるのを知ってるもん」


「随分、あの子の事、信じているのね」


「だって、世界一強い僕の自慢のお姉ちゃんだもん、信じているに決まってるさ。それに僕達は家族だから」




 そう言って彼は千鶴にアリシア似の微笑みを向ける。

 その顔がアリシアと重なり千鶴言い知れぬ安堵感を感じ「信じて待ってみよう」と言う気になった。




 ◇◇◇




「この!」




 アリシアはG3SG-1を放ちながら高速で移動する。

 重装甲のブレイバーの関節部を狙う。

 まさか、ブレイバーを持ち出すとは流石に予想外だった。

 きっと彼はそれほど勝ちたいのだ。

 その所為なのか関節部への徹甲弾の直撃が無力化されている。

 本来なら腕や脚は既に捥げている。

 何故なら全く同じ箇所に徹甲弾を10発は撃ち込んでいるからだ。

 この耐久力はもはやアストロニウムを使わなければ不可能だ。




「英雄因子……まだ、濃度が濃いようですね」




 アリシアはブレイバーから放たれるライフルの弾丸を目にも留まらぬ速さで回避する。

 まるで瞬間移動の様な速度だ。




「速い!全く当たらないだと。大通りとは言えここでの高速回避は不向きな筈だ。なのに、あんなに簡単に……」




 アリシアは市街地戦が苦手だが、だからと言って並以下と言う意味ではない。

 全体的に高い能力がある中で苦手なだけだ。

 異界の兵士リナのデータを元に彼女なりに市街地戦の戦闘研究と改良を加えてきたのだ。

 市街地戦では1流程度には戦える。


 敵の回避能力が煩わしく思い始めた天空寺はブレイバーの弾倉付きM20バズーカを取り出し発射した。

 ロケット弾の連射攻撃が当たりに爆風を立ち込める。

 大通りの幅は広いが広さには限界があり、半密室の様な状態だ。


 そこに広範囲制圧火器を叩き込めば回避は出来ないと考えたのだろう。

 だが、爆炎から上空に飛び立つ機影が見えた。

 オラシオは空へと飛び立ち空中を飛び跳ねる様に移動していた。




「アレがジェットステップか!」




 今回のオラシオにはアリシアのAPUSBを介してジェットステップのデータを取り入れ装備している。

 アリシアは空中でスラスターを噴せながら、脚部でステップを踏みながら空中で複雑な軌道を取る。

 真音土がライフルをフルオートで放つが全て当たらない。




「アレがAPの動きだと言うのか!」




 既存のスラスターに依存せず、体の運動性を駆使して動く変幻自在のマニューバについていける者はそうはいない。

 しかも、他のAPと違いこの方式ならほぼ永続的に飛行できる。

 ブレイバー隊でもこの動きを研究しユニットを製作したが、真音土を含め誰もこの機動を成功させる事は出来なかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る