サタンが創りし世界
「でも、神はそれを哀れんだ。だから、神は自ら地上に降り立ち救済を続けた。本来なら人類史は2020年で終わるはずだった」
その言葉にウィーダルが質問を投げかける。
「はずだった?だが、人類史は今も続いているぞ」
「そう。神の大罪と呼ばれた時代がありました。神はサタンの力を侮っていた。聖書の預言通りに進んだと思われた計画はサタンの演技だった。終わりの日に僅かな隙をついたサタンは人間を唆し神の救済を拒んだ。その後、サタンは父なる神を取り込んで強大な力を得た。その力で最後の神である女の神アステリスを打倒して自分にとって都合の良い世界を作ろうとしている」
「都合の良い世界とは一体どんな世界だ?」
「その映像がこちらです」
アリシアはモニターをスライドさせ、動画に切り替え、再生ボタンを押した。
動画が再生されると動画の画面には地球が映っていた。
何の変哲も無い地球の画像は青い星の名に恥じない美しさがあった。
だが、突如異変が起き地球に何か禍々しい紫のオーラが立ち込める。
オーラが立ち込めると瞬く間に地球は紅い惑星へと変わり果てた。
地球から伸びたオーラが手を形どり手刀を宇宙空間に差し込んだ。
手は徐々に宇宙を引き裂いていく。
だが、その速度は尋常ではない。
その亀裂からブラックホールが生まれ、その中に一気に太陽系や惑星が吸い込まれる。
ブラックホールの大きさは比例して拡大し最後には画面が黒くなった。
そして、全てが無になったのだ。
ウィーダル達はその映像に圧巻だった。
まるで映画で見る様な世界終末の瞬間を見た様だ。
だが、暗闇の世界に一筋の光が見えた。
暗く冷たい世界に差し込めた温かい光、希望の光と言えるだろう。
画面はその光に吸い込まれ光の先を見た。
だが、そこには希望など無かった。
光を出るとそこには地球に似た1つの惑星があり、画面はそこに入り込む。
そこにあったのは戦いの光。
惑星全土で起こる戦い。
弱き者は虐げられ、戦いにより誰かが死に何かを奪われ、強い者は強くなり弱い者は更に弱くなる。
迫害、疑い、誹り、差別、怒り、憎しみ、傲慢世界には無数の負の物で溢れていた。
すると、画面はそこに映るある少女を映した。
ウィーダルはそれを見て驚いた。
「馬鹿な……アレは……」
その顔忘れるはずが無い。
忘れる訳がない。
そこにいた少女はウィーダルが15年前に失った者、ウィーダルの最愛の娘メイだった。
「メイ……」
ウィーダルは娘の名を呟いていた。
すると、少女メイは憎悪に満ちた顔で画面に向いた。
ウィーダルはその顔に面食らう。
ウィーダルすら感じた事の無い凄い殺意を感じる。
メイの側にはある女性が倒れていた。
ウィーダルは見覚えがある。
忘れるはずが無い……アレはウィーダルの妻だ。
メイは何かを見上げる様に呟いた。
「許さない!許さない!許さない!許さない!!許さない!!!許さないないぞぉぉぉぉ!!!白い悪魔ぁぁぁぁぁぁ!!!」
彼女が見上げる先にはAPと思わしき白い影があった。
どうやら、彼女は白い悪魔と呼ばれる存在に母親を殺された様だ。
それから彼女は兵士となり復讐の為に白い悪魔を倒す為に戦う力を付けていった。
だが、見ているウィーダルは気が気ではない。
彼女の辿る道筋が痛々し過ぎる。
仲間を失い、恋人を失い、時に体を傷つけ死ぬ淵を彷徨い、青春を全て復讐に捧げ、人並みの幸せを知らないまま何年も何年も何十年も戦った。
だが、白い悪魔は倒せないまま彼女の生涯は終わる。
最期の彼女はまるで生気が抜けた様な弱り果てた姿に変わっていた。
そして、呟くのだ。
「わたしの人生は何だったのか……虚しいよ。パパ……」
ウィーダルはその言葉に胸を撃たれる。
そして、再びオーラが地球を包み再び宇宙はブラックホールに飲まれ暗闇に変わった。
ウィーダルは確信した。
「まさか……」
再び闇に光が灯る。
再び地球が現れメイが映し出される。
「許さないぞぉぉぉぉ!白い悪魔!紅い悪魔ぁぁぁぁぁぁ!」
そこには母と親友を奪われたメイを姿があった。
その憎悪は白と紅の機体に向けられる。
ウィーダルは直感した。
「やめろ……」
ウィーダルは思わず呟く。
そして、メイは復讐の道を歩む。
さっきよりも凄惨に残虐に残酷な現実が待っていた。
響くメイの断末魔が木霊し悲しみが溢れ怒りの雄叫びが大地を揺らす。
「やめろ……やめろ……」
そして、何度も繰り返す。
何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も
その度に状況は悪くなり紫のオーラは肥大化していく。
ウィーダルが見たのは繰り返す為に無残さを増した最期を迎える娘の姿だった。
もう何を見ているのか言葉では形容できない最期だった。
「やめてくれぇぇぇぇぇぇ!!!」
ウィーダルが叫びを上げ動画はそこで止まった。
辺りに静寂が包み一同が大声を上げたウィーダルを一瞥する。
ウィーダルは動悸と息切れを起こしていた。
そんなウィーダルにアリシアは近づき手を取る。
「ごめんなさい。辛い思いさせました。ごめんなさい」
アリシアは彼の心の痛みが自分の事の様に痛々しかった。
彼女はウィーダルの手を取り蹲るように涙ながら「本当にごめんなさい」と謝罪した。
ウィーダルは少し落ち着きを取り戻し息を荒立てながら聴いた。
「アレは……一体何なんだ?」
「アレは内のコンピュータで弾き出した未来予測。予測と言ってもほぼ確実な未来と言っていいです」
アリシアは謝りはしたがそれは「意図せず観せた事への謝罪」ではなく「意図して観せた事への謝罪」だった。
これくらいしないとウィーダルや他のメンバーが悟れないと考えてメイが出る事を承知で観せたのだ。
その事をウィーダルは根に持っていないようだが、それよりも娘を憂う感情が上回っていた。
少々、意地悪なやり方だったが結果、良い方向に行ったようだ。
「だが、娘は死んだ。死んだ人間が未来にいるはずが……」
「それは肉体的に死んだだけです。魂は未だ保管されています」
「どう言う事だ?」
「魂には2通りの行き方があります。上げられた魂と彷徨う魂です」
アリシアは新たな表示を電子モニターに出した。
そこには現界の地球の周りをぐるぐる回る魂と天国に上げられる魂のイラストがあった。
「本来人間の魂は2020年の終わりの日人類が全滅した際に天国と地獄行きの魂を振り分けるはずだった。それは聖書と言う装置により固定された定理です。ですが、2020年が過ぎても人類が全滅しない。つまり、定理が成立しないと魂を天国にも地獄にも完全に送れないから輪廻に囚われ輪廻転生を繰り返す。今のあなた達は元々、2020年の人間の魂が人生を繰り返しているだけなの」
「我々はこの星に繋ぎとめられた存在と言う事か……なら、妻や娘も……」
「いえ、奥さんと娘さんは上げられた魂です」
「何故だ?私が彷徨う魂なら娘達とて」
「それには例外があるんです。聖書の拘束力も完全では無い。高次元生命体の干渉で輪廻の輪から外れる。あなたの娘さんと奥さんは高次元生命体の干渉により一度、殺された」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます