2体の巨人との開戦

 電磁場の嵐と爆風が止んでいく。

 爆発で地面を抉られ、砂漠の砂はケイ素が固まりガラス質に成っている。

 だが、抉られ方は尋常ではない。

 まるで地球に大穴を開ける様な深さがあった。

 穴の壁面からはガラスが砂の重みに耐えきれず、バキバキと砕けながら穴に落ちていく。

 バビロンRの艦長は呆然とそれを眺める。




「す、スゲーなこれ」




 亡命しなかったら自分達の砲撃の的に成っていた事にゾッとする。

 これだけの破壊力があれば、ADと言う絶対的な力を持って築き上げてきた地球統合軍の根底を揺るがすものだった。

 ADの力こそが正義なら正義とは、宇宙統合軍のモノと同義だからだ。

 地球のADのこれだけの事は出来ない。


 丁度その時、ソマリア沖に後方支援として待機していた艦隊から発進されたAP部隊が周囲の状況を確認して唖然としていた。

 派遣されていた友軍の陸戦艦隊は全滅、艦隊が最後に確認された座標には大きなクレーターがポッカリと空いている。

 まるで地球に中心に繋がっているのではないかと思える深さだ。

 艦隊の指揮していた中佐は口が塞がらない。




「これが現実だと言うのか……」




 敵のADは地球の常識からはあまりに逸脱した力を持っていた。

 この脅威は彼等を戦慄させた。

 これを機に世界中の軍に情報が拡散した。

 後に地球統合政府は宇宙統合政府との対応に追われる事になる。

 すると、APの1機がレーダーに反応を捉えた。

 それは蒼い戦艦。

 空を飛ぶ蒼い戦艦だった。




「ローズ1よりCPへ。空を飛ぶ蒼い戦艦を確認。友軍の識別信号を出していますが、データを照合しても該当する艦と部隊が分かりません。判断を仰ぐ」




 ローズ1から送られて来た画像には空を飛ぶ巨大なADと地上を悠然と歩くAD……そして、それに立ちはだかる様に通常の戦艦の2倍近い大きさの戦艦が空に悠然と浮かんでいた。

 その艦は確かに友軍の識別信号を出していた。

 だが、識別信号がある以上、保有する部隊名くらいは分かるものだ。

 彼等はそれに不信感を抱く。




「所属不明の友軍艦に通信を入れろ。返答が無ければ敵勢力とする」




 ウィーダルは晴れていく爆煙の中に宙に浮かぶ何かを見た。途端に眉を潜める。




「50の55に何かいる。映像拡大、各種センサーで観測!」




 部下がその声にすぐさま反応”「了解」と復唱しすぐさま作業にかかる。




「赤外線センサー、X線センサーに感あり」


「画像をだ……いや……」




「出せ」と言いかけたところで爆煙が晴れ、浮遊物のシルエットが見えた。

 それはガンメタリックに輝く蒼い装甲に黄金のラインが入った戦艦。

 その蒼い基調とした色合いにウィーダルは心当たりがあった。

 だが、すぐにただの心当たりでは無くなった。


 戦艦の先端には蒼いAPが納刀された刀の頭に手を置き仁王立ちしていた。

 そのバイザーアイ越しにカメラが此方をギロリと見つめた様な気がした。

 ウィーダルは椅子に持たれた背中から悪寒が奔った。


 明らかに気迫を此方に向けている。

 その気迫はどうやら此処にいる全員が感じられた様だ。

 皆の顔が一瞬硬直した。

 恐らく、彼女からの無言のメッセージなのだろう。


「逃げるなら今だ」と


 全員の意識があの瞬間、奪われた。

 彼女はその隙に攻撃する事も出来た。

 前回の戦闘を分析するに彼女には武術家としての感性がある。

 隙を作れば、見逃すとは思えない。


 わざと攻撃の機会を破棄した辺り、彼女にはまだ奥の手があると見るべきだ。

 1つの行動からウィーダルは敵の意図を何通りも読み取った。

 普通の指揮官ならそこまでの意図は読み取れない。

 この2人の戦いは戦う前から既に始まっていた。




「アスト。敵が仕掛けてきたや高機動戦術ネェルアサルトで仕掛けるよ」


転移戦術アサルトでなくて良いのですか?』


「呪いを掛けられてるからね。治療で緩和したけどアサルトだと信者が居ても消費効率が低下してるからね。効率を重視するならネェルアサルトで行く。アサルトを使うのは最終手段だよ」




 アリシアは一呼吸置いた後に指示を出す。




「ネクシル2~4へ。確実分隊を形成。わたしと3が前 2と4が後ろから支援だよ。本当なら概念照準器でロックオンして早期決着したいけど、重力異常の所為で至近でないと使えない。各機は通常照準器を使用。わたしか3が敵に接近して至近が概念照準器でロックオンする。その後、データを共有して敵の側面を撃つ。ロックオンさえ出来れば敵のバリアを無視して攻撃が出来る。敵も前回の戦闘で側面周りを強化した様ですけど、構造上一番の弱点である事は変わらない。そこに想定外の火力を叩き込む。作戦は以上です。各機の奮戦の期待する」




 迫真に満ちた顔と気迫のある凛とした声をしたアリシアは顔を少し緩めた。




「なんて。カッコいい事言ってみたけど奮戦なんて堅苦しい事考える必要はないよ。それ相応になれば勝手に奮戦に成る。だから、わたしから命令する事があるとすれば「命は大事」のモットウで行こうか!それだけだよ」




 アリシアは満面の笑みで言い放つ。フィオナ、リテラ、シンはそれぞれ砕けた感じで返答した。




「りょ~かい!」


「りょうかいだよ~」


「了解した」




 各々が自然と笑みを浮かべながら答えた。

 アリシアが自然に笑みを作ると何故かそれに吊られてしまう。

 だが、それがかえって彼等の緊張を解し、気持ちにゆとりを与えていた。

「粉骨砕身」「乾坤一擲」等堅苦しい気持ちで戦いに挑んでも良い結果は出ない。

 言えばカッコよさと緊迫感を出せるが、ただそれだけの無駄な儀礼だ。


 アリシアは地獄での戦いの日々でそれを学んだ。

 どんな戦いでも気持ちにゆとりがある方が勝てる。

 だから、彼女の笑みはピンチの時ほど微笑む。

 呪いをかけられ、スキルも制限され、目の前には巨人が2体。

 この危機的な状況に彼女の顔は彼女の意識に関係なくニヤリと微笑んでいた。


 我々に戻る道など無い!


 ウィーダルの決意が聞こえた。




「来るよ」




 アリシアが部隊に合図を送る。




「副砲発射準備」


「各機……」




 そして、ケルビムⅡのオペレーターが「セット完了。いつでもいけます!」と告げた。




「撃てぇぇぇ!」


散開ブレイク!」




 副砲が嵐の様な弾幕で注がれる。

 対艦迎撃システムもフル稼動で一斉に注がれる。

 同時にバビロンRのレーザー主砲も唸りを上げる。

 まるで豪雨を立てる様に弾幕が空間を埋め尽くす。

 アリシアがタイミングよく散開指示した事でAPは散開。


 アリシアは左からフィオナは右から進撃しリテラは上、シンは下にポジションを取りながら支援砲撃を開始した。

 彼等が拡散した事で後方にいたシオン艦に副砲と対艦隊迎撃システムが全て直撃した。

 圧倒的な弾幕から成る火力が爆裂し爆煙がシオンを包む。


 ケルビムは攻撃効果を観測しようとセンサーやモニターで確認する。

 だが、そんな暇は無かった。

 突如、爆煙が吹き飛ばされる。

 目の前にはあり得ない光景があった。


 自分達が注いだ火力と同等の火力が此方に迫ってきたのだ。

 弾幕は自分達に押し寄せ各ADのバリアに直撃した。

 被害は無かったが今の一撃でバリアの出力が低下した。

 爆煙が晴れ敵の被害をようやく確認した皆が驚いた。

 敵は何事もなかったかの様に悠然と宙を浮いていた。




「馬鹿な……アレだけ喰らって無傷だと……」


「嘘だろう……」




 ウィーダル達はあまりの事に現実を直視出来なかった。

 相手が只の戦艦なら今の一撃で十分沈める事が出来た。

 例えどんな防御機構があったとしてもだ。

 彼等には理屈が分からなかった。

 一体何が起きているのか理解出来なかった。




「クソッタレ!死んでたまるか!」




 バビロンRが再びレーザー主砲を放った。

 ウィーダルはそれを止める暇も無かった。

 軽率な行動とも取れるレーザー攻撃は蒼い戦艦に直撃した。

 その時、ウィーダル達は事の事実を知った。

 レーザーがバリアらしきものに触れた瞬間、レーザーがその場で停止した様に止まった。




 そう進んでいない。のだ。




 すると、見る見るレーザーの軌跡が曲がり始めた。

 空間でも歪めた様にレーザーが湾曲し円を描いて行く。

 そして、180度回転仕切ると来た方向に戻る様に勢いと取り戻し飛翔した。

 高出力レーザーはそのままバビロンRのバリアに被弾、バリア出力を低下させた。

 彼等は即座にシオンへの攻撃を中断した。




「ば、馬鹿な……レーザーが跳ね返っただと……」




 バビロンRはその事実に震撼する。

 あり得ない現実が起きていた。

 この世界のどこに敵の攻撃を反射するバリアがあるのか。

 そんな恐怖と戦慄混じりの顔をしている。




「敵の戦艦には攻撃するな。APに火力を集中させろ!」




 ウィーダルはバビロンRを含めた全体に指示を出す。




「アレはバリアと言うよりはリフレクターと言うのが妥当だな。通用するのはレーザーだけか?それとも?」




 バビロンRの指揮官とは裏腹にウィーダルは冷静に状況を推移する。ウィーダルは即断で次の指示を出す。




「実弾を装填!ただし1発だけだ」




 オペレーターはそれに従い副砲に実弾を込めた。




 ◇◇◇





 その頃 シオン艦橋


 メラグが吉火に最初の攻撃に対するシオンの状態を知らせる。




「キャップ。リフレクター問題なく作動。機体損害ゼロ。太陽炉、WNコンバーターの出力に主な変化はありません」




 吉火はそれを聞いてため息混じりの安堵を浮かべる。




「スペック上問題ないとは言え緊張はするものだな」


「仰る通りです。戦とは赤子の様なモノ。何が起きるか分かりませんからね」


「君は戦に詳しいのか?」


「心得はあります。アステリス様より仕込まれていますから」


「アステリス?確か創造主だったか?」




 メラグの無愛想な顔が首肯した。




「えぇ、女性全ての神でもあり命を与えると言う大役を担う方です」




 何か語る事を誇らしく思っているのを感じる。

 恐らく、彼女にとってアステリスと言う女性は尊敬でき、堂々と明かし出来るほど誇らしい存在なのだと感じる。

 その話をもう少しするのも一興とも思ったが、天使の1人が地球統合軍からの通信を受信したと伝えた。




「モニターに出してくれ」

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