破壊宣言

 アストはアリシアの誰にも打ち明けられない不安を受け止め、パートナーとして彼女を支える。

 だから、彼女は決めた平穏を勝ち取る為に戦い抜くと彼女はこの時点で真の意味で迷いを捨て、更に昇華していく。




『終わらせましょう。この茶番劇を』


「うん」




 敵の戦艦は既にアリシアをロックオンしていた。

 後ろからもレジスタンスが攻撃してくる。

 だが、この程度で屈する事はない。




「まだ、私は倒れない、挫けない、屈しない!普平穏を手に入れるまで!」




 戦艦から大出力の心理兵器が放たれた。

 アリシアは避けない。真っ向から受けて立つ。

 心理兵器の砲弾はアリシアの莫大なWNに干渉され、防がれていた。


 アリシアの空中で静止したまま動かない。

 だが、お構い無しにレジスタンスはアリシアに攻撃を仕掛けてくる。

 アストロニウムで出来た装甲は早々貫通しない。だが、僅かではあるがダメージが入っていき、艦長は勝ち誇った。




「うははは。どうやら、ここまでの様だな。流石の怪物も悪魔の前では何もでき……」


「何も出来ないと思った」




 戦艦の艦長が高笑いしているところに通信が入った。




「オープンチャンネルでの呼びかけです」


「馬鹿な。あの砲撃喰らってまともに喋れるはずが……」


「私にはその手の技は効き難いんですよ。全く、誰も彼もヌルい。私欲の為に人を管理、支配するバビも……市民を巻き込んでまで戦うレジスタンスも……どちらもヌルい。そんなやり方であなた達の戦いは終わる事はない。あなた達はただ、戦いたいだけ。正義に格好つけて戦いたいだけ。戦う気持ちに抗う意志すら感じない。だから、わたしが破滅を齎す」



 

 アリシアは意志を固めた。そして、大胆に宣言した。




「聴け!バビに棲まう愚かな兵士達よ!そして、世界よ!わたしはアリシア アイ!地球統合軍外部独立部隊GG隊の長にして現人神なり。わたしは後3日でバビと言う国家体制を破壊する!無論、レジスタンスも同様だ!わたしは下らない戦争を嫌う。お前達が茶番を繰り返すなら、わたしは全てを敵にし全ての破壊する。それがテロリストであろうと、宇宙統合軍だろうと、地球統合軍であろうと同様だ!わたしに異論があるなら、このわたしに挑み、倒してみろ!わたしは欲にまみれた世界が滅ぶまで戦い続ける!」




 アリシアは左マウントハンガーからG3SG-1を抜き、銃口に光が収束していく。

 それはアリシアの意志表示、そのものだった。




「敵から光学反応!」


「馬鹿な!APの出力で撃てるはずが!」




 だが、そんな期待は神の前では脆く、アリシアは”宣告”でも下すように引き金を引き、蓄えられた光を解き放つ。

 放たれた蒼い高出力のレーザーが敵のパラボラアンテナを貫いた。

 貫いたレーザーの戦艦の炉心部に損失を与え、戦艦の出力はゼロに近いた。




「艦が持ちません。出力ゼロ。戦闘継続困難です!」


「艦を捨てる。脱出するぞ!」




 乗組は艦を捨て、バギーで脱出したのが見えた。




「良かった。誰も死んでない」




 アリシアは不意に笑みがこぼれる。




『わたしも良かったです』


「ふぇ?」


『あなたは他人の不幸を喜んではいない。あなたは完全には殺人マシンにはなっていない。戦闘マシンかも知れませんが、殺人マシンに人を思いやれる優しい心がある訳がありません。あなたが心を持った戦闘マシンと分かって良かった』




 アストもアリシアがマシンになっていない事を確認し安堵する。

 これが彼なりのアリシアに対する思いやりだった。




「ありがと。アスト。さて、仕上げにかかりますか!」




 ネクシレウスは敵となったAP達を一瞥した。

 国家軍もレジスタンスも戦慄した。

 撤退命令が無い以上、敵前逃亡は許されない。

 国家軍とレジスタンスは共通の敵を前に……自然と協力する様にアリシアに銃口を向ける。




「はあ~初めからそうやって手をとりあえば良かったのに」




 アリシアは半ば呆れていた。

 初めから手を取り合えば、そもそも戦いなど起きないのだから……その方が損失もなく得なはずなのだ。

 なぜ、初めからそれをしないのかと本当に呆れてしまう。



『あんな演説すれば、そうしたくなるのでしょう』


「あなたが案でもあったからやったけど……あんなキザな演説やる必要あったの?」


『人を促すにはそれ相応の口調がありますよ。多少、キザなテロリストの演説ぽくなりましたが、あなたと言う人間は口先ではなく行動に移せる者だ。あなたの意志は彼等に伝わった筈ですよ』


「出来れば、あんなキザな言い回しは懲り懲りだよ。意外と恥ずかしい……」




 アリシアはその時の事を思い出すと少し赤面した。

 柄でも無い事をするとやはり恥ずかしい。だが、考えるのは後だ。

 敵はこちらに狙いをつけ、銃弾を放ってきた。

 アリシアはネクシレウスのスラスターを噴かせた。




「恥ずかしかったけど、わたしの決意は本物だよ。あなた達はここで滅ぼす!」




 アリシアは決意を露わに敵に刃を向ける。

 それは滅びを齎す刃とする。

 それから3日の間に彼女はバビ中の敵を滅ぼした。

 国家軍の基地、レジスタンスの拠点神出鬼没に現れ、圧倒的な力で滅ぼした。




 これはそんな3日間の話。




 ◇◇◇




 バビ国内ではアリシアによる宣言により緊張が走っていた。

 昨夜の戦闘でレジスタンス側には国家軍側にも多数の被害が出ており、圧倒的な力で蹂躙された。

 レジスタンス側も国家軍側も戦力を集中させて小康状態に入った。


 強大な力が自分達を襲うとなれば、自衛の為に戦力を削る訳にもいかない。

 しかも、大胆に勝利宣言した上に未知のチート兵器を見せつけ、圧倒的な戦闘力を見せられては……何か奥の手があると警戒せざるを得ない。


 現在、西と東にそれぞれの戦力が集結し睨みを利かせている。

 西にレジスタンス、東に国家軍だ。

 昨日の首都戦では幸い、死人は出ていない。

 首都近郊にあった国家軍基地も昨日、壊滅させた。

 アリシアは首都部を占領し天使達に防衛を任せ、怪我人達の傷の手当てをしていた。

 アリシアはテントの中にいる怪我人達を奇跡とも言える力で纏めて癒した事でアリシアの事を生ける神の子とか聖女などと言う者まで現れた。


 その勢いでアリシアの銅像を造ろうとした人達には無理に禁じた。

 それは相手に唾をかける行為だからだ。

 だが、この時代ではその説明は難しい。

 ”神の大罪”よりも前は信じれば人間にとっては一番良かったが、残念ながらアリシアは非常時で生まれたような神なのであの文献にはアリシアの事は書かれていない。

 故にこの時代はアリシアを証するモノが少なく、簡単に信仰を芽生えさせる事も難しい。


 本来、神の証とは何世代にもかけて長大な時間を使って証する物であり、そこから信仰を育てる。

 そうでないとかのうせいは信じられない。

 奇跡なんて神を信じさせる為の初歩的な事であり、信仰という物は奇跡なんかでは芽生えない。


 だが、この時代は神が腐敗しているので、ある程度の奇跡とある程度のあの文献の言葉を使った正しさがないと信者は得られない。

 だから、アリシアはそのように振る舞う事にしたのだが……幸いこの国は神の大罪後も神の信じ、神の再臨を望んでいた国だったようだ。

 圧政や職業差別と言う窮地から救われる事を求めるが故に、芽生えた習慣だろう。

 アリシアがここに来たのも、彼等がアリシアの言葉をすんなり信じるのも、彼等の神を信じる因果力によるモノかも知れない。

 その後すぐに、あの村で行った契約を多くの者に施し多くの信者を獲得した。




「さて、信者を獲得したからスキルを使い易くなりました。ここから本格的に進軍と行きますか」


「で、どうやって進軍するんだ?手当たり次第に魔術でも放つのか?」




 すると、虚空からシルクハットを被った髭の男が現れた。

 人間サイズになったロキだ。

 グンとゲイルスケグルも一緒だ。

 彼らはあの後、アリシアと同行して姿を消したまま、その活動を見続けていた。

 ちなみに他のワルキューレも継続任務と言う事で地球圏にいるが、姿を隠して今も近くにはいる。




「それでも良いのかも知れませんが、それはわたしが望まぬ事ですし、あなたとの話し合いもありますから……なるべく、諍いを起さず、終わらせるつもりです」




 ロキからの地球への提案はアリシアにとっては有難いモノだった。

 その報せは、人類には良い刺激になると思ったからだ。

 偽神である彼の言葉を鵜呑みにするのは危険かも知れないが、偽神全てが悪とは思っていない。


 ここに来る途中で話を聴いて見たが、彼等が人間を”泥人形”と蔑視する理由や人間を排除しようとする理由は得心できるモノだった。

 一言で言えば、人間の行いが彼等にそのように見られていると言う事だ。

 殺人鬼が他者から酷評を受けるのも仕方がないと言うのと同じ理屈だった。

 それは別の機会に話すとしてだ。


 今はバビを滅ぼす事に専念しないとならない。

 いつ、心理兵器を使うか分からない状態だ。

 アリシアの予測では国家軍が痺れを切らせて、心理兵器を発動するまで約3日だ。

 それまでに決着をつける。

 前回はアリシアのいる空中に向けての発射だった為に人的被害はなかったが、仮に水平発射されていたら心理兵器の特性上、遮蔽物、空気の減衰など無しに射線上の人間に被害が出る。

 そうなれば、本当に大戦争の可能性があるのだ。

 それだけは絶対に避けたい。


 そうなるとまずは、国家軍から落とした方が良いだろう。

 アストが仕入れた情報では国家軍側には現在、4機の心理兵器が残されている。

 その内2機ずつ東側の北と南に配備されているとアストのハッキングで分かっている。


 約3日は大丈夫だが、絶対でもない。

 早く決着をつけたいが、戦力が足りない。

 アリシア単機で敵を殲滅するのは簡単だ。

 だが、敵に一切の反撃の余裕を与えず、となると……”神火炎術”と”神雷鳴術”、”神光術”の複合技で基地ごと皆殺しした方が早いのだが、それだと後々、諍いが起きるのでなるべく無傷で制圧したい。

 まずは一番近い南の基地からだ。


 そうなると早く、それでいて無傷で制圧するとなると戦力が必要だ。

 目の前達のロキ達が使えれば良いのだが、ロキの方針で地球には一切干渉しないと宣言している。

 無論、ワルキューレ達もそれに従順だ。

 グンは個人的には手伝いたいように口に出そうと、落ち着かない様子を見せているが流石に彼女に命令違反させる訳にもいかない。

 無理に頼んでも後々、関係が悪くなりそうだからだ。

 しかし、やはり戦力は欲しい。





(願望を言えば、それなりに強く、統率が取れ、従順なワルキューレのような……いや、待てよ。良いんじゃないかな?)





 地獄の戦いを繰り広げる中で、ナマコのような巨大生命体ヘルビーストと戦った事があった。

 その個体のスキルに”分体生造”と言うモノがあり、自分の神力で複数の自分や自分の派生型を作れるスキルだ。

 神力が分割されるが個体の身体能力などが本体と寸分違わないモノが作れたり、ステータスの範囲なら能力パラメーターを変えたりとかなり自由度の高い自分の分体が作れる。それも個体として自我を持たせる事も可能なスキルだ。





(それを使えば、或いは……)

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