蒼き戦神敬われる
アリシアを先頭とした偃月の陣で、ポセイドンめがけて進撃する。
それを阻もうと進路上に偽神達が阻むが、迫り来る偽神はアリシアに正中線から真っ二つに斬り裂かれ、上半身と下半身を両断される。
アリシアの強さを肌身で感じた偽神はアリシアを断念して側面のワルキューレ達に刃を向ける。
だが、既にワルキューレの1人1人がオーディンを超える力を手にしている。
その前に並みの偽神では歯が立つはずもなく武器ごと槍で両断され、剣を振りかざす前に神速の速さで槍を突かれ高火力の魔術で焼き払われる。
実質的な戦力比は既に覆した事で劣勢が覆り戦局がワルキューレ側に傾き始めた。
アリシアに対して懐疑的だったワルキューレ達も、その力の程には流石に納得せざるを得なくなり信頼こそしないが次第に信用くらいは芽生え始めた。
その鬼神のような進撃ぶりに偽神達すら逃亡を始めた。
元々、ポセイドンの統率力の無さが裏目に出て劣勢になると我先に逃げ始める者が連なるように出始める。
全ての穿つ弾丸の如くアリシアがポセイドンに肉薄する。
「はぁ!」
「ぬうっ!」
刀の形状になったエクリカリバーとトライデントが激しくぶつかり合い、鍔迫り合いを起こす。
アリシアはそのまま力を読み取り弾き飛ばそうとしたが敵な中々の強者だった。
アリシア意図にすぐに気づき、剣を捌かせないように力の掛け方を読み取り、力を加えて来たのだ。
ある程度、妨害するとすぐに仕切りなおしに矛を下げ、再びに矛を突き立てアリシアは体で避けたり剣で受け流し、剣を打ち付け合いを繰り返し激しい攻防を続ける。
指揮官としての能力は疑わしいが武威に関してはそれなりに強い。
だが、足りない。
「軽い矛だね」
「何だと!我が矛が軽いだと!」
その言葉通りポセイドンが回復した右腕を含めて両腕で矛を構え力を入れるのに対してアリシアは片手でそれを去なしていた。
「軽過ぎる。それでは神の名が泣くね」
グンは遠目でその一部始終を見ていた。
自分達の最大の技を簡単に去なし失望すらしていた男が同じ女であるアリシアに子供をあしらうように掌で踊らされているのが、痛快でならなかった。
そして、彼女が言うのだ。
お前など神ではない。
そう思えるほどの圧倒的な差が確かにあった。
ポセイドンは一切余裕のない顔でアリシアに食いついていたが、アリシアは清々しい顔で攻防を続けるポセイドン槍を去なしている。
神を虫けらのように踏み付け一方的に蹂躙する圧倒的な強者。
神すら超えた神”超神”とも呼べる域にアリシアは達しているとグンは感じていた。
本来なら本気を出せば瞬殺出来るのだが、敢えてそうしないようだ。
まるで自分という存在に恐怖を持たせようと恣意的に戦っているようだ。
それでいて、友軍の目を配り友軍に被害が出ないように目線がこちらに向くようにド派手に斬り合う。
ポセイドンとの1対1に割り込む敵がいれば、火、光、雷による複合魔術(?)で一掃した。
複合魔術は理論だけの魔術であり神ですら制御出来ないと言われ制御出来れば、神の中の神と称されるほどの強力な魔術だ。
複数の属性の相互作用で威力を高めながらそれぞれの属性が極度に混ざり合わないように常に制御しつつ最大効果で作用し合うように放たねばならないのだ。
その作用効率が極めて高く、火、雷、光は最高の組み合わせの1つとされている。
それを何の苦もなく放っている時点で化け物と言わざるを得ない。
そして、アリシアが目を引きつけている間に多くの敵が薙ぎ払われ、襲ってきた偽神は1人残らずワルキューレの槍に貫かれる。
「馬鹿な……これほどの……」
ポセイドンはアリシアと打ち合う度に傷を負いダメージが蓄積し跪き、忌々しげにアリシアを見上げる。
ポセイドンからしてみれば、ただ泥人形でしかない敵が神を圧倒したのだ。
あまりの悔しさに歯を軋ませるが既に反抗する意志すら根こそぎ奪われた。
目の前の敵に脚が震え立ち上がる事すら出来ない。
「このまま、撤退するならこれ以上、手出しはしません。もっとも地球侵攻は諦めてもらいますが……」
「ふ、ふざけるな!貴様らのような下等生物に屈するなどあってはならんのだ!」
ポセイドンは自分の恐怖よりも欲望と貪欲、プライド、固執を優先しトライデントをアリシアに突き立てる。
「分かりました。なら、死になさい」
アリシアはどこか寂しげにそれでいて冷やかに告げると刀を振り下ろしトライデントごとポセイドンを左袈裟懸けで両断した。
「ば、ばけもの……め」
そう言い残しポセイドンはアリシアの糧として吸収された。
尤も、今のアリシアにとってこの程度の神は雀の涙ほどの糧にしかならない。
敵としてもポセイドンと同格の獣と何度も戦った。
彼はその中に1人になったに過ぎない。
感想があるかと聞かれるなら”いつも通り”と答えるレベルの戦いだった。
特にそれで感情が揺れる事もなくアリシアは淡々としていた。
「終わったの?……ですか?」
グンが恐る恐る近づいてきた。
今は友軍とは言え、アリシアの事を格上の相手だとちゃんと認識している。
だからこそ、無礼が無いように彼女なりに接している。
「うん、終わった。被害は?」
「怪我をした人はいるけど、死傷者は出てない……」
「そっか、何とか最良に近い勝利になったかな。怪我人をここに連れて来て、わたしが癒す」
「良いの……ですか?」
「今は友軍だよ。無駄な気遣いは不要です。それにわたしに対して無駄な敬語はいりません。あの時のように話した方があなたはやり易いでしょう?」
「良いの……ですか?」
「うん、良いよ。言葉遣い程度で殺したりしないから普通に喋って」
アリシアは微笑みにグンの緊張はほぐれた。
格上の相手に恐縮だったが、その格上が普通に接して欲しいと言うからにはそれに従うのが常だ。
それにグンとしてもアリシアと普通に喋った方が楽でありそっちの方が嬉しい気がした。
「うん。分かった……」
「あの時より強くなったね。グン」
「あなたは強く成り過ぎ……」
「そうかな?」
「謙遜し過ぎ……」
「よく言われる。それが悪い事とも言われた」
「でも、そのお陰で助かった。ありがとう」
グンは軽く頭を下げはにかんだ。
友軍だが、仮にも敵に感謝を述べると言うのは中々、できる事ではない。
それでも素直に感謝を述べられるのは本当に良い娘だと思う。
その後、アリシアはワルキューレ達を一カ所に集め、自分の力を試す一環で再世の書の力を使ってワルキューレ達の傷を一瞬で治癒する。
普通に使ったつもりだったが、彼女らからするとかなり高位の術を息を吐くように使ったように見えたらしく、尊敬と羨望の眼差しを向けられた。
どうも、彼らの国では高位の神は崇拝し尊ぶ習慣があるらしく例え、異星の神であろうとそのように扱うようだ。
そもそも、ラグナロク神国とは昔の星間連合が今の形を為した国である為、異星であろうと神は神として扱うようだ。
でも、オーディンを殺したアリシアに何も思わない者は流石にいないようで、尊敬と嫌悪が混ざった複雑な感情を抱く者も少なからずいた。
それに関してはアリシアの責任なので特に咎める気はない。
恨まれるなら甘んじて受け入れるだけだ。
それを受けている時間はなさそうではあるが……。
「さて、もう少し長く話したいけど、今すぐ地球に戻らないと行けないだけど、もう大丈夫?」
「うん、後は帰れる。」
「じゃあ、ここでお別れ……」
「ーーーーーその前に少し待って貰おうか」
簡潔に挨拶を済ませようとした矢先に横やりが入り、こちらに高速で接近する男がいた。
体長50m級でシルクハットのような帽子を深々と被り髭を蓄えた次元〇介をそのまま寸法拡大したような男が現れた。
戦神眼 天授で見て見ると名前がロキとなっていた。
(名前からしてラグナロク神国の者だと思うけど……一体なんだろう?)
ロキはハンズアップしてこちらに近づいた。
無抵抗を現しているようだ。
両手を上げるのはどの世界でも似たような習慣らしい。
「ラグナロクのロキさんですか?」
「ほう……流石、異星の神だな。オレの名前は看破済みか」
男は何処か気さくで軽い感じがした。
悪意はないようだ。
ただ、北欧神話では悪意の神として知られる存在だったはずだ。
(悪意を隠す事に長けていると言う可能性もなくはないかもね……一応、話を聴くけど気を付けよう)
そう思いながらアリシアはロキに質問する。
「なんの御用ですか?宣戦布告にでも来ましたか?」
「おいおい、そこまで恐れ知らずじゃねーよ。アンタに逆らってこっち勝ち目がないのはウラヌスとの戦いでよく分かってるよ。今回はそう言う類の話をしに来たんじゃない」
「じゃあ、何しに来たんですか?」
「あぁ、単刀直入に言えば……」
ロキは少し溜めを入れてから改めて決心をつけたように恐る恐る口を開いた。
「アンタと同行して地球とのコンタクトを取りに来た」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます