愚王の誕生

 6日後

 ベナン基地に戻っていたアリシア達は機体のコックピットを使いシュミレーターを動かしていた。



「こんっの~~!」


「当たれ!当たれ!」




 フィオナ達は必死でシュミレーターを動かしていた。

 機体の慣らしも兼ねてアリシアと2対1での模擬戦を行っており、2人の眼前にはネクシル アストに乗るアリシアが立ちはだかる。

 だが、どうやっても攻撃が掠りもせず完全に見切られおり、完全に押されていた。

 教官を相手取る事の出来た自分達ですらまるで歯が立たず、アリシアの次元の高さを垣間見る。




「ヤバイね」


「うん。ヤバイね。流石にADとか神様と戦っただけに手慣れてる」


「2人とも無駄口叩かない」




 アリシアはフィオナとリテラの隙を完全に見切り刀を抜刀して接近した。

 隙が生じた瞬間にアリシアは回避行動から機動を重視した動きに切り替えた。

 ”間”を取られた彼女達からすればアリシアがあっという間に目の前に現れた様な錯覚を抱いたが、その時には既に撃墜されていた。

 コックピットから出た彼女達は汗だくになりながら、肩から息を切らせて呆然と立ち尽くす。




「あーくそ強いわね」


「本当に凄いよ。短期間でここまで差を付けるんなんて」


「全てはATと吉火さんとアストの教えあっての事だよ」

 



 アリシアはあくまで謙遜に答えるがその言葉に2人はどうにも納得いかない。




「何言ってんのよ。どれだけ良い機械や人がいても意味はない。アンタがちゃんと使い熟しているからこその成果でしょう?」


「アレでも足りないよ。私は本当にまだまだだよ」


「いや、あんな訓練普通の人がやりきるのもまず無理だと思うよ」


「だとしても関係ないよ。私は全力を尽くすだけ。それこそ、全てを絞り出すくらいに」




 アリシアの顔が不敵に微笑み蒼い瞳がキラリと輝く。

 そこにはかつてのおっとりしたか弱い彼女はいなく、強い力を感じるサファイアの様な輝きを放つ瞳があった。

 2人は彼女の瞳の輝き方に何か思う所があった。



「どうしたの?」


「いや、やっぱり変わったなーて?」


「また、その話」


「なんて言うんだろう。やっぱり、目の輝き方が昔と全然違うもん。同じアリシアでも別人みたい。昔と比べたら凄く頼もしい」


「ひどい!それだと昔はポンコツだったみたいじゃない!」


「いや、みたいじゃなくてポンコツだった」


「ポンコツだったね」


「う……」



 ドストレートな言葉だった。

 しかも、言ってる事間違ってない。

 昔ほど反論したいとは思わないが、何とも言えない恥ずかしさがある。

 あの時の自分は自惚れて自分は何でも……とまではいかないが、それなりに出来ると思っていたが、今となっては酷い自惚れだ。




「昔は口でやると言っても上手くいかない事の方が多かったじゃん」


「それに比べたら今なんて大きな事をちゃんと熟せてるんだから凄いよ」


「う……。なんかけなされている様な褒められているような、複雑だな……」


「良いんじゃない。成長したと思えば」


「そうだよ。強く成ったのは事実なんだし」


「じゃ。そう言う事で良いかな……」




 などと他愛も無い話をしているとCPCに通信が入る。

 相手はシンからであり2人に「ちょっと待って」と伝え電話に出る。




「もしもし、どうしたの?」


「アリシアか。言う機会が無かったから言わなかったが預言は覆っていない。ADまだ一波乱あるぞ」




 シンは余計な前置きなしに結論だけを素っ気なく伝える。




「やっぱり、そうなんだ」

 

「知っていたのか?」





 テリスはアリシアは事実を知らないと言っていたが……と思いながら話を聴いて見るとアリシアはさも当たり前のように自論を語った。




「確証は無かった。でも、戦いが終わった後に必ず油断が生まれる。だから、何かの意志があるなら私が油断した時に何かを仕掛けると思っただけ」






(こいつ、直感的に感づいてる。今、この世界で起きている事を知っている……気づいているのか……小出ししてみるのも手なのか……)





 今までの話からアリシアはその相手の事を知らないと言うのは薄々、分かっていた。

 だが、いつまでもその事を知らないままにいるにはアリシアは大きく成り過ぎた。

 相応しい地位にある者は相応しい事を知っていないとならないとシンを思い伝える事にした。




「アリシア。お前、エレバンと言う名前に心当たりあるか?」

 

「エレバン?確か、エデンの園があるとされる実在の地名だったかな?」


「いや、地名じゃなくて組織名として知らないか?」


「知らないけど、一体何なの?」


「エレバンとは世界を裏で管理する組織の事だ」


「なんか胡散臭いね」




 アリシアは率直にそう思った。

 そう言った秘密結社絡みの話は昔からよくある事だ。

 その中には嘘もあれば本当のモノもあるが陰謀事態が眉唾物で胡散臭いと思うのが当然だ。




「だが、実在する組織だ。お前は滝川 吉火から歴史の座学を受けたか?」


「うん。受けたよ」


「なら、WW4が起きた原因は何だと聴いた?」


「訳も分からないままアメリカと中国に核が落ちた。だったよね」


「大雑把に言えばそうだ。その訳が分からず核が落ちた原因を作ったのがエレバンだ」


「そうなんだ」




 アリシアは事実を淡々と受け止めた。

 まるで最早、当たり前の事実の如く受け入れている。




「あまり驚かないな」


「驚いてるよ。でも、文脈からしてそんな気もしてた。それに世界は身勝手にどうとでも動ける現実知っちゃってるからさ。今更、その身勝手が1つ2つ増えた所でそこまで驚かないよ」


「なら、NPが対エレバン決戦の為に作られた事も知っているのか?」


「やっぱり、今の話を聞いたらそんな気がした」


「お前、どれだけ計算高いんだ……」




 流石のシンも呆れてしまう。

 とっておきの情報を開示しているつもりなのだから、少しは驚いてくれた方が張り合いがあるのだが、まるでのれんに腕押しだ。




「吉火さんが何かを隠しているのは契約時に分かってた。何を隠してたのかは今、知ったけど。それなら、色々辻褄が合うしね」


「分かってるなら本題に入り易いな」


「今のが本題じゃないんだね」


「そうだ。アストと契約を結んだなら1度や2度は聴いただろう。俺達が悪魔と戦うと」


「うん。悪魔には色々世話に成ったからいつか御礼でもしたいなって、思ってるよ」




 御礼の意味は文字通り悪魔に報復する。

 見つけ次第、殲滅し根絶やしにしてやると言う意味が殺意と共に言葉に籠っていた。

 シンはそれを頼もしく思う反面、少し背筋に悪寒が奔った。

 アリシアが持てる力の全てを使って徹底的に排除する姿を容易に幻視できたからだ。




「そうか。御礼出来ると良いな」


「それで話って?」


「今、この世界で起きている事は全て悪魔が仕向けた事なんだ」


「悪魔が仕向けた?」


「そうだ。人の世の在り方、思想、正義全て悪魔が仕向けた事だ」


「あぁ、なるほど。つまり、エレバンが存在するのも悪魔が仕向けた事なんだね」


「そうだ。人とは原来、悪魔の眷属、偽神の眷属とも言えるな。悪魔の力を蓄え神に反逆する為の贄だ。悪魔の手の平の上にいる限り人間は悪魔が掲げる平和と正義の為に戦いは繰り返す。俺達が真に戦うのは悪魔だ。悪魔が倒れない限り人類に真の平和は無い」




 彼の言い分はアリシアの中にあった疑問をストンと解決した。

 世界の歪さも無秩序さも全ては悪魔が仕向けた事と考えるのが、彼女の中で当てはまる所でもあった。

 それに悪魔は偽神の眷属である。

 それは偽神の僕と言う事になる。

 確かに人間が悪魔=偽神の隷属化にあるなら、言いなりも同然だ。

 例えば、金や権力を動かせば戦争になるし、宇喜多のような貪欲で無秩序な者を上の人間に据えれば、簡単に争い合うだろう。

 宇喜多のような人間の指揮官にするのは可笑しいと思っても奴隷となった人間が偽りの証言をするなら可笑しくも宇喜多が指揮官になれる。





「悪魔を倒すにはどうすれば良いの?」


「今は分からない。何せ目に見える存在じゃない。だが、悪魔が仕向けた戦争や主義を破壊すればあぶり出す事は出来る」


「その為の預言の破壊だね」


「後は英雄ヒーローを殺す事だ」


英雄ヒーローを殺す?」




 謎の単語が飛んだ。

 何故、ヒーローを殺すことが悪魔と戦う事になるのか?

 その理屈がイマイチ分からず首を傾げた。




「ヒーローとは人の世の守る為にいる。それは悪魔の理を守る事と同義だ。世界には”英雄因子”と呼ばれるその英雄の英雄悪を詰め込んだ因子を持つ者がいる。そいつらは人の理を正義としそれを守る為に多大な戦果を残す」


「つまり、戦いに正義や人理を持ち込んで戦乱を拡大させる集団。それが英雄って事?」

 

「そうだ。自分の歩む道を綺麗なモノと思い込んで罪を立ち返らないタチの悪い集団だ。人とは本来、そんなモノだがそれを更に厄介にした悪魔のような連中だ」

 



 シンの言葉に熱が入る。

 彼の英雄に対する想いが自然と溢れ出て、それが憎悪によるモノだと容易に想像できた。

 その時、アリシアは不意にある事を思った。




「だとしたら、私は悪魔だ。大きな戦果を残し人を守った悪魔だね」




 アリシアの気持ちは沈み込んだ。

 彼の言い分は理解できる。

 だからこそ悪魔を嫌う彼女が悪魔の手助けをしたような気がして落ち込んでしまった。

 だが、シンはアリシアを悪魔などを思っていない。

 アリシアが悪魔であるはずがないのだ。

 悪魔を多く見たシンだから分かる事だ。




「言っとくがお前は対象外だぞ。その英雄の特徴はまず、自我が強く、自らの贖罪をしようとしない事だ。一番前者は罪かもしれないが、それは問題じゃない。問題は罪を悔いようと努力する事だ。お前は自分を押し殺してまで責任や子供達を救おうとしただろう。英雄にはそんな事は出来ない。お前は英雄じゃない」




 現にその通りだ。

 たしかに彼女も独善で3均衡を襲うという暴挙に出たかも知れないが、それも普段から悔い改める誠意があるから為せたのだ。

 口先で正義を語る事は誰でも出来る。

 暴力や奇跡で証を立てる事も誰でも出来る。

 だが、普段の行いや品性で証を立てる者は少ない。


 独善だけ語って武力行為という楽な道を取るからだ。

 言っておくが、奇跡など可能性かみを信じる上でただのオプションに過ぎない。

 本当に信じる気持ちが薄い人に施す事が奇跡であり、可能性を深く信じる上で奇跡など何の役にも立たない。


 かつて、イエスは少年の持つパン5つと魚2匹で5000人以上の人間を食べさせたがそれだけ奇跡を見ても最後までイエスを信じた者達は12人しかいなかった。

 つまり、奇跡があっても人類の可能性、力、正義などを主張する上では何の役にも立たない。

 そんな奴は証と言う誠意を施す事を面倒に思う怠惰な凡夫のする事だ。

 そいつがアリシアのように子育てをしているなら証となっているだろう。

 何故なら戦いと言う奇跡と力は立場により善悪が大きく別れるが、子育てを悪と断じる者は多くはいない。


 それが正しさとしての証だ。

 人を殺すのは簡単だが、子供を育てるのは難しい。

 何事も作るエネルギーより破壊するエネルギーは少ない。


 壊す事や敵意を向けて喧嘩したり戦う事なら誰でも出来る故に重みはない。

 やっている行いという証の重みが違うのだ。

 職業軍人として戦うならそれでも良いかもしれないが、そんな奴らが可能性とか正義など語るのは反吐が出る。

 奇跡や力は正義や可能性の証とはならない。

 だからこそ、本物の神ほど自分を証する時、気軽に奇跡など起こさない。


 人の世に生きている以上、誰かが正義を決めないとならないかも知れないが、証も無い口先と権力と力だけの物など脆く、いつか崩れる。

 その過程で弊害も生む。

 それがシンにとっての英雄だ。

 誰もアリシアのように罪を悔いる事に真剣ではないし、子育てと言う良い行いで証を立てようとはしない。

 子育ては手間はかかるがそれだけ説得力を増す行いだ。

 英雄は面倒に思うがアリシアはやる。

 だから、アリシアのなす事は自然に正しさを帯びるのだ。

 それをシンは落ち込んだ彼女に理解しやすいように語った。




「そうだね。どうやれば良いかイマイチ分からないけど、自分が信じた事をすれば良いと言うのは分かったよ。うん。出来るよ」




 シンは安堵したように不意に笑みを零す。

 



「そうだ。お前は今で通り悔いて子供を真剣に育てろ。ただし、英雄と同じ事はするな。知っていてやる事は高慢な事だ。高慢がどんな結果を産むか分かるだろう?」




 アリシアは高慢と言う単語に思うところがあった。

 あの映像で見た虐殺もヒーローも全て高慢から溢れ出た結果だ。

 彼女の中から沸き立つ感情が激しく嫌悪する。




「高慢には成りたくない。分かった。気をつけるよ。それで今後、どうするつもり?」




 アリシアは気持ちを整えシンの本題を聞こうとした。

 シンがただ単に電話してきた訳ではないのは理解しているからだ。




「それをこれから考える。4人で落ち合えるか?」


「わかった。いいよ、また、後でね」




 彼女は通信を切った。

 シンとの電話を切るとコックピットの2人の降りるように指示を出し、2人に向かい合い伝えた。




「2人とも新しい任務が決まったよ」


「なんか聴く前からヤバそうな気がする」


「ヤバそうじゃないよ。ヤバいのしかないよ」


「2人の中で私はどんなキャラクターになってるのよ!」


「頭が吹き飛んだ変人!」


「危険の塊みたいな奇人!」


「酷~い!」




 3人の仲睦まじく会話が格納庫に響く。

 彼女はどこかで思う。

 こんな日が続けば良いと。


 ただ、少し気がかりがあった。

 アレから丁度、10日。

 アリシアに打ち込まれた呪いはピークを迎えていた。

 平静を装っているが実は倦怠が凄い。

 敵がどこから仕掛けてくるかも分からない。

 天音にはこの事を知らせているが総司令部には伝えていない。


 リオ ボーダーは黒い。

 アリシアの弱体化を狙って何かを仕掛ける可能性もゼロではない。

 一応、機体のオーバーホールを言い訳に仕事は受けられないとしておいた。

 休暇だと無理やり呼ばれる可能性があるからだ。

 何事も取り越し苦労なら良いのだが……。





 ◇◇◇




 ???


 宇喜多はとある場所に連れて来られていた。

 追っての車両やヘリは何故が動作不良に襲われ、その影響で交通が麻痺した。

 宇喜多への追撃が消えた事で宇喜多は楽々と逃げる事が出来た。

 その後、各地を転々と移動させられながら、この場所に着いた。

 その過程で様々なニュースを見た。

 例えば、コードブルーと呼ばれるアリシア アイという小娘が英雄視されている事だ。

 中には彼女を女神や女王と呼ぶ者まで現れるほどだ。

 気に入らない、非常に気に入らないとつくづく思った。


 そして今、何処かにいるのだが、何処にいるのか分からない。

 車を降り車の中あったCPCをつけ案内に従うままに来た。

 中は薄暗く来る過程で内部が入り組んでいる事以外分からない。

 CPCを操作して暗視カメラ機能が無いか調べたが、オミットされているようだ。

 頼りになるのはグリーンに表示された矢印だけだ。

 薄暗い廊下をCPCのグリーンの矢印に従い進んで来たが、既に案内は消えている。

 薄暗くてよく分からないが足音が反響する事からかなり広い空間である事だけは分かる。




「ここは何処だ?」




 誰もいない空間で宇喜多は誰かに不平を漏らすように呟いた。




「ここは我が内の中だ」




 突然、声がした。

 宇喜多は周囲を見渡すが、誰もいない。

 薄暗いが中には自分以外誰もいない。

 すると、いきなり辺りが明るくなる。

 突然の明るさに右腕で目を覆い光に慣れると覆っていた腕を退け、辺りを確認する。

 周りには円卓状に並んだ椅子と巨大なモニターが存在していた。

 宇喜多に一番近い円卓の一角には赤いワインの注がれたグラスが置いてあった。

 宇喜多は取り敢えず、目の前のその椅子に座った。




「よく来たな。ワインでも飲みながら寛いでくれ」




 宇喜多は恐る恐るグラスに手をかけるが何を考えているか分からない奴のワインを飲むのは、流石に気が引けるのか、そのまま円卓に戻す。

 すると、モニターが点灯した。

 モニターには道化師の仮面が浮かぶ。

 道化師はまるで宇喜多を見つめる様に画面から覗き込む仕草を見せる。

 その仕草はリアリティがあり、覗き込む道化師の顔が動く。

 宇喜多はふざけた仮面でそんな仕草が気に入らない様で苛立った様な口調で聞き返す。




「お前か。俺をここに呼んだのか?」




 道化師は聞かれた事に応えようと覗き込む仕草をやめた。




「如何にも。我が名はファザー。世界の管理者にして神だ」

 



 このふざけた顔をした奴が神だと?と一瞬思ったが、宇喜多はその名に聞き覚えがあった。

 



「ファザー?ファザーってのはエシュロンファザーのファザーか?」



「そうだ。そして、我がお前の支援者でもある」




 宇喜多は眉を動かした。

 宇喜多が今まで上手くやって来たのは謎の支援者Fによるものだからだ。

 Fは自分の行動をアシストし危険が迫れば回避する術を与え、彼の汚職を隠蔽し放火システムを教えた。

 たしかに謎の存在で不審に思わなかった訳ではないが、同時に非常に有用な情報をくれた事でそこまで詮索はしなかった。




「成る程、お前がFか」

 

「そうだ。お前を支援したお前のファンだ」




 ファザーは上から目線な口調で宇喜多と話を進める。

 宇喜多からすれば人工知能風情が偉そうな口調で話しかけてくるのが癪に触る。

 加えて、ふざけた道化師姿で口を動かす姿も気に入らない。




「なら、何故。宇宙での戦闘の時俺を助けなかった?俺のファンなら助けても良かった筈だ?それとも偉そうな事を言ってその程度の事も出来ないのか?」



 

 宇喜多は自分が受けた境遇からファザーに不平不満を漏らす。

 まるでファザーを試す様な口でファザーに苛立ち混じりに挑発する。

 



「頃合いだった。それだけの事だ」




 それに対してファザーの返答は単純だった。




「頃合い?」


「お前を我の元に置きたかった。我が目的を果たす為にお前が必要だ」


「目的とは何だ?」


「世界平和だ。その為には絶対的な王が必要だ」


「王?」




 宇喜多は引っかかる単語を聞き返した。




「お前の事だ。宇喜多元成。お前が王となるのだ」




 傍から聞けば喜ぶ申し出だが、何より唐突な出来事に流石の宇喜多も警戒心が拭えない。

 とにかく、自分が利用されるのだけは絶対に阻止せねばならない。

 あくまで利用するのは自分なのだから……。




「それはお前の傀儡になれと言う意味か?」




 宇喜多はストレートにファザーに質問を返した。

 人工知能の性質として人間には嘘をつけない。

 根底的な目的なために伏せる事はあろうともある程度、正確の情報を答える様に出来ている。




「傀儡ではない。お前が我を使うのだ。我はあくまで道具であり人工知能。目的の為に行動するのみ。目的の為にお前に仕える必要がある。それだけだ」




 宇喜多は感じていた。

 ファザーが人工知能である以上、プログラムされた事に基づいた行動をする。

 人間の様な嘘を付く事は無い。

 ファザーは何か決められた指示に従い自分を王にしようとしている。

 そう判断出来る。

 仮に何か計り知れない演算をしていたとしても一度誘いに乗り「王」とやらの力を行使して対策を練れば良いだけの話だ。




「王になると何ができる?」




 宇喜多は一番知りたい事を聞いた。

 王の力がいかほどのモノか分からなければ、判断しようがない。

 すると、ファザーはある映像を見せた。

 そこは薄暗い部屋でホログラムで映る3人の人影があった。

 そこに映る1人の顔に宇喜多は見覚えがあった。


 リオ ボーダーだ。

 

 更に大統領であるビリオ ハーバードもいる。

 これが3均衡による会議だとすぐに分かった。

 どうやら、秘匿されている3均衡の会議を盗聴する力があるらしい。




「他にはないのか?」

 

「他には本物と差異の無い命令書の発行が可能だ。これで世界中の軍がお前のモノだ」




 ファザーは画面にデータの命令書を表示した。

 その横にはかつて宇喜多が書いた命令書と全く同じモノだった。

 しかも、ファザーはその場で北米基地司令官を暗殺せよと書かれた命令書を発行しそのままFBI合意のサインを得た。

 サインから何まで全く同じモノ。

 しかも、命令書は出す前に不法性がないかFBIに審査に出されるのだが、どうやらファザーはどんな命令もFBIの審査を通した事にして合意を得られると知った。

 加えて、北米基地の司令官が前々から気に入らないと思っていたのだからこの行為が宇喜多の好感を上げる。

 気分の良くなった宇喜多は同意した。




「良いだろう。その話に乗ろう」




 宇喜多の言葉にファザーは反応し処理を始めた。




「承認を受諾。最上位権限を設定。マスター指示をお願いします」




 ファザーはさっきまでの態度を変え、謙る様に宇喜多に仕える。

 宇喜多は不気味にニヤリと笑う。




「よし!まずは小手調べに俺を散々コケにした。コードブルーアリシア アイを潰す。直ちに部隊を編成し事に当たらせろ!」


「了解」




 宇喜多は勝ち誇った様にニヤける。

 自分は今、地球を統べる王と成った。

 優越感と喜びが何とも言えない感覚を掻き立て、その衝動が気に入らない奴は潰せばと囁き、それが善であるかのように肯定し自分を苛立たせた奴が悪いと責任転嫁する。

 仮に世界を救った英雄だろうと反逆者に仕立てあげれば、テロリストであり、自分の善悪で全てを決められる全能感に酔いしれる。

 どれだけ武威に優れていようと権力という力がなければ世界は変えられない。

 女王と言われようと宇喜多にとって邪魔な無力な小娘に過ぎない。

 何より天音と関係性がある自分の計画を潰した張本人が宇喜多にとっては邪魔で邪魔でならない。

 短絡的な目先の欲が彼を掻き立て誘惑する。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る