変わった友達、変わらない友達
レベス基地
ここは放火のより徴兵された訓練兵が訓練する為の基地であり、そこで2人の訓練兵が呼び出された。
「エスポシスト訓練兵!オコーネル訓練兵!」
「「はい!」」
2人の女の子の訓練兵は教官である軍曹に敬礼した。
彼女らはアリシア アイの幼馴染のフィオナとリテラである。
あの日以来、ここでずっと訓練を続けていたのだ。
自分達で言うのもなんだが、訓練兵としてはかなり優秀な成績を収めており、特にフィオナは乱戦や近~中距離戦の戦いに非常に秀でハンドガンやナイフの扱いが卓越していた。
リテラに至っては幼い頃から狩りにしていた事もあり、ライフルなどを遠距離戦に卓越した技能を身に付けていた。
自分達で言うのもなんだが、この学校ならその分野で教官にすら負けた事はない。
そのせいで暴行を働かれたこともあった。
それを気にした事もあったが、今は特に気にしていない。
いや、気に出来なかった。
自分達とは違う何処かの訓練校に送られたであろう幼馴染の活躍を聴いたら、自分達のいじめ等、些末に思えた。
その幼馴染は自分達では到底、勝てないような強敵に打ち勝ち、つい先日のニュースで2つの勲章を授与され、なぜか名誉貴族にまで成っていた。
きっと、フィオナ達では想像できないような苦労をしたのは彼女の顔を見れば何となく分かった。
昔は大人しく、気弱だった彼女が大人達の前で臆する事すらせず、に堂々と壇上に上がった時のあの顔はまるで別人だった。
今、彼女はどこで何をしているのだろう。
だが、それよりもフィオナ達2人は神妙な顔をした教官の前に立たされている。
雰囲気からして碌でもない事に違いない。
「略式だが、辞令を伝える。現時刻を持って貴官らは訓練課程を卒業する。おめでとう」
「えぇ?卒業ですか?」
「まだ、早いのでは?」
「君達は優秀な成績を修めている。既に卒業に足るだけの実力があると判断された」
「「ありがとうございます!」」
((全然嬉しく無い!))
正規軍に任官する事はどうにも反発心がある。
なんであんな酷い目に会わせた組織の為に自分達が命を賭けなければならないんだ!と内心激しく思っていた。
「尚、君達が配属される極東の部隊長が自らお越しになっている。既にその扉の向こうに待機している」
((もう来てるの! 一体どこの誰よ?!))
ゴッツイ男かそれとも女傑か2人は会う前からそんな想像をした。
「中佐!お入り下さい!」
そして、部屋に入って来たその人物にフィオナとリテラはハッと成った。
白みがかった蒼髪が特徴的な忘れもしない人物……あの頃とは違い背筋がビッシリと伸び、おっとりした顔立ちの中にどこか凛々しさすら醸し出す風格……雰囲気はだいぶ変わってしまったが見間違えるはずがなかった。
「紹介しよう。彼女は……」
「軍曹。紹介は自分でします」
その女性の瞳は蒼く強い輝きを放つ瞳でこちらを見つめる。
軍曹はそれに畏怖にも近い威圧を覚え「はぁ!申し訳ありません!」と頭を下げる。
あの人に頭を下げない軍曹をいとも簡単に頭を下げさせるほどの圧倒的な威圧感を感じる。
目の前の彼女は自分達よりの遥かな高みにいる存在……訓練したから多少は分かる。
彼女は”化け物”と呼ばれる部類の人間になっていると……。
「軍曹。一度、部屋から出て貰えますか?彼女達とだけで話がしたい」
「了解!」
軍曹は踵を返してそのまま部屋を出た。
軍曹が居なくなったところでアリシアはさっきまでの雰囲気を変え、親しみ易く命令した。
「もう私語で話しても良いですよ。命令です」
「「了解!」」
して、最初に口を開いたのはフィオナだった。
「アンタ、何してんの?」
「ん?仕事だよ」
「いや、フィオナはそう言う事を聴いてるんじゃなくて……」
フィオナの言葉をリテラが補足する。
「うーん。じゃあ、迎えに来た?」
「何で疑問形!」
フィオナがツッコミを入れる。
「あぁ!そうだ。これ押さないと」
相変わらずの変人ぷりに振り回されながらもアリシアはそんな2人の事を歯牙にもかけず、軍服の内ポケットからスマホPCを取り出しボタンを押した。
「なにを押したの?」
「この基地全ての自決カプセルの効果を無効にしたの」
「嘘、そんな事が……」
フィオナもリテラも信じられないと言う顔をしている。
ここの機密レベルは極めて高く、並みの軍人では早々介入もできず……況して、計画に介入するような真似すらできない。
彼女の言葉を鵜呑みにするならアリシアは情報漏洩防止の為の自決カプセルの機能を停止させた事になる。
それはよほど、高位の軍人でもないと不可能だ。
それも3均衡並みの権力でもないと出来ない事だ。
「多分、カプセルはしばらくしたら体外に排出されるよ」
「いや、それよりも何であなたが解除コード持ってるの?」
突然、現れた友人のあまりに唐突な行動に何が何だか分からない2人は思わず尋ねた。
「それなりの地位にいるって、事だよ。上の人に掛け合って放火を止めさせたの」
「放火を止めた……」
「また、ぶっ飛んだ事を……」
前々からアリシアは頭のネジが抜けていたが軍隊に入ったせいなのか、更に拍車がかかているような印象を受ける。
難民キャップにいた時は爆弾作る程度で済んでいたが、それが可愛く思えて来る。
流石の2人でもそれがどれだけ難しく、どれだけ無謀な事か、知っているつもりだ。
それを恰も平然にやっているように見えるのだから、フィオナもリテラも開いた口が塞がらなかった。
「だからここにいる人達はしばらく実戦に送られる事は無い。軟禁はされるけど実質放火は停止したから正規兵になる事は無いよ。今はね」
2人は久しぶりに見た親友のとんでもない行動に驚くばかりだ。
しばらく見ない間に彼女は相応の地位と力を持って現れ、結果的に自分やここの仲間を救いに来た。
彼女が何をしたのかは分からないが、きっと相応の努力と困難を乗り越えたのは容易に理解出来た。
自分達を救う為に想像もできない困難をやり切ったのだと……容易に想像できた。
「それよりも2人に確認したいな」
「「なに?」」
「私はこのまま軍に残るけど2人はどうしたい?」
「どうしたいって……アンタの部隊に入るんじゃないの?」
「入らなくても良いよ。私は残ると決めただけどあなた達が振り回される必要は無い。帰りたいなら帰す準備はあるよ」
「あなたはこれからも戦うの?」
「自分がした事のケジメは付けないと行けないから。ここに来るまでに私は望む望まないに関わらず色んな人に影響を与えた。それに咎があるなら私が贖罪しないといけないと思うから……」
最後に別れた時の弱弱しい彼女はそこにはいなかった。
少なくとも昔に比べたら遥かに逞しく見え、その大人びた覇気に2人は中てられる。
「真面目ね。そんなのすっぽかして楽しく生きれば良いじゃん」
「私にそんな資格は無いしそうする必要もない。確かにやりたくはないよ。でも、私の罪を贖罪するのは私でないと出来ない」
「……アリシア。あなた、変わったね」
「うん。わたしもそう思う」
「変わった?」
それにフィオナが補足を加える。
「変な意味はないよ。ただ、昔のアンタなら本当にやりたくない事はやらない子だった。あなたは兵士として向いているとは思えない。本当は殺したくはないはずだよね?」
アリシアはそれに関して何も言わなかった。
どうやら、今でも「殺したくない」と言う性格は変わっていないようだ。
だが、それがアリシアらしいところでアリシアのその方が良いのだ。
でなければ、それはアリシアではないとも言える。
アリシアからその感情を取り除いたら、今までの戦闘は殺人マシンと成り果てたサイコパスがやっている事と変わらない。
少なくともフィオナ達はそんなアリシアは見たくはなかった。
もし仮に出会う事があったらと考えた時、アリシアらしいところが変わっていたらと心配していたが杞憂だった事にそっと胸を撫で下ろす。
「でも、やりたくないのにそれにちゃんと向かい合おうとしているのが今のあなただよ。ちょっとかっこいいかな」
「私は変わってないよ。ただ、必要だからやってるだけだよ」
「だとしても確かに変わったところはあるよ」
「?」
「あなたは昔よりも強いって事。少なくとも私達よりも強いよ。私にはあなたみたいな瞳は出来ない。その瞳は本当に辛い事を乗り越えて来た人の瞳だと思うよ」
リテラはアリシアの良いところを素直に述べた。
それが心から出る言葉であり他意はないし裏も無い。
寧ろ、その強さに憧れすら抱く。
「私は大した事はないよ。まだまだ未熟です」
「やっぱり変」
「うん。変だね」
2人は重ね重ね言いたくなるくらい今のアリシアは昔と違って変だった。
それは良い意味でである。
「ふぇ?」
「だって、アリシアなのに謙虚だもん」
「そうだよ。少なくとも謙虚な事なんて言わなかった。今までなら「私凄いでしょう」とか言うけど謙虚さなんて無かった」
「私そんな風に見られてたんだ……」
振り返ると過去の自分が恥ずかしい。
今のアリシアにはそんな事は言えない。
2か月だけだが、もう古い自分は今はいないのだとリテラ達の言葉でよく理解できた。
あの時の自分は今よりも子供だったんだな……としみじみ思う。
「まぁ、今はその話は良いや。あなたは今、何をしているの?」
「極東の極秘部隊の隊長かな。コードブルーって言えば分かるかな?」
リテラとフィオナ驚嘆した。
コードブルー……その名は彼女達の耳にも届いていた。
ルシファー事変やこの前起きた宇宙軍侵攻戦役でも多大な戦果を出した精強な極秘部隊として名前は通っている。
「えぇ?嘘、アンタがコードブルー?」
「そうだよ」
「まさか、身近な人が今、噂の人なんて驚きだよ」
リテラ達もオーディンの討伐の件はニュースで知っていた。
最初は軍のくだらない示威行為の式典と思い、式典内容や誰が表彰されるかなどは知らなかった。
偶々、ニュースを見てそれがアリシアだとようやく知ったのだ。
主にニュースではオーディンを討伐した事に目が行きがちでそればかりがイメージとして定着していたが実際、ニュースのアリシアの略歴欄にはコードブルーとしての活動記録もしっかり書かれ、それも表彰されていたのだ。
2人はその時初めて友人がかの有名なルシファー事変やエジプト事変を止めた功労者だったと知った。
それで勲章2つ貰える事にも納得がいった。
「じゃあ。わたし達が所属したらどんな事をさせるの?」
「それは極東司令のオーダー受けたり不正を働く人を叩き潰す憲兵染みた事とかテロリスト殲滅したり何でもするかな?その分、苛烈な戦いになるかも」
フィオナは「ふーん」と言いながら腕を組んながら少し間を置いてから即答した。
「分かった。その話乗るよ。リテラは?」
「右に同じ!」
リテラは右手を挙げて答えた。
「速い!そんなに簡単に決めていいの!言っておくけど生存率なんて一桁行けば楽な作戦だよ!本当に良いの!」
流石のアリシアもツッコンだ。
部隊にスカウトしに来たとは言え、友人を危険な目に合わせるのはどうにも憚る。
入隊してくれるのは嬉しいがもっと慎重に考えて欲しいところだった。
「いや、だって……ね?」
「そうだよ。あなたばかりに助けて貰って貴方1人に戦わせて普通の生活に戻ったら絶対後悔するもん。あなたは私達を救う為に一生懸命やってたのは分かる。それなのに借りを借りたままのうのうと生きられる訳が無い!元の生活に戻るにしてもあなたに借りを返し一緒に帰るの!」
「まぁ。そう言う事だから。それにあんたが良く言ってただろう。
「2人とも」
アリシアは嬉しかった。
いや、心の何処かでその答えを待っていたのかも知れない。
やはり、1人だと寂しい。
だから、アリシアは自然と彼女達が断りにくい言い方をしていた様に思える。
卑怯なのだ。
だが、そんな自分勝手な自分を理解した上で彼女達に拒否権を与える様にも言っていた。
この2人が付いてきてくれると言ってくれた事は素直に心強かった。
「ありがと……」
アリシアは2人に近づき2人をギュッとハグし2人はそんな彼女に微笑み返した。
「さて、これからどうするの?隊長さん」
「そうだね。入隊する前に合わせたい人がいるの?」
「会わせたい人?」
「いや、人とは言えないかも……」
「何それ?釈然としないわね」
「まさか、人間じゃないとか?」
「うん。そうだね。人間じゃないね。えーと、会ってほしいのは私の相棒かな?」
こうして、新たな一歩を踏み出すのだった。
これが彼女にとっての生涯の同志となるフィオナとリテラとの新たな始まりだった。
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