勲章授与と副賞

 アリシアはジュネーブにいた。

 ここまで来るのにまるでVIPの様な扱いで運ばれた。

 兵士であるアリシアに護衛に兵士をつけると言うのも何か不自然な気がした。

 ただ、そのお陰で分かった事があった。

 戦神眼で彼らのステータスを見たが全員が邪人になっており、妨害耐性力がEXだった事だ。

 どうやら、マリナ ベクトの様な人間の方がかなり希少な部類の人間で人間と言うのはデフォルトで邪人らしい。

 アストから色々、レクチャーを受けたがこの様子だと”過越”を受ける見込みがなさそうだ。

 見込みがあるとすればマリナ ベクトくらいかも知れない。


 あと、分かったのは兵士達のスキルの強度は一番強いベテランと呼ばれる人間でも射撃術8とかなり低い。

 今までの情報を整理すると通常の人間のステータスはベテランでも10前後のスキル強度しかないようだ。

 それを考えるとマリナ ベクトの”医術”50は人間レベルなら神の手レベルの規格外の”医術”かも知れない。

 逆にアリシアみたいに神の加護がある訳でもないのにその域に達しているのは素直に尊敬できるレベルだった。

 アリシアは式典が終わっても少しの間精密検査を受けねばならないらしい。

 その時に少し話せるかもしれない。

 本来ならこんなすぐに公の場に連れて来ないらしいが、軍の威光を示すために示威的にやらねばならないと聴いた。

 仕方がないとは思うからそこは特に言う事はない。


 晴天の青空の元、ジュネーブ総司令部前に作られた壇上には多くの人間が犇めき合っていた。

 大半が報道関係者と各軍事関係者で構成されている。

 整列した兵士達が一糸乱れぬ事無くラッパを吹き鳴らす準備をする。

 壇上には総司令官であるリオ ボーダーが立っており赤い絨毯が真っすぐと伸びている。

 カメラや報道関係者のカメラが今か今かとその時を待つ。




「では、これより授与式を行う!」




 リオ ボーダーの宣言と共にラッパが一斉に吹き鳴らされ、調律の取れた音が澄んだ空気に穏やかに溶け込む。

 アリシアは赤い絨毯の道を沿って臆する事無く堂々と歩く。

 アリシアが視界に入るとカメラのフラッシュが一斉にたかれ、報道のカメラがアリシアの顔を追う。

 一部の軍関係者はアリシアの顔を初めて見て各々の感想を述べていた。




「なんて、神々しいのだ。まるで女神のようだ」


「豪傑少女と聴いていたが中々の美貌だ。それに腕も悪くない」


「アレが神を殺した少女か。うん、中々の覇気だ」


「ぜひ、我が部隊の指導教官(ドリルインストラクター)として雇いところだ」


「我が息子の嫁に来てくれないだろうか……」




 2割はアリシアの容姿を誉め、6割はアリシアの技量をある程度看破した上でのお誘い、残り2割は政略結婚か何かのお誘いだろうか?

 容姿に関しては自分で肯定もしないが否定もしない。

 指導教官の話には興味がある。

 自分にそれほどの技量があるのか分からないが、人に教えると言うのは自分の熟達にも繋がる。

 自分の技術向上のために一度は経験したいと思った。

 仕事が来たら受けても良いかも……ただ、結婚に関してはお断りだ。

 アリシアは壇上に上がり総、司令に敬礼し総司令もすぐに敬礼で返した。




「アリシア アイ中佐。実に見事な働きであった。国を守る一振りの剣として今後の働きも期待する」




 リオ ボーダーはアリシアの左胸に黄金に輝く翼の勲章と銀とガンメタリックブルーのラインがが入った西洋剣の勲章をつけた。

 なんとか終わったみたい。

 一応、こう言う式典の作法を最低限学んだがどうやら、卒なく熟せたようだ。

 あとは普通に絨毯に沿って帰るだけ……と思っていた。




「続いて副賞授与を行う!」




(ふぇ?副賞?えぇ?何も聴いてないけど?)






 アリシアは困惑の顔に押し込め黙って背筋を伸ばして待つ。

 すると、1人の女性がアリシアに歩み寄って来る。





(この人、誰?)





 出席する軍関係者の顔と名前は把握したはずだが、まるで記憶にない人が出た。

 中々、気品が備わった顔立ちのブロンド髪のロングヘアの女性だ。

 まるで王族を思わせるような風格すら伺える。

 アリシアも一応、権王と言う役職が与えられている以上、こう言った雰囲気が必要なのかもしれないと思った。




「イギリス自治区。代表。レベッカ ヨーク代表より爵位と領地が提供されます」




(ふぇ!?爵位?領地?なんの事ですか?ちょっと誰か説明して下さい)




 女性は柔らかい面持ちでにこやかに賞状を渡した。




「おめでとうございます。今日からあなたは名誉貴族です」


「……謹んで拝命致します」




(いや、別に要らないんだけど……でも、ここで断ったら印象悪くなるし……)





 アリシアは顔には出さずにこやかな笑みで返した。

 その後は何事もなく式典が続き無事に終わった。

 それと軍の命令で後日イギリスに赴くように言われてしまった。

 アリシアが事情を聴きたいと言ったが、「ヨーク代表が話す」と言われて取り合って貰えなかった。

 軍はアリシアに無理やり爵位などを押し付けたいらしい。





(一体、何がどうなっているやら、まぁまずは自分のやるべき事をやろう。遅れてしまったけどあの子達を迎えに行かないと)

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