戦いに次ぐ新たな戦い

「隊長!あと少しです!あと少しで!」


「あぁ!これで我々は統合政府と対等に戦える。皆、より良き平和の騎士として奮起せよ!」




 エジプト基地進軍に出ていたサレムの騎士達は大きな歓声を上げた。

 自分達が理想とする夢が目前まで迫っている。

 彼らの中で自然と浮き足立つような気分に溺れる。

 理想と言う酒に酔い泥酔する者もように彼らの気持ちは陶然となっていた。

 だが、どんな酒を呑んでもそれは毒だ。


 理想と言う酒を飲めば呑むほど、それほど理性を失い慢心し易い。

 どんな人間も理想に呑まれたまま泥酔する。

 だから、突然の事に対応出来ない。


 その時、HQがある陸戦戦艦の方角から大きな爆発音が鳴り響き、レーダーの友軍と戦艦の反応が一気に消える。

 何が起きた事を理解できた彼等はすぐにHQに確認しようと連絡を入れる。

 だが、その余裕はなかった。


 突如、敵に攻撃していたプレデターが方向を変え、こちらに迫って来た。

 5師団並みの物量がプレデターが不意打ちに近い形でこちらに向かって来る。

 何が起きたか分からず、そのまま爆発の餌食になった友軍を見てようやく、彼等は理解し統合軍を無視してプレデターに反撃する。


 だが、プレデターの前面装甲を強化した事が仇となり、容易に迎撃できず、接近を許し爆発していく。

 部隊はこれにより壊滅的な打撃を受け、戦線が崩壊していく。

 波状的横陣形で押し寄せていた陣形が見事に瓦解し部隊間に分断させる。

 各部隊は指揮官不在の状態で各隊長の判断でプレデターに対する自衛行動に入る。

 もう既に完全に統率力を失っていた。




「これは一体何が……?」




 カエストは今、起きている光景に目を疑う。

 今まで統率を取り、押し寄せん雪崩のように迫っていたサレムの騎士が味方機同士の相討ちが起き、収拾のつかない混乱が起きていた。


 その時、ある事が過った。


 指揮系統を混乱させて欲しい。


 そう自分は願った。

 と言うよりある1人の少女にその願いを託していた。


 そして、今その状況が起きている。

 彼は確かにそう願ったが目をハッと開き、司令室に映る光景を呆然と眺める。

 すると、オペレーターがカエストに呼びかける。


 ブルーを名乗る女がカエストと通信をしたいと言っているという内容だ。

 カエストは我に返り「すぐに繋げ!」と慌しく通信を繋げた。

 すると、大型のモニターにあの少女の顔が映し出される。

 その顔はあどけなさが、まだ残る可愛らしい顔付きだったが、少し見ない間に眼光に力強さが増し凛々しさも増し大人びた眉目秀麗な大人の女性に成りかけている様だった。

 

 男子、三日会わざればと言うことわざがあったが、本当に少し見ない間に更に強くなっていると目で見て分かる。

 思わずこちらが気圧される様な烱々な眼差しで真剣にモニター越しに見つめてくる。


 彼女を初めてみる者達はその美しさと凛々しさ、力強さに自然と目が惹かれてしまう。

 まさに戦場に咲く一輪の花と言う形容が相応しい女性像をしている。




「閣下。現在、敵から奪ったプレデターコントローラを利用しわたしの機体のAIが敵に対して特攻を仕掛けています。こちらで統合軍の識別信号を入力したのでプレデターが命中する心配はありません。また、反撃にあったので敵司令官のいた戦艦が撃破しましたので指揮系とはしばらく混乱すると思われます」




 アリシアは余計な返礼や挨拶無しで現在の状況だけを簡潔に伝えて来た。

 あの直後、戦艦の主砲が至近距離で向けられたのですぐさま回避行動を取り、複数のプレデターを特攻させ、主砲と艦橋を破壊した。


 それ以上の事は言わない。

 アリシアはあくまで一介の兵士に過ぎず、その情報を基に作戦を決めるのはカエストだ。

 アリシアの与えられた役割に順ずる。

 ただ、それだけだ。

 次があるとすれば、次の指示を実行するくらいだ。

 敵戦艦の電波妨害で今まで通信が取れなかったので統合軍の援軍がどうなっているのか、アリシアは全く把握していない。




「うん。御苦労だった」




 カエストは心胆では色々驚いていたが、威厳を保つ為、あくまで平静を装い堂々と胸を張り腕を後ろに組む。




「閣下。依頼では増援到着までの時間稼ぎでしたが変更はありますか?」


「増援部隊は撤退した」




 カエストはついさっき入って来た情報をアリシアに伝えた。




「撤退ですか……つまり、敵を完全撤退させるか殲滅しかないと?」




 アリシアは動揺する素振りを全く見せず、ただ淡々と事実を受け止め同意を求める眼差しをこちらに向ける。

 その顔は絶望にくれる事も疑念を抱く事も況して、この状況に不平を抱いている様子すら全くない。

 ただただ、あるがままの事態を受け止め、それをどうやって乗り越えるか全力で考えている人間の顔だった。


「なんでここに壁があるんだ!」と不平を述べるのが人間だとしたら少なくとも彼女にはその類の考えが欠如していると言えるほど全くない。

 カエストはそれが頼もしく見える反面、恐ろしくも感じていた。

 彼女の燃え盛るような熱情からなる強い意志が触れる者を焼き払うかの如く強く、それが無性に怖いと感じる。

 人間ともあの獣とは違う何かに彼女が変わっていくのをこの時のカエストは薄々感じていた。




「そうだ。どちらかを完遂する以外、この戦いに終わりはない」




 カエストは誰にでも分かるようにハッキリとした答えを以て彼女の質問に答えた。

 彼女はそれだけを聴くと「分かりました。継続戦闘を開始します。識別信号を送りますので友軍に共有お願いします」とだけ言ってすぐさま通信を切った。

 通信から聞こえた音声からして恐らく、戦闘をしながら器用に報告をしていたと思われ、必要以上の事は喋っている余裕がなかったと推測出来た。




「かなり光る宝石になったようだな。まるで別人じゃないか」




 カエストは彼女に対して神妙な気持ちを抱きながら、各部隊に指示を出す。

 この戦い好転こそしたがまだ、敵には200機近いAPが残存しており、こちらの損害と比べても2倍差の戦力があった。

 ここで統率が取られる前に一気に肩をつけなければ、負ける可能性があった。

 カエストはこれを機に攻勢に転じ始める。

 200機近い敵APがプレデターの爆撃に晒されていた。




「くそ!なんなんだ!なんでドローンがこっちに攻撃してくるんだ!」


「司令は俺達を殺す気か!」




 などと不平不満を漏らす戦場にその機体は現れた。

 レーダーに高速で移動する何かがこちらに接近する。

 サレムの騎士がそちらを向こうとした瞬間には既にその機体を通り過ぎ、気づけば上半身と下半身が両断されていた。




「アスト。戦えない機体には攻撃する必要はないわ」


『……了解』




 アストは不承不承ながらプレデターによる攻撃をやめた。

 人間など多く生かしておいてもアリシアの施しを無駄にする。

 なら、後々面倒になるかもしれないが殺してしまった方が楽とも考えたが、彼女の想いを裏切る事はアストには出来なかった。

 それにアリシアの考えも間違ってはいないのだ。彼女は知らないだろうが、後々の面倒を考えればそれが正しいとも言えた。


 それからアリシアは戦場を駆け抜け、数多の敵を撃墜していく。

 その速さは閃光の如く戦場を駆け、幾万の弾丸を避け、敵に確実な死を齎す。

 その様な戦いぶりから畏敬の念を込めて統合軍では“蒼い閃光”と呼ばれた。

 弾丸が当たらず、1分も立たない内に10機以上の敵を狩り尽くすその様にサレムの騎士は恐怖したのか撤退は速やかに行われた。


 こうしてサレムの騎士は撤退を開始しエジプト基地の防衛には成功した。

 多数の被害も出たが、それでもこの戦いは後に奇跡の戦いとして語り継がれる事になる。




「アスト。今回の戦闘でわたしはどのくらい殺した?」


『……253機です』




 これはプレデターや戦艦の乗組員やアリシアが直接コックピットを撃ち抜いた数だ。

 実際、1回の戦闘でここまでの人数を殺す人間はいない。

 戦場ではその数は英雄視されるだろうが、アリシアには嬉しくはない称号だ。




「なら、帰ったらまた例の訓練だね」




 アリシアはごく当たり前のように呟くが、それは253回死ぬと言っている事など他の誰にも想像は出来ない。

 知っているアストですらその事実に震撼する。


 実際、善人や友人のために死ぬ人間はこの世にいない事もない。

 だが、アリシアの誠意は善人だろうと悪人だろうとその為に自分を殺す。

 戦闘が終わる度にテロリストの事を思い、誠意を尽くしてケジメをつける人間などいない。

 大抵、悪党を始末したら安堵するか、喜ぶのが人間だ。


 善人を守るような誠意は人間にもできる。

 だが、悪人まで守るような誠意を見せるのはアリシア以外で2人しかアストは知らない。

 悪人だからと言って責任を果たさないとは、彼女は言わない。


 だが、その深い慈しみと哀れみの感情からなる誠意があるからこそ、アストはアリシアの事を嫌いには成れなかった。

 寧ろ、支えたいとすら思えるほど彼女は尊い存在だった。




「閣下には伝文は渡したし帰ろっか?」




 アリシアはそう言って戦闘機形態に変形、すぐに戦域から離れていく。

 英雄の凱旋を心待ちにしている者もいた。

 だが、彼女は今回味方だっただけだ。

 彼女はあくまで自分の任務と極東基地の命令を遵守している。

 今回は手伝ってくれたが軍とて一枚岩ではない。

 カエストの部隊と極東基地がぶつかる事が今後、起きないとも限らない。

 そうなれば、ここにいる者達の彼女への情が冷めてしまうだろう。


 彼女はそれが分かっているからこそ、深く関わろうとはしなかった。

 カエストもそれが分かっているからこそ、彼女を引き留めようとはしなかった。

 だが、今回の英雄は間違いなく彼女だ。

 その英雄への感謝がないわけがない。

 彼女への感謝から彼は戦闘機形態で去っていく彼女に自然と敬礼をしていた。




 ◇◇◇




 あの戦いの後、アリシアはご飯を食べ、仮眠を取りそのまま過酷な訓練をまた始めた。

 過剰な訓練だが、もう彼女の日課の様なモノに変わりつつあった




「はぁ……はぁっ……はぁっ……」




 アリシアは鍛えていた。

 ATを稼働させ、ベンチプレスを使い自分の体に鞭を打ちながら、過酷なトレーニングに打ち込む。

 500kgのバーベルをひたすら上げ続ける。

 とにかく、自分が死ぬまで上げ続ける。

 死ぬまでただひたすらに耐える。

 一応、目標としては1万回5セットすれば死ぬと予測されているのでそれを目指して上げ続けるが、流石に疑問に思い始めた。

 もう既に50万回、加速時間で270日(現実時間で1日弱)は上げている。

 流石にこの事が可笑しいと思うだけの余裕が出て来た。




「……アスト。もっと負荷を上げて」




 すると、ベンチプレスの横にディスプレイが浮いた。

 そこにはASTアストと書かれていた。

 アリシアはシステムとリンクさせたアストに負荷の増加を頼んだ。

 人間の関節は500kgまでが限界でそれ以上を持つと関節が外れるが仮想空間ならそれを無視できる。

 だから、これ以上、負荷を上げてもなんら問題はない。

 尤も、生命の保証はできないが……。




『それはできません』




 アストは淡々と事実を伝えた。




「前にも言ったけどわたしの事は……」




 構う必要はない。


 今のアリシアは自分の事をただの機械程度にしか思っていない。

 頭と気持ちの切り替えは速い上にその辺の感情のメリハリもハッキリしている。

 自分を鍛える上でアリシアは自分に決して甘えない、情けはかけない、慈悲もかけない。

 ただ、徹底的に自分を追い込み。

 目標を完遂できないなら自分をその程度のモノと容易に斬り捨てる冷酷さを持つ。

 その上で自分の体を限界以上に酷使しようとする。


 他人からみればゾッとするような思考をしている。

 偶にアストがその事を引き留めようとする事があり、今回もそうなのだと思い、あくまで冷静に諭すようにアストに話しかける。




『いえ、上げたくても上げられないのです』




 アストから帰って来た答えは予想に反するモノだった。




「上げられない?」




 アリシアは息を荒立てながら、バーベルをフックにかけ上体を起こし、空中に浮いたアストの音声ディスプレイの方を向いた。




『今のATのマシンスペックではこれ以上の負荷を構成する事は出来ません。よって、物理的に無理です』





 アリシアは既にATのリミッターを外し人外レベルの過酷なトレーニングを自分に課していた。

 スレンダーな見た目からは想像できないが両足だけで1500kg近い重量をスクワット出来るだけの身体能力は既に得ていた。

 ただ、こんな非常識な身体能力を得る事を想定してATを作った人間はいない。


 そもそも、普通はその過程で死ぬ。

 リミッターを外したとはいえ、ダイレクトスーツを介して伝えられる電気信号の出力は各部の筋力比で割り当てられ制限されている。


 これはAT使用時の肉体負荷の軽減に繋げるためだ。

 腕に足と同じ負荷をかけると脳へのダメージも大きくなるための措置だ。

 だから、足、腕に見合った上限が存在する。

 お腹周りの筋肉を1とした場合、腕は3、脚は11の比率で割り当てられている。

 それに加えて、アリシアは無断でATを魔改造してリミッターを外している為、人間が当然耐えきれない負荷をマシンを使ってかけていたのだ。


 だが、どうやらアリシアの身体も精神もそれに平然と耐えてしまうほどには精強で屈強でタフになったらしい。

 これでは“死ぬ”と言う責務を果たせないとアリシアは直感した。

 このままでは埒が明かないと判断した彼女はATから出て着替えて自室で仮眠を取った後、机に向かって考え込んでいた。

 アリシアは問題に突き当たって諦める人間ではない。

 どうすれば、目的を完遂出来るか第1に考える。




「もうこうなったら作るしかないか……」




 1番シンプルで合理的な方法だった。

 他人に任せたら性能を向上させても自分の思うような性能にならない可能性がある。

 あくまで自分の目的と言う名の責務を果たすなら、自分が作らなければ意味がない。

 幸い、初めてATを動かした1年目に機械工学について学び、図面を引いて設計図を作る事は出来る。

 AT内部でもそれを元に色々作った経験もあり、機械工具や工業用3Dプリンターを動かせる。


 ちなみに現代のAP生産技術は3Dプリンターを基本に開発が可能だ。

 今世紀のAP企業は大規模工場などをあまり保有はしていない。

 どちらかと言えば設計図を製作、そのデータを商品に軍や警察などに送って3Dプリンターを無料で貸し出しメンテナンスや機体材料を送りつけて生産している。


 これで人件費を抑え、継続的な利潤を得ている。最大のメリットとして、データがあればその基地ですぐに最新鋭機が配備出来る為、兵器の質の更新速度も速い。

 そのお陰で大規模な施設の管理も維持費も必要としない。

 しかも、Tシリーズの基礎設計が優秀な為、マイナーチェンジも容易である事から兵器市場は大戦前と比べても僅かに縮小したが軍事企業の縮小はそこまで起きていない。


 それはさて置いて、1つ問題があった。

 ATの理屈、原理、構造をアリシアは全て把握はしているが、だからと言って今のところこれ以上の改善の余地がない。

 アクセル社の技術の粋を集めて作っているだけに今のところ改良の余地がない。

 長い時間をかければ改良する点を出てくるだろうが、アリシアにそんなに長い時間をかけている余裕はない。


「ブレイクスルーが今すぐにでも欲しい」と不意に思った時、自分のスマホ型PCに目が合った。

 途端に「あ……いた」とPCアストを見つめて言った。

 アリシアは物欲しそうな子供のようにアストを見つめる。

 よく考えれば、これほど身近にある情報ソースはない。

 何せ、アクセル社を大企業に押し上げたのはアストと言っても過言ではないのだから……彼から引き出せば何の問題もない。

 アストは額から汗を滲ませる。

 額などは始めから存在しないがそんな心境だ。

 そんなに見つめられても困る。

 少なくともアリシアの頼みならNOとは答えないが、彼女の本気の眼差しが怖い。

 まるでNOとは絶対に言わせない目力に気圧されてしまう。




「アスト……お願いが……」


『分かりました』


「まだ、何も言ってないけど?」


『改良に関する情報はわたしが用意します』




 アリシアは「本当に本当?」とすがるように目を潤ませる。

 もしかしたら、これがアリシアが自分に初めて見せた弱弱しいどこにでもいる少女の姿だったのかもしれない。


 と言うよりは純真無垢で小心者なこちらの彼女の方が本当の姿かもしれない。

 ただ、戦いと言う環境に適応すべく彼女なりに自分に冷酷で冷徹な鋼の鎧で身を固めるしかなかっただけなのだ。

 戦いに巻き込まれずにいれば、もっと違った道を歩んだ彼女もいたのかも知れない。




『本当です。今すぐ探します。ただ、しばらくかかるかも知れませんが宜しいですか?』


「やった!ありがとうアスト!勿論、良いよ!」




 アリシアはプレゼントを貰った子供の様に腕を天高く上げて喜んだ。

 やはり、アリシアはなんやかんやで笑っている時が一番輝いているとアストは思った。

 願うなら彼女が笑っていられる世界であって欲しいが、人間の世界では不可能な話だ。





『ただ、その間に受けて貰いたい仕事があります』




 アストが唐突に仕事の話を持ちかけるとアリシアの顔つきが鋭く変わる。




「仕事?内容は何?」


『ペイント社ニジェール支部に向かう事です』




 アストはそれ以上、何も言わなかった。

 アリシアは怪訝な態度で確認する。




「ん?それで終わり?」


『そうです』


「……それをしないとアストは困るの?」


『大いに困ります。この件を留意すればルシファー以上の災厄になるでしょう。それにそこで貴方を待っている人がいます。その方の力も借りられればわたしの情報収集も速く完了します』


「もしかして、あの人?」




 真っ先に思い浮かぶのは自分に量子回路のデータを渡してくれた彼だ。

 彼が何者で何を思って自分に量子回路を託したのかは分からない。

 ただ、何の意味もなくこんな貴重なモノを渡す人間には思えなかった。

 きっと何かある。

 それも自分は決して無関係ではない事だ。




「量子回路のセッティングは?」


『完成度47%。実戦で使える程では有りません』


「なら、使う事は期待しないよ」


『それで問題ありません』


「なら、発進だよ」




 アリシアは吉火に断りの電話を入れてからすぐに着替えて出撃、ニジェールを目指した。




 ◇◇◇



 その夜


 ニジェールにあるペイント社のビルと近隣の街や基地近くの砂漠には多数のAPが蠢いていた。

 全機が夜の砂漠用の迷彩で塗装された機体で砂漠に待機していた。




「良いか!今回の作戦は裏切り者であるPMCペイントの支部の殲滅だ!我々のこの決戦に全てを賭ける!同士よ!勝つぞぉぉぉ!」


「「「おおおおおおおおおおお!!」」」




 サレムの騎士と古代イスラム教徒達、連合軍団の雄叫びを挙げ、自分達を鼓舞した。

 皮肉な事に彼等は共通の敵が出来た事で団結してしまい共にPMC打倒に燃えていた。

 政府に寝返り私腹を肥やす彼らに対する妬みが彼らを動かしている原動力の1つだ。


 彼らはワイバーンMkⅠ~Ⅱのカスタム機で支部のある街に猛進していく。

 夜の砂漠地帯に砂塵が舞い上がり、まるで砂嵐の様に駆け抜けていく。

 最寄りに正規軍の基地はない。

 街を守るのはペイント社の戦力だけだ。

 友軍の期待は出来ない。

 況して、新設直後の部隊なら戦力もまだ十全ではない。

 連合軍団の物量があれば、十分に勝てる勝負だ。

 ニジェール社も敵の接近に気づいた。




「敵機、接近。こちらに進軍してきます」


「呼びかけは?」


「応じません」


「なら、プランB対応だ。を投入しろ!」




 ニジェール社の防衛を任されている指揮官がと呼ばれるモノの投入を決断した。

 すると、連合軍団のレーダーに反応があった。




「敵のお出ましだ。各機砲撃用意!」




 敵は真っすぐに此方に向かってくる。

 無機質なAIによる撤退勧告をしてくるが、残党はそれを無視。




「撃て!」




 それを合図に連合は砲撃を開始した。

 敵のワイバーンMkⅢは散開した。

 しかし、何機か出遅れ、そのまま撃墜された。




「何だ?敵は調子が悪いのか?」


「この程度も避けられないなんてきっと裏切り者は素人集団だったんですよ」


「なら、勝機はある。一気に畳んでしまえ!」




 連合のワイバーンは背部のマウントハンガーも展開、PMC側への攻勢を強めた。

 しかし、PMC側は単調な回避と砲撃しかして来なかった。

 回避と言っても完全な回避とは言えない。

 半歩遅れで回避している節があり、どちらかと言うとワイバーンMkⅢの装甲で凌いでいる様に見えた。




「ん?なんかあいつ等回避も変だが揃いも揃って硬くね?」


「よく見たら全機統一された仕様だな」


「本当だ。運動性犠牲にして装甲値高くしているみたいだ」




 連合の数名が何か違和感に気付く。

 だが、勢いと言う酒を煽り、理性を失った彼等は冷静に物事を判断出来なかった。




「へへ。あいつ等は政府の犬だぜ。御行儀良くコンセプトを統一しただけだって!」


「そうだ。我々の優勢に変わりないのだ!このまま押し切るぞ」




 確かに現状、連合の優位に戦況は進んでいた。

 連合の被害は軽度の損傷程度、一方PMC側は数でも質でも勝っていながら既に大半が消え、予測防衛線も最終防衛ラインに近付いた予定より遥かに速い。

 もうすぐ支部を叩ける所まで来た。




「良し!このまま一気に畳んでしまえ!」


「おおおおおお!!!」




 連合は攻勢を強めた。

 撃墜できる敵を一点集中で落としにかかった。

 敵は相変わらずの回避の鈍さ。

 厄介なのは装甲値だけだが、一点集中なら楽に撃墜できた。




「良し!このまま一気に進め!!」




 連合は次第に勢力が薄い層を食い破る様に一点に進軍を始めた。

 この層は超えれば、一気に支部を叩ける。

 だが、その時である。

 連合が正に一点に集まった時、PMCの機体が一斉にスラスターを点火させ、連合に突撃して来た。


 今までの鈍い挙動から一気に攻める攻勢に変わった事にたじろぐ連合。

 それを見越した様に敵の攻勢を超え、残党の機体に体当たりを仕掛ける。

 そして、それを引き金にする様に機体が一気に爆発を始めた。


 その爆発力は凄まじく。

 1機の機体で周囲10機の機体を巻き込む自爆だった。

 しかも、APである為、サレムの騎士の別部隊が使ったプレデターによる特攻とは違い、真っ直ぐ突進するのではなく確実にAPを追従し機体に取り付く。

 爆発が連鎖反応の様に続け様に起こる。

 その爆発で飛び散った破片が至近距離で残党のAPに損害を与え、離脱を遅れさせ、残党は離脱も反撃の余地もなく爆発な波の中に消えていく。




「馬鹿な……お前たちは一体……」




 そして、1機も残る事なく戦いは終わった。

 辺りにはAPの残骸しか残っていなかった。

 そこに遅れて2つの機影が現れた。

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