いつもの朝、もう一度.1(最終話)


 宴の翌日、別れを惜しむ家族たちに手を振りラズたちは都に戻った。昨日までと違うことは、これからはいつでも会いに行くことができるし、会いに来てくれることもある。離れていても、人は傍にいることができるのだ。長い旅をしたティファンも、それを待ったラズも、それをよくわかっていたので、感傷はなかった。

 若いスフィヤは未来に再会することを楽しみにして、初めて会う従兄弟たちと別れの挨拶を告げて家族はそれぞれの暮らしに戻った。


 いつもの朝。このいつもの朝を手に入れるために、どれだけの時間が必要だったか、どれだけの人との出会いがあったか、思い返すラズ。

 久しぶりに故郷で聞いた機織歌を小さな声で口ずさみながら支度をするラズ。昔は意味などわからなかったが、今は大体わかる


 人は皆、それぞれ最果ての場所から出発し、いつしか愛せるものや人と出会うことで、人としてやっと強くなれるのだろうか。

 そんな意味が歌に込められている気がして、今よりもずっと往来も、世界も狭かったはずの機織歌の作り手たちに想いを馳せる。


——最果ての詩聴こえる


——最果ての地で魔人がひとり


——鳴らしてる笛の音聴こえる


——最果ての地で誰かを待って


 馬小屋で朝の餌やりをする夫と息子を窓越しに見つめ、ラズは歌い続ける。

 自分がティファンに出会ったこと、息子が生まれたこと、家族と再会できたこと、そしてここにいることの全てが歌に込められてる気がして、幼い頃から馴染んだ歌が自分の半生を歌っているようで、まだ自分の知らない未来が待っている予感がして、繰り返し、繰り返し、朝の日常の中で、ラズは機織歌を口ずさみ続けていた。

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最果ての詩 椿 琇(ツバキ シュウ) @tubaki_syu

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