茶香.4
そう言って乱暴に立ち上がり旅人も部屋を出てこうとする。その背中にラズはたたみかけた。
「あなたに私とスフィヤがいなくても大丈夫だとしても、スフィヤにとって大丈夫かどうかは分からないわ。父親を1度でも名乗ったのだから、やるべきことは、まだあるんじゃないの?あの子は何も知らないまま、またあなたと引き離されて生きていかなきゃならないの?……今日はね、あの子の誕生日なの。夕食の時間は8時よ。仕事が終わってからみんなで作るから遅いの。頭を冷やすのにちょうどいいんじゃない?もしもあなたがスフィヤに用があるなら、待ってるわ。でもその時間までにスフィヤに何かしたら、地の果てまでも追いかけてやるから!」
ラズの言葉が言い終わると同時にティファンの後ろ姿は廊下の曲がり角に消えた。
部屋に戻って、湯気をなくしたカップに手を添えてラズは目を伏せる。
「どうしてあんなに今までのことにしか目を向けようとしないの……?私はこれからのことを考えていきたかったのに……それを教えてくれたのは、あなただったんだけどな」
1人では話をすることもできない。いまできることは終わってしまったから、仕事に戻ろうと店に降りていくと、現れたラズにメリラが驚いてた。
「話はできた?」
「交渉は決裂よ。でも今夜の夕食に招待しておいた。頭が冷えれば来るんじゃない?」
「じゃあ、あの男……スフィヤの父さんは出て行ったのかい?スフィヤに何かまたされたらどうするの?」
「それはないと思う……誠実な人ではあるのよ。そこは変わってなかったから」
「誠実な男が12年も女子供を放っておくかね……夕食に呼ぶのはいいけどさ……ラズ、気をつけなさいよ?」
「そうね。ありがとう。今日、スフィヤの誕生日だから、少しご馳走作っていい?」
「私が大事な妹分の子供の誕生日を忘れてると思った?鳥肉を丸々1羽買っておいたわ。好きに使いなさい」
「よかった……昼に買い物に行けなくて困ってたの!ありがとう、メリラ!」
やるべきことがあるというのは時に救いである。ティファンは今どこで何をしているのだろうか。そんなことを思ってしまう自分に驚いたラズであった。
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