いつもの朝、再び.2

「染料が足りないって、どういうことよ?」

「まあ……染めるのに必要な材料が足りないということで……」

「そんなことはわかるわよ!」


メリラとメリラの弟のスレイが揉めているのも、いつもの朝の光景であった。


「まあ、ストックはあるんだし。そんな目くじら立てなくても、ね?」

それを仲裁するのもラズの役目になるのが恒例であった。12年も一緒にいると、いつしかメリラとは姉妹のようになっていたし、その弟のスレイもまた、そんなラズを頼りにしているところがあったから。

 

 もっとも、本当であれば店の後継ぎはメリラの弟のスレイであるはずなのだから、もう少ししっかりしてほしいと従業員の大半は思っていたのだけれど。

 だからメリラが店の染物職人のソランと結婚した時は「店が潰れる心配は格段に減った」と、多くのものが胸を撫で下ろしたものである。

 スレイも縫子のジムニと結婚し、一応大黒柱であるはずなのだが、どうにも弟気分が抜けないのか、メリラが強すぎるのか、この姉弟のいる店は、終始こんな調子だ。でもそれを時にハラハラしながらも、従業員皆が温かく受け入れているのだから、ここは繁盛していたし、長くも続いているのである。


 ラズとスフィヤも、そんな環境に恵まれたおかげで、今日まで楽しくやってくることができたのだ。子育て経験も、出産の経験もない身重の18の少女が、田舎から出てきて都で生活を立てるというのは楽なことではないだろうが、得意だった機織と手芸のおかげと、それによって、こんな素敵な場所に巡り合えたことをラズは日々感謝している。


 従業員みんなで朝食を食べた後は、スフィヤは子供たちで遊びに行った。メリラにもスレイにも子供がいるけれど、中でも歳上の部類に入るスフィヤは、心優しいガキ大将のようにみんなを引っ張って連れて行く。

「まあ、スフィヤがいるなら子供たちは大丈夫だろう」と他の大人たちも思えるくらいの度量を見せる我が子に、自分にはなかった側面を見つけて、時々遠い気持ちになったりするラズであったけれど、それはそれで嬉しいことだと考えることにしていた。

 だから今日も特に何も心配もせずに、子供たちを送り出したのである。

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