代償.5

「村を守りたいか?村の男達を、そんなに守りたいのか?」

「…許されるなら。守りたいわ」


「許しはしない。だが、僕は人でも神でもない。鬼神の末裔だ。代償をくれるというなら、それでこの血を鎮める事ができるかもしれない」

「…代償?」


「村の男全員の許しと等しい価値を持つものを僕にくれ」

「そんなもの…私が持ってるわけないじゃない!家中のお金を持ち出したって足りやしないわ」


「代償は金じゃない。悪は金では裁けない」

「…じゃあ、どうすれば?」


「君の一番大切なものを貰おう。君ほど無垢で無知な魂なら、命とまでは言わない。君の純潔だ。それを僕に捧げられるなら、鬼神の血もこの昂りを治めることができるだろう」

「そんなもので、いいの?命とか、そういうものですらないのに…?」


「そんな問いをする時点で、君の魂は清らかすぎる。それを穢して僕のものにするんだ。代償にしても大きすぎるくらいだ」

「…名前も知らなかったわね。私はラズと言います。私の純潔と引き換えに、村の男たちの罪を許してください」


「言葉に気をつけるんだ。ましてや名前なんて名乗ったら、契約がたやすく成立してしまうぞ」

「覚悟はできたわ」


「…その代償、頂くとする。代わりにこの身に流れる血の熱を鎮めることを誓おう。僕の名はティファン。純血を持つ娘ラズ、僕を恨め。鬼神などの血を引いて生きてきてしまった僕を恨むんだ」


 泉のほとりに乱雑に外套を広げて、旅人はラズを押し倒した。繁みはこの瞬間のために永らく此処で待っていたかのようである。


 代償を払う為の儀式は、月のある間に終わった。鬼神を名乗ったくせに、最後まで旅人がラズを気遣っていることに、純潔だったラズでさえ気づいていた。

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