もしかしたら割と

「ほ……っ」


ウルイが自分の足で歩いて岸に戻ったのを見届け、イティラは胸を撫で下ろしていた。


彼なら大丈夫だとは思っていたものの、沢に入ったまま動かなかったことで心配していたのだ。


このままだと『ここで待っててくれ』と言った彼の指示を破ってしまいそうになるくらいには。


で、いったんはホッとしたが、また新たに現れた大柄な人間は、ウルイにもできなかった、


『鉄の鎧を着こんだ人間を担ぎ上げる』


などということをしてみせるほどの奴だったために、今度はそっちで心配になってくる。


『あいつ、ウルイに酷いことしないよね……?』


彼にもし危険が及ぶようなら、さすがに指示を守っていられる自信がない。ウルイに叱られるとしても、彼にもしものことがあったらそれどころじゃないし。


だから、いつでも彼を救うために飛び出せるように、聞き耳を立てた。話している内容で危ないかどうかくらいは判断できそうだと思ったからだ。


と、


「まずは礼を言わせてくれ。貴君のおかげで兵士を失わずに済んだ。感謝する」


新たに現れた人間は、すごく丁寧に落ち着いた口調でそう言って、ウルイに頭を下げているのが分かった。


『あ……もしかしたら割といい人なのかな……?』


そんなことを思う。そしてさらに耳に神経を集中する。


「いや、俺としても見殺しにはできなかっただけだから、礼を言われるほどのことをしたわけじゃない……」


いつも通り、不器用なウルイの返答。すると相手も、


「いやいや、そうは言うが、普通はなかなかできることじゃない。面倒なことには関わりたくないと思ってしまうか、体が竦んで動けなくなるかのどちらかというのがむしろ当然だ。貴君の勇気には素直に感嘆を覚える」


確かに感心している感じの話し方だった。


そこに、鎧をまとったまま崖を降りてきた兵士達もようやく合流する。


それまでの間に、先に下りてきた男は、ウルイに話し掛けながら手際よく兵士の鎧を外し服を脱がせていた。濡れた服のままだと体温が奪われて下手をすると低体温症を起こす危険性もあった。ここの医療レベルだとさすがにそこまでの知識はないものの、経験的に濡れた服を着せたままでは良くないという程度は分かっていたのだろう。


なのに、降りてきた兵士達が、


「クヴォルオ様、勝手に鎧を脱ぐのは……」


何やら言い難そうに声を掛けてくる。その口ぶりで、誰かの指示がなければ鎧を脱ぐことも許されなかったのだと、ウルイやイティラも察する。


『おかしな命令だ……』


『変なの……』


口には出さなかったものの、二人ともそう感じていたのだった。


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