その事実を認める

イティラはウルイではない。ウルイにはできても彼女にはできないことがあるのがむしろ当然なのだ。


そしてきっと、今はまだ幼くて無理だとしても、いつかは、


『イティラにはできてウルイにはできない』


ことも出てくるだろう。


その事実を認める。


ウルイにはちゃんとそれができていることを、キトゥハは知っていた。


だから敢えて<説教>をした。彼自身にそのことを改めて自覚させるために。ウルイ自身の中にすでに答があるからこそ、キトゥハの言っていることが届いた。


ウルイがまったくそう思っていなければ、キトゥハの言葉は理解できるものではなかったに違いない。


『何を偉そうに…!』


と思われただけだったに違いない。


キトゥハはそれを分かっていたのだ。


だからウルイに言う。


「もしイティラがお前の下にいるのが嫌だと思うのなら、力が着けば勝手に出ていくだろう。


お前はただ、彼女が望む間、生活を共にすればいい。


血の繋がった親と子でも、本来はそういうものだ。力が着けば子供は勝手に親の下を去っていく。子供が自らその力を着けようとしているのを親が潰さない限りな。


だから何も心配するな。何か困ったことがあったらまた私のところに来ればいい。私の子供達が今の私と同じことをできるようになるまでは、私はここにいる。


ウルイ。お前も私の子の一人だ。お前が私の力を必要とするなら私はそれに応える。


とは言え、私ももういい歳だしな。イティラが大きくなるくらいまでならまあ大丈夫だとは思うが、お前自身が今の私と同じことができるようになってくれると、私も安心して妻の下に行ける。


できれば早く楽にならせてくれるとありがたいがな」


「……」


ウルイは応えなかったが、キトゥハの言っていることは理解できた。


見た目にはウルイよりも若く思えても、本人も言っていたようにすでに孫もいる歳だ。<折り返し地点>はとうに過ぎている。今は本来、<余生>を過ごしている状態なのだ。


もっとも、それでも人間など足元にも及ばないだろうが。


一口に獣人と言っても、人間と同じでいろんなのがいる。イティラの両親のようなのもいれば、キトゥハのような者もいる。


人間だから、獣人だから、ではなく、相手をしっかりと見ることだ。


それはつまり、人間にもなれず、獣人としても半端な存在であるイティラについても同じ。


<人間でも獣人でもない半端者>


ではなく、ただ、


<イティラ>


として向き合えばいい。人間であるウルイを『私の子』と言ってくれたキトゥハと同じく。


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