お前以外の誰が
キトゥハの<お説教>は続く。
「ウルイ。子供を育てるというのは確かに大変だ。容易なことではない。
だがな、私達獣人もそうだが、人間の子供も決して<獣>ではないのだ。たとえいくつであろうとも獣人は獣人であって、人間は人間であって、それ以外の獣とは違う。
それはお前自身が身をもって経験したはずだ。お前は人間を見限り、獣のように生きることを選んだ。だがお前は今なお<獣>ではない。どこまでいっても<人間>だ。人間は人間以外のものにはなれん。
これは、獣人も同じ。獣と人間両方を行き交うことができるように見えても、獣人は獣人なのだ。
そして、私とお前がこうしていられるように、獣人と人間は意思の疎通ができる者同士だ。イティラも同じ。
ゆえにその付き合い方はたった一つ。
『相手を敬う』ことだ。それ以外にはない。
たとえ幼い子供であっても、相手を<他者>として敬うことができれば、基本的にはそれで事足りる。
相手が自分とは違う存在で、ゆえに自分の思い通りになるわけでないことを承知していれば、おのずと付き合い方も分かるはずだ。
お前は、相手を敬うこともできない者達に囲まれていたからそれが嫌で逃げてきたのだろうが。ならば、お前はその者達がやらなかったことをすればいい。
イティラを、ただ<他者>として敬えばいいんだ。
彼女はまだ幼いからできないことは多い。しかし僅かな間だけ見ていても利口で利発な子だというのは分かる。お前が彼女を敬えば、彼女はそれを学び取ってくれる。お前から学んだものを返してくれる。
彼女は確かに<獣人>ではあるが、獣人にも人間と変わらぬ<心>がある。相手を見て学ぶ<頭>もある。
心配要らん。お前はもうこの子を敬うことができている。自分とは別のもの、<他者>としてな。だからこそこの子はお前の傍にいることに安堵できるんだ。自分を自分として見てくれていることが分かるから、安心できる。
幼かった頃のお前の周りにいた者達がお前に与えてくれなかったものを、お前はこの子に与えることができてるんだ。
だったらこの子は、お前の下から逃げ出す必要はないだろう? むしろお前以外の誰が、今、この子に与えられているものを与えられると言うんだ?
まあ、私なら与えてやれるかもしれないが、だが、最も大事なことを忘れるな。この子がそれを望んでいるか?ということを。
私がお前と同じものを与えてやれるなら、お前がこの子に与えても同じだ。そしてこの子もそれを望んでいる」
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