第98話 書類 特異体「石化する女神」

 石化する女神──登録ナンバー『09・B・128』危険度クラス『B──A級』


 当特異体は女性の社会進出への活動を行なっていた女性──アリス・トーマスの形をした石像です。大きさは人形の部分が約百五十センチメートル、土台の部分が約九十センチメートルになっています。質量は一般的な石像のものと相違ありません。ところどころに緑の苔が生えています。

 管理方法は以下の通りです。

 一辺が十一メートル以上の部屋の中央に設置して収容してください。部屋には常にランクF職員を五人以上を部屋の隅に配置して、常時監視し続けてください。部屋には監視カメラを設置して、その映像を別室に配置したランクE以上の職員二名以上に監視させてください。一瞬たりとも当特異体から視線を逸らすことは許されていません。

 当特異体と同室に配置したランクF職員には事前に絶対に特異体の半径五メートル以内に入ってはならないと通達してください。同時に、瞬きする場合は挙手をして許可を得てから行なってください。この指示に反した場合は、 反逆的思想を持っていると判断し、即刻武装戦闘員によって処分してください。


 当特異体は──美術館にて発見されました。発見に至った経緯は、観光を目的とした団体客五十四名が当美術館へと訪れた際、集合時刻になっても戻ってくる者がおらず、異変を察知して捜しにきた美術館職員及びツアーガイドの計十二名が同様に消息を絶ったことによるものです。これがインテリゲンツィアへ報告されたことにより、我々は十五名の調査班を派遣しましたが、調査班も彼らと同様に消息を絶ちました。この際、調査班へ支給していた位置情報発信機の発信情報に異常はなく、通信自体も問題なく行えており、特異性は通信に関与することはないことが判明しました。しかし一つの不可解な点がありまして、それは発信する位置情報が特定の位置からまったく動かなくなったことでした。

 追加で派遣した調査班及び武装戦闘員により、美術館とその周辺に消息を絶ったとされた団体客とその関係者、先行した調査班が石像となって発見されました。石像には特異体と同様の土台は見られませんでした。

 周辺の捜索により、当特異体を発見した派遣された職員らが確保に動きましたが、特異体に接近したことによって特異性が発動し、三名の職員が石化しました。

 確保のための作戦を五度実行しました。当特異体は人間の視界に入っていないときは常に動き続けるため、確保は難航しました。あるときは街の噴水広場にいて、一般市民二十六名を石化させました。またあるときはコンサートホールにいて、会場に居合わせた一般市民三百十二名を石化させました。このように作戦を立てて動くたびに移動するため、特異体の行く先々では非常に多くの被害が出ていました。

 作戦では当特異体を砕いての無力化を狙いましたが、接近しての破壊は特異性の発動により人間では不可能でした。そこで鉄球を吊るしたクレーン車を導入して振り子となった鉄球での破壊をしようとしましたが、一切の損傷が見られませんでした。そこへ爆発物も用いたりスナイパーライフルを用いたりしての破壊を試みましたが、鉄球と同様に効果はありませんでした。

 無力化の計画には失敗したため、インテリゲンツィアへの運搬を行なっての収容へと目標が切り替わりました。運搬時に強固な拘束を施しましたが、職員が目を離した隙に当特異体は逃亡しましたが、通りかかった一般市民によってそれを止めることができました。これによって運搬時も監視するようにと追加でランクF職員が派遣され、ようやく収容が達成できました。


 実験により、以下の情報が得られました。

 当特異体の特異性が発現するのは、当特異体の半径五メートル以内に侵入した場合に限られます。その範囲内に一ミリメートルでも入った場合、即座に入った部分から石化が始まり、全身へと広がります。しかし、速度を時速千二百キロメートル以上で範囲内を通過させた場合に限り、石化から逃れることができます。

 特異性の影響を受ける対象は、人間だけでした。その他の哺乳類、鳥類、両生類、爬虫類、魚類などを半径五メートル以内に置きましたが、七十二時間放置しても一切の影響が見られませんでした。

 特異性により石化したものは非常に高い硬度を得られます。現状ではそれを破壊する物理的な手段は存在しません。しかし、特定の特異体を利用した場合は可能ですが、それの利用には許可が必要になり、原則としてその許可はおりません。

 当特異体の破壊には現状至りません。修復能力が非常に優れているわけではなく、そもそも傷がつかないようでした。これまでにも実験にて無力化を試みてきましたが、それに利用した他の特異体によって実験室のある階層ごと破壊したことにより、実験は中止になりました。これによって同じ階層にいた職員及び研究員及び戦闘員の計千二百六十三名が生き埋めとなって死亡しました。

 当特異体は五回の脱走を試みました。脱走するタイミングがすべて定例会議などによって収容している階層の人間が減少したときに限ります。そのときに監視しているランクF職員が目を離した隙を見計らって片っ端から職員に接近しては特異性を発動して石化させました。しかし五回とも階層の移動には至りませんでした。これによって当特異体には知性が確認され、危険度クラスが『B──A級』に上げられました。


 当特異体の確保及び収容及び観察により千九百五十六名のランクF職員、百六十九名のランクE職員、八十六名のランクC職員、五十九名のランクB職員、二十四名のランクA職員、三百五十一名の武装戦闘員、十六名の研究員、三名の博士が殉職しました。

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