第97話 書類 特異体「共鳴する鼓動」

 共鳴する鼓動──登録ナンバー『10・B・489』危険度クラス『B級』


 当特異体は直径約十五センチメートル、高さ約二十センチメートルのガラスと非常に酷似した材料で作られた瓶に入れられている心臓です。蓋には一般的なコルクの栓が用いられています。

 管理方法は一辺が百メートルを超える大きさの部屋の中央に設置して収容してください。常に部屋の中を監視できるように四隅に監視カメラを設置して、別室に常時二名以上の職員を配置して常に映像を視認し続けてください。

 無許可での接触は禁止されています。接触する際は必ず当特異体の担当博士とランクC以上の両名の許可を得て本部へ申請してください。

 当特異体を使用した実験の際は、本部へ一週間以上前に連絡し、承認を得てください。実験に使用する部屋は外から見ることのできるガラス張りの部屋にして、実験当日にはランクC以上の職員を一名以上を配置してください。実験の際はすべての扉及び窓などを閉鎖して、その部屋を周囲の空間と分断してください。実験中の入室はランクFの職員のみで、その他の人間は外からの指示にとどめてください。

 この実験に用いるランクF職員は、心臓の機能に問題がないかつ精神力が高い者を選んでください。


 当特異体は山岳地帯にある診療所で発見されました。発見に至るまでの経過は、その診療所での患者の死亡率がある年から急激な増加を見せたことによるものです。死因はすべて心不全で、年齢や性別、持病の有無など関係なく発生していました。

 インテリゲンツィアから調査班を派遣し、当特異体の発見に成功しました。当特異体は前述の通り、瓶に詰められており、診療所の薬品棚の最上段の右端に保管されていました。

 調査班は確保に動きましたが、一人が瓶に触れたところ、当特異体の異常性が発現し、触れた職員は胸を押さえて呻きながらのたうち回り、約三十秒後に一切の動きをしなくなりました。それから症状が伝播していき、同じ空間にいた職員も同様の症状を訴え、死亡しました。死因はすべて心不全と診断されました。

 インテリゲンツィアは追加で職員を派遣して確保に動きましたが、三度の失敗を重ねた後、成功しました。一度目は情報伝達が不十分なうちに実行して瓶に触れた結果、派遣部隊の十二名が全滅しました。二度目は機械を用いて動かすことになりましたが、機械の操縦者が同室にいたことにより、操縦者であるランクF職員一名が死亡しました。三度目は屋外から部屋へドローンを飛ばして移動を試みましたが、窓から侵入させたことにより、窓から五十メートル以内の距離の屋外で待機していた操縦者及び職員の計二十八名が心不全で死亡しました。

 結果、屋内に箱を取り付けたドローンを設置して窓及び扉をすべて閉鎖した後、ドローンを飛ばして棚にぶつけて強引に箱に瓶を収納して回収に成功しました。


 実験により、以下の情報が得られました。

 人間、人間以外の哺乳類、軟体動物、環形動物、節足動物、棘皮動物、プラナリアに接触させました。結果、人間、人間以外の哺乳類、軟体動物、環形動物、節足動物は例外なく五分以内の絶命が確認されました。逆に棘皮動物、プラナリアでは二十四時間接触させましたが、変化は見られませんでした。

 原則、生命体が瓶に接触することで異常性が発現することが判明しました。心臓の有無で死亡するかどうかが決定されると思われます。これは金属製などの機械を使用して接触した場合は起こりません。しかし、特異性の発現に起因するものが金属製の手袋などをつけて接触した場合は特異性によって例外なく死亡します。

 影響を受けるものが接触した場合、当特異体の異常性は存在する空間の半径五十メートル以内にいる影響される存在すべてに適用されます。空間の判定は、扉及び窓を特異体に認識された場合に、それらが空いていると、その外まで範囲が及びます。閉まっていた場合は当特異体が存在する空間のみ特異性の影響が及びます。扉や窓の閉鎖しているかどうかの認識の基準は、その当該面積が九十九パーセント以上が覆われていた場合に閉じていると認識します。

 絶命までの時間は、特異性の影響を受けた者の精神力に左右されます。心身ともに健康な人間は、死亡に至るまで五分四十三秒かかりました。身体に欠損がある人間については、程度に関係なく時間に違いには見られませんでした。就労に問題はない程度にストレスを抱えた人間は二分二十四秒でした。鬱病と診断された人間で、軽度の場合は一分三十六秒、中度の場合は五十六秒でした。重度の場合は二十六秒程度になりました。これにより、精神状態に非常に影響することが判明しました。


 当特異体の確保及び収容及び観察により百五十二名のランクF職員、八名のランクE職員、二名のランクC職員、十四名の武装戦闘員、一名の博士が殉職しました。

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