第260話 ふふ、ウチで待っていますね。

時計を見ると12時30分。

ゼロガーデンは13時30分くらい…同じくらいの時間のはず。

1日で唯一ゼロガーデンと時間が重なる時間帯。


昨日は帰ってきた事をタツキアの人達に報告をした。

雑貨屋のお婆ちゃんから「見ていたよ!あの大立ち回り!彼氏と2人で頑張っていて凄かったよ!」と言われてあの戦いがセカンドガーデン全域に映像として流されていた事を知った。


その後はどこに行っても何を話しても途中からツネノリ様との事を聞かれてしまった。

まあ、これだけ周りの人が知れば鈍感男のツネノリ様に寄り付く女性は居ないだろう。


今は暇すぎて家の掃除も客室の掃除も済ませてしまった。

昼食はちょっと早目に取ってしまって、今はすることが無い。


そう言えば、ツネノリ様に私の部屋を掃除させようとした話には驚いた。

「困るなら普段から手を抜かなければいいのよ」とお母さんが言って笑う。


とりあえず困った。

これから先はプレイヤーに混じって魔物を倒したりしても許されるのだろうか?

今のままでは身体が鈍ってしまう。


そう思っていると部屋の隅に置いた鎧から「今行ってもいい!?」と千歳様の元気な声が聞こえてきた。

「はい!どうぞ!」


その瞬間に私の部屋に千歳様が入ってきた。

千歳様は手に靴を持っている。

「こんにちはメリシアさん」

「千歳様、いらっしゃいませ」

今日の千歳様はお母様の服を着ていてとても可愛らしくて戦いとは縁遠く感じる。


「あの…、お一人ですか?」

つい気になって聞いてしまう。


「ああ、ごめんね。こっちにきて…」

そう言うと私の手を取って玄関に駆けて行く千歳様。


「何走ってんだよメリシア!運動したけりゃ外に行け外に!」

居間からお父さんが顔を出して怒る。


「おじさん!お邪魔してます!ごめんね!」

「お?千歳様じゃないかい!いらっしゃい!今日の服も可愛いね!」

「ありがとう!」


そして玄関に着くと「いいよー」と声を出す。


すると次の瞬間には「お邪魔する」と言ってお母様と勇者様がやってきた。


「お母様!勇者様!」

「こんにちはメリシア。調子はどうかな?」

「ここがメリシアの家か。素晴らしい造りだな。ゼロガーデンには無い造りだ」


「なんだ?なんだ?」

そう言ってお父さん達が出てくる。


「勇者様!?」

「どうしました?」

「いきなりすまない。世界の壁が低くなったから折角だから遊びに行こうと千歳が言い出してな…」


「メリシアさん、洋服買いに行こう!スタイル変わったから洋服もカリンさんとマリカさんが作ってくれた服しか無いんでしょ?」

「その為に来てくれたんですか?」


「うん!みんなでセカンドガーデンを満喫したいの!おじさん!おばさん!メリシアさんを明日の朝まで連れて行ってもいいかな?」

「ええ、退屈で仕方なさそうですから連れて行ってくださいな」


「やった!センターシティの洋服屋さんに行こう!」

「え?でも私はあまり持ち合わせが…」


「大丈夫だよ。私もツネノリも凄い額持っているしいざとなったらお父さんが居るから洋服屋さんを丸ごと買えちゃうかもよ。ふふふ」

「えぇ!?そんなにですか?」


「だから遠慮しないで!大丈夫だよメリシアさんの服ならツネノリが喜んで出してくれるよ!」


「あの…」

「何?申し訳ないなんて無いからね?」


「ツネノリ様は?」

「そろそろだと思うよ。

意地悪して連れて来なかったんだよね」


「はい?」


「先日、キヨロスの奴が言っておったろう?ツネノリに瞬間移動の才能が無いと。

千歳が練習も兼ねてメリシアの所に行くと言い出してな」


「私は今も見ているけど、家で唸っているよ。メリシアさんには会いたいのに飛ぶ勇気が足りないみたい」

「まぁ、そうなんですか?」

つい嬉しくて笑ってしまう。


「メリシアさんは次元球の次元移動は出来たよね?」

「はい」


「ここからツネノリは感じられる?今日は次元球でもいいよ」

「はい。見えます」


「流石、そこがルルお母さんの家だからね。先に行き先登録しちゃおうか?」

「はい?」


「ふふふ、それよりも」

そう言った千歳様がニヤッと笑う。


「千歳様?」

「メリシアさん、今からルルお母さんの家に飛ばすからツネノリに挨拶だけしてここに戻ってきてね。

手助けしたらダメだからね!

ツネノリの為に我慢だからね!」


「はい」

「よし!神如き力!メリシアさん行ってらっしゃい!」


私はその声で目の前が光ると目の前にツネノリ様が居て千歳様の言う通り唸っていた。


「ツネノリ様」

「メリシア!どうして?」


「ふふ、ウチで待っていますね」

そう言って頬にキスをしてからジョマ様に貰った「瞬きの腕輪」に意識を向ける。

ウチの玄関のイメージはすぐに出来る。

「【アーティファクト】」


あっという間にウチの玄関に帰ってくる。

「お帰りなさいメリシアさん。

メリシアさんは上手にアーティファクトを使うよね」

「はい。ありがとうございます」


「ツネノリー、早くしなよー」

わざとらしく千歳様が声を出す。


「あ、飛ぶみたい。みんな気をつけてね」

その声で皆に緊張が走る。



「バカ!ツネノリ違う!」

「千歳様!?」


その声の直後に遠くで聞こえる「わぁぁぁっ!!?」と言う声と水音。


「ツネノリ様!?」

「温泉に落ちた」


「マジかよ」

「本当に才能が無いのだな」


そんな声を聞きながら温泉に向かう。

なんとツネノリ様は女湯に落ちていた。


「やぁ、メリシア」

「大丈夫ですか?」


「キヨロスさんからも先に高速移動を覚えたせいか才能が無かったと言われていたから何となく覚悟は出来ていたから受け身はとれたよ」


「もう、お客様が居なくて良かったですよ。

何処を狙ったんです?」


「玄関の外を狙ったんだ」

「それでお風呂場ですか?

もう、仕方のない人」


見れば見るほど新しい顔を見せてくれるツネノリ様。

私はビショビショになって照れ笑いをしているその顔にすらドキドキしてしまう。

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