第217話 前座相手に苦戦なんか出来ないってば。
多分、メリシアさんの剣は私たちのものに比べると一段以上下になる。
見た感じ身体能力は鎧を着ていると私達より圧倒的に高い。
ゼロガーデンで記す者から読ませてもらったマリオンさんの能力がそのままメリシアさんに当てはまると思っていいだろう。
今はツネノリが2体目の悪魔を蜂の巣にしている。
多分ツネノリはこのまま暴れさせた方がいい。
問題はメリシアさんでそれを何とかするのが私の役目だ。
今は「究極の腕輪」のお陰で全力を出しても辛くない。
「ツネノリ!」
「なんだ?」
「役割変更!いい!?私4体、ツネノリ6体、メリシアさんは2体のつもりでいてね!」
「了解だ」
「千歳様!?」
「メリシアさんの剣と盾を見ていると閃光爆裂に備えるのは危険だからそうしたの」
「でも!」
「冷静に答えて。
メリシアさんはトレーニングで戦った時に閃光爆裂を何回防いだの?その盾で何回防げると思う?」
「…」
「メリシア答えるんだ」
「…トレーニングでは2回防ぎました。
見立てでは3回がいい所だと思います」
やはりだ。
回数限定は笑えない。
自身の限界を認めた事が悔しかったのだろう。
メリシアさんは声を震わせてしまう。
「悔しいです。
折角お役に立てると思ったのに!」
あー…、そうなるよね。
「泣かないで。私とツネノリが何とかするから」
「え?」
「ツネノリ、剣はあと何本出せる?」
「なに?」
ツネノリは器用に悪魔の攻撃を回避しながらこちらを見る。
「今は限界がないが…」
「なら一本!私は一枚出すから!」
そして私は盾を一枚出してメリシアさんの前に送る。
「千歳様?」
「これとメリシアさんの盾で凌げるよね?でも自動で身を守ってもらえる類いと思わないで。
メリシアさんから盾の範囲に入りに行くイメージでいてね」
「はい!」
「ツネノリ!早く剣!メリシアさんの腕に着けるの!」
「そう言うことか!」
ツネノリの光の剣がメリシアさんの腕に着く。
「メリシアさん、ちょっとそれで斬ってみて。後は内側に自分の光の剣も出して強度を増してね」
「ツネノリ様の剣…やってみます!」
そしてメリシアさんが本気の動きを見せる。
赤と黄色の光が合わさって出来た橙色の剣は斬れ味も申し分なく黒い悪魔に刺さる。
「やれます!これなら私にもやれます!」
嬉しそうに動くメリシアさん。
「ツネノリ、配分は6体、3体、3体にするからね」
「了解だ」
だがそうは上手くいかない。
「特別枠ぅぅっ!!」
ある程度はジョマの指示で待てをしていたのだろう。
痺れを切らしたクロウが迫ってきた。
「女ぁぁっ!お前からだ!!」
うわぁ〜…恨まれてる。
そんなに挑発したのがダメだったかな?
私は声に出さずにジョマに聞く。
「質問!コイツは暴走するの?」
「いいえ、最終戦ですもの。もっと凄いものよ。うふふふふ」
「んじゃあ、やっぱり倒してからが本番だ」
「そうなるわね。千歳様」
「何?」
「楽しいわ。私今、凄く楽しい!」
「そうだよね。そうなって欲しくて勝負したからジョマが喜んでくれて私も嬉しいよ」
「早く終わらせてね。待っているわ」
とりあえず暴走は無いと。
「ツネノリ!」
「今行く!」
「違う!役割変更!私がクロウ!ツネノリ達が残りの悪魔!やれるよね?」
「俺達は余裕だが千歳はやれるのか?」
「前座相手に苦戦なんか出来ないってば」
「前座だとぉぉぉ!!?女ぁぁ!!」
あ、聞かれた。
また挑発したみたいになっちゃったよ。
まあいいや。嘘はついて居ない。
「早くおいでよ。倒してあげる」
クロウはジョマに頼んだのか私達との戦闘を意識した戦い方を練習していたみたいで光の剣を器用にかわす。
成る程。
流石に一瞬では倒せないか。
戦い方を変える事にする。
私は一息入れて武器を変える。
「イメージ。爆発する奴。近づいただけで発動【アーティファクト】!」
形はいつもの光の剣よりやや小ぶりだ。
「小さくして速度を上げて当てるつもりかよ女ぁぁ!」
成る程、そう取られたか。
だが甘い。
そんな訳はない。
私が剣を飛ばすとクロウは紙一重で回避する。
もう一度言う。
甘い。
今度の剣はそう言う類いではないのだ。
かわした瞬間、クロウの間近で起きる大爆発。
クロウは黒い血を出しながら苦しむ。
「何…?」
今度の剣は近づいただけで爆発する剣だ。
別に剣の形は不要だったがいかにも爆弾と言う形にして警戒されてはつまらない。
「総攻撃!」
私は出した剣を全てクロウに向ける。
クロウが必死にかわすのがわかる。
いずれ当たるから頑張ってかわしてもらおう。
「舐めるな!爆裂!」
だが長期化する前に爆裂で撃ち落とされた。
剣は地面に当たる時に爆発してしまう。
「ざまあみろ女ぁぁ!」
クロウ、嬉しそうだなぁ…
ジョマはジョマで器用に私たち3人の戦いを実況している。
とても嬉しそうで何よりだ。
「じゃあ次行くよ」
私がそう言うより早く殴りにくるクロウ。
成る程、しっかりと研究をしてきた訳だ。
だが何度でも言う。
甘い。
「ミニ砲台!【アーティファクト】!」
私は12個のミニ砲台を作る。
勿論弾は出る。
それも爆発する奴だ。
「十字砲火!」
同士討ちにならない位置と角度でクロウに弾を撃ち込んでいく。
「ぐぁぁぁっ!」
クロウはボロボロになって膝をつく。
「もう寝てなよ。アンタは強いけど私には勝てないってば」
私はクロウを気遣って声をかける。
これで諦めてくれたら万々歳だ。
「またバカにするか女ぁぁ!!」
「え?なんで?」
労いの言葉でクロウがキレた。
怒らせたつもりは無かったのでこれには驚いた。
「お前はもういい!あの新入りだ!赤い奴ぅぅぅぅっ!」
クロウは急に飛び起きるとメリシアさん目掛けて走っていく。
「嘘でしょ!?」
私は目でメリシアさんを見ると剣の切れ味が良くなった事でサクサクと黒い悪魔を倒している。
そう言えば今回の悪魔は色の変化が無くて急に倒れて終わる。
これも何かの仕込みなのだろう。
そこに来たクロウを見たメリシアさん。
「遅いです」と言ってインファイトでクロウを圧倒する。
クロウがジャブからストレートを打ったりしているがその全てを軽々とかわし、しかも都度斬り込んでいく。
嘘…、何あの強さ。
剣の切れ味が良くなっただけであの強さは反則級だ。
「もう寝てください!」
そう言ってなます斬りにした所で腹部に剣を突き立てる。
私と違って動きに容赦がない。
「【アーティファクト】!」
メリシアさんが唱えるとバチッという音から始まってクロウの身体を雷が走る。
やはり容赦のないメリシアさんは凄い。
暫くクロウの身体に雷を流して動かなくなった所で剣を引き抜く。
クロウはビクともしない。
だが終わらない。
メリシアさんは更に飛び上がるとクロウに向けてアーティファクト砲を撃ち込む。
爆音の後で本格的にボロ雑巾になり果てたクロウの姿がある。
「ふぅ、終わりました!」
溌剌とした声のメリシアさん。
とても嬉しそうだ。
「エゲツない」
私は思わずそう言ってからメリシアさんの所に行く。
残りの悪魔は二体居たが両方ともツネノリを狙って居たので生暖かく見守ろう。
「ねぇ、メリシアさんは雷のアーティファクトが使えるの?」
「はい。神様からも適正があるって言われましたし、この鎧のここ」
そう言って左肩を指差す。
「ここにあるのは擬似アーティファクトで火とか雷とかを溜めて置けるんです。
今は雷ですが結構使ってしまいました」
「じゃあツネノリに補充して貰わないとね」
「そうして貰えると助かります」
「倒したぞ」
そう言ってツネノリがこっちに来る。
「お疲れー」
「お疲れ様でした。ツネノリ様」
「多分次が始まるからさ、ツネノリはその前に雷を補充してあげてよ」
「なんの話だ?」
メリシアさんがもう一度説明をすると「そういう事なら」と言ってツネノリが雷の力を補充する。
「これ、相当量が入るな」
「それを流されたんだ…、山田も大変だね」
肩に雷が入り切った所でジョマが動く。
とても嬉しそうでニコニコが止まらないのが見て取れる。
私は完全解決に確実に向かっている事が嬉しくなる。
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