第215話 きっとみんなの努力が報われた瞬間だ。
「メリシア、そろそろだ。
ツネノリはもう2度ダウンした。
鎧を着始めて」
「はい」
映像の中でツネノリは2度目のダウンを取られていた。
ジョマとの話し合いでは後2度、4度目でメリシアを投入する。
「ツネノリが4度目のダウンを迎えた瞬間に全速力で走って。
僕が勢いのついた状態でセカンドガーデンまで送るから」
「よろしくお願いします」
「メリシア」
「お母様」
「すまない。ツネノリの事をよろしく頼む」
「はい」
ルルが申し訳なさそうにメリシアに声をかける。
「本当、申し訳ない。俺も行けるものなら行きたいのだが…」
そう言ったツネジロウはルルに睨まれていた。
「2人とも、僕もいるから大丈夫だよ」
僕がそう言うと2人から凄い目で見られる。
「何その目、酷くない?」
そんなやり取りをしながら僕は手紙をチトセの所に送ったり忙しい。
チトセなりに努力しているのはわかるのだが、子供以上大人未満と言った内容で、あと一声欲しい。
アーティファクト・キャンセラーの仕組みに気付けた所は評価できるが、打開策まで届かない点なんて正にそれだ。
14歳と言う年齢からすれば恐らくフィルさんやリーンなんかは十分やれていると言うだろうが、それではダメだ。
チトセには立て込んでいる事を伝えて放っておく事にした。
メリシアはその間に鎧を着込む。
「軽装の鎧の上に着るから苦しいかと思いました」
ガミガミ爺さんを見ながらそう笑う。
「バカヤロウ、そんな二流みたいな真似しねえよ。鎧が戻ってきたらすぐにいつものサイズに調整しておいてやるよ。
アーティファクトが戻ったら再度着るんだろ?」
「はい。よろしくお願いします」
「折角ツネノリの前に立つんだから見せ場作らねえとな!」
「メリシア、これが本番だね。
気をつけてね。
終わった後はこっちに戻れるのかお家に帰るのかわからないけどさ、お姉さん達はいつでも応援しているからね」
「ありがとうございます」
メリシアがみんなと別れの挨拶をしている。
映像のツネノリは4度目のダウンを取られていた。
「メリシア!出番だ!どこからでも良い!全力で走るんだ!
空に出すから着地と衝撃に気をつけて!」
「はい!よろしくお願いします!!」
そう言うと神殿の二階から下り階段の勢いを使って全速力で降りてくる。
「「瞬きの靴」目標はツネノリのそば、上空。…行ける【アーティファクト】!行くんだメリシア!」
「はい!」
その声でメリシアの姿は消えて直後に映像から地表への激突音とツネノリの驚く声が聞こえてくる。
それに合わせるように鎧が返ってきてガミガミ爺さんが急いで調整を始める。
「成功だね。ツネノリ驚いてるよ」
「うん、ジチさんのお陰だよ」
その後はツネノリがメリシアに会えて嬉しそうなのに感情に出し兼ねたり、煮え切らない態度にチトセが怒ったりしたのを見た。
メリシアはさっきルルとツネツギが見せた姿に心打たれたと言って自身もツネノリとそんな仲になりたいと言い出す。
「子供達に言われると恥ずかしいのお」
「なんだアレだけ大口叩いて恥ずかしいのかよルル。
とは言え俺とルルだってお似合いだよな?」
「ほら!ツネノリ!!メリシアの気持ちに応えるんだよ!」
「もう!ルルの奥手とツネツギの鈍感力なんて似なくて良いとこ似ちゃったからだらしない!」
「マリオン、ジチ…、いちいちこちらを見るな」
「…なんかすまん」
「まったくえげつねえな…、アイツら周りも見ないで見つめ合いながら邪魔する奴を斬り刻んでやがる」
ガミガミ爺さんが呆れながら鎧を調整してる。
「あー、もう!煮え切らない!」
「ハッキリしなよツネノリ!」
カリンとマリカもツネノリにイライラしている。
映像の中でツネノリは何かに気付いたようでルルとツネツギの事を出して自分もメリシアとそうなりたいと言った。
そして戦場のど真ん中でメリシアを抱き寄せて「済まないが最後まで付き合ってくれ。そして俺が死ぬような時は一緒に死んでくれないか?」と言い切った。
多分、二人の思いは結実したのだろう。
きっとみんなの努力が報われた瞬間だ。
「まあまあかな?よかったなツネノリ」
つい映像を見て呟いてしまった。
「どう?満足かなキヨロスくんは?」
「え?」
「ジョマとこの状況を仕組んだでしょ?お姉さんにはわかるんだからね。
でもまあこの先はリーンちゃんじゃないとわからないかな。
リーンちゃんならどう思っているかまでわかるんだよねぇ」
ジチさんはちょっと悔しそうにリーンの名前を出して笑う。
「80点かな」
「あら辛口だねぇ。
ツネノリはキチンとメリシアの想いに応えてあげたんだよ?」
「それだけじゃダメだよ。
死ぬ事なんて考えないで最後まで守る事、相手を蹴散らす事だけ考えれば良いんだよ。
その為に皆で鍛えたんだから」
「まあそうかも…」
「でしょ?さて、僕は次に行くよ。ジョマ!」
「はいはい。なぁに?」
「あの部屋限定で良いからチトセと話がしたいんだ。手紙は時間がかかって煩わしい」
「いいわよ」
「ありがとう」
「いいえ、王様は80点なのね」
「ジョマは?」
「85点かしら?あの2人なら上手くやれば勝てるのに勝利の可能性を模索しない所が減点ね」
僕は「成る程、参考になったよ」と伝えてチトセに準備を促す。
チトセは待ちきれない感じで今すぐに行きたいと言うのだがツネノリはまだそのタイミングじゃないから我慢をさせる。
苛立つチトセを無視して、アーティファクト・キャンセラーに一撃を入れるように指示をする。
そして5度目のダウン。
仲間達のチトセを呼ぶ声。
よし、ここが劇的なポイントだろう。
チトセに無効化空間を作らせる。
「「瞬きの靴」、千歳をアーティファクト・キャンセラーの前に送りつける!!後は上手くやって見せるんだ!!行けチトセ!【アーティファクト】!!」
セカンドに着いたチトセはジョマにルール変更を申し出てからこん棒でアーティファクト・キャンセラーを殴る。
「今だ!【アーティファクト】」
僕は「究極の腕輪」の効果範囲をツネノリ達の次元球から出した。
これによってあの3人の周りだけはアーティファクトが使えるようになる。
「アンタ、何をしたの?」
「限定的にだけどアーティファクト・キャンセラーを無効化してやったんだ」
「え?何言ってんの?」
「え?今忙しいから少し待ってよ。
チトセ、よくやったね。
僕がココからアーティファクト・キャンセラーをなんとかしてやったよ。
だから次元球から声が聞こえるだろ?」
「うん!ありがとう王様!反撃開始!【アーティファクト】!!」
チトセはイキイキと光の剣を出して飛ばしている。
「ツネノリも聞こえるよね?次元球を通じてアーティファクト・キャンセラーを無効化してやった。
まず二つ。
一つはメリシアの横に行け。
もう一つはもう力が使える。
安心して奴らを蹴散らすんだ!」
ツネノリは少し戸惑った後で8本の剣を出してプレイヤー達を斬り裂きながらメリシアの元に行く。
「ガミガミ爺さん!鎧いいよね!?」
「おうよ!雷も満タンだぜ!」
「メリシア、鎧を送るよ。
ツネノリに飛ばして貰って」
「はい!ツネノリ様、私を空中に飛ばしてください!」
ツネノリは戸惑いながらメリシアを空に飛ばす。
「よし!「瞬きの靴」!先に鎧を回収、そのまま足から鎧を装着していく!【アーティファクト】」
そして鎧を着込んだメリシアはツネノリと一緒に敵を次々と倒して行く。
「え…、鎧を空中で着替えさせたの?」
「うん、やったら出来たよ」
「アンタ…出来たって…嘘でしょ?あの鎧は着るの大変なんだよ?」
「うん、ウチにも1着あるし。前にフィルさんが着るの大変そうだから練習させて貰ったんだよね」
「……非常識」
「だな、小僧はなんでもやりやがる」
2人とも酷くない?
「所でさあ!何でアーティファクトが使えるの!?」
「ああ、アーティファクト・キャンセラーからはアーティファクトを使えなくする波が出ているアーティファクトなんだよ」
「波?」
「うん。前に使われた時にカムカは力技で破壊して死にかけたよね?」
「うん。あれ大変だったんだからね」
「あのカムカで大変なんだから僕には力技での破壊は難しいし、それに破壊時に出る衝撃波で死ぬのは御免だから神の使い、授ける者にアーティファクト・キャンセラーが何かを聞いてみたんだよね。
そうしたら波だって教えてくれたからこの方法を思いついたんだ」
「え?だってアーティファクト・キャンセラーは破壊してもう無いのに聞いたの?」
「何言っているの?
マリオンだって平和に甘えずに修行を続けただろ?
それと同じだよ。
別の神が攻めてきてアーティファクト・キャンセラーを作ったらどうするのさ?現にジョマは作れただろ?
とりあえず打撃で波を一瞬乱してその瞬間に「究極の腕輪」で自分の周りだけアーティファクト・キャンセラーを無効化する空間を作ってしまう事にしたんだよ」
「非常識…、でも凄い」
マリオンが感嘆してルルやツネジロウが感謝を述べてくれた。
「いやはや、本当になんとかしてしまったねキヨロスは…」
神様も僕に驚いていた。
神様は僕の創造主様なんだけどなぁ…
「それで、この先ってどうなるのかな?」
僕はマリオンの疑問に答えずにジチさんを見る。
「はい?」
ジチさんは目が合うと微笑んで聞いてくる。
「ジチさん」
「どうしたの?褒めて欲しいのかな?キヨロスくんは本当に凄い自慢の旦那様だよ」
そう言って抱きしめてくれる。
「ごめんね。ちょっとだけこの先にやる事あってさ。ここで待っていてくれる?」
「おや、まだ出番があるんだね」
「うん。ツネジロウ、ルル。ジチさんをよろしくね」
僕はジチさんにキスをして離れる。
「ちょっと、なんで私の質問は無視するしジチの事も頼まないかな?」
「マリオンは僕と行くんだよ?」
「はぁ?」
「マリオンも暴れ足りないだろ?」
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